2022-08-25 東京大学
1.発表者:
Yan Minglu(日本学術振興会 外国人特別研究員)
小松 紀子(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学講座 助教)
塚崎 雅之(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学講座 特任助教)
高柳 広(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学講座 教授)
2.発表のポイント:
◆組織破壊型の線維芽細胞がつくられる仕組みを世界で初めて明らかにしました。
◆関節リウマチの骨破壊を誘導する、組織破壊型の滑膜線維芽細胞をつくるもととなる遺伝子 ETS1 を同定し、滑膜線維芽細胞の ETS1 を欠損させると関節炎の骨と軟骨の破壊が共に抑制されることを明らかにしました。
◆関節リウマチだけでなく、腸炎やがんなどをはじめとするさまざまな疾患において、組織破壊型の線維芽細胞に基づく病態の理解と新しい治療法の開発に大きく貢献することが期待されます。
3.発表概要:
線維芽細胞は、これまで単に体を構成する足場として働く細胞と考えられてきましたが、近年の解析技術の進歩により、病気の組織には組織破壊型や炎症型などの悪玉タイプの線維芽細胞が存在し、関節リウマチ(注 1)をはじめとする多くの疾患をひきおこすことが明らかになりつつあります。東京大学大学院医学系研究科 免疫学講座の高柳 広 教授らの研究グループは、関節リウマチにおいて滑膜線維芽細胞(注 2)は炎症を誘導するだけでなく、破骨細胞(注 3)誘導因子 RANKL(注 4)を産生するおもな細胞として骨破壊を誘導することを報告してきました。しかしながら骨破壊を誘導する、組織破壊型の滑膜線維芽細胞をつくるもとになる遺伝子はみつかっていませんでした。
今回、高柳教授らは、滑膜線維芽細胞において RANKL や軟骨を破壊するたんぱく質の発現を誘導する主要な遺伝子として ETS1 を同定しました。滑膜線維芽細胞のみ ETS1 を欠損させたマウスを新たに作製し、関節炎を誘導すると炎症には影響がないものの骨と軟骨の破壊が共に抑制されたことから、ETS1 が骨・軟骨を破壊する組織破壊型の滑膜線維芽細胞の機能や運命決定を司る遺伝子であることが明らかとなりました。さらに ETS1 は関節リウマチだけでなく腸炎やがんの病態形成に関わる組織破壊型の線維芽細胞のサブセットにも高く発現しており、組織破壊型の線維芽細胞の形成を通じてさまざまな疾患に関わる可能性が示唆されました。これらの研究成果は組織破壊型の線維芽細胞を標的とした治療法の開発に大きく貢献するものと期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(15H05703、21H05046、21H03104、 22H02844、20K21515、19J21942、22F22108)や、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業における研究開発課題「関節リウマチの病原性間葉系細胞サブセットを標的とした骨破壊治療法の開発」(研究開発代表者:高柳 広)、革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「組織修復型免疫細胞の解明とその制御による疾患治療の開発」(研究開発代表者:高柳 広)などの支援を受けて行われました。本研究成果は、2022 年 8 月 23 日(米国東部夏時間)に Nature Immunology のオンライン版に掲載されました。