なぜ指は5本になるのか? 体の座標を決める仕組みの解明

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2022-10-11 東京大学

発表者
王 碩 東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻 特任研究員
田中 庸介 東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻 講師
徐 璎 東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻 特任研究員(研究当時)
竹田 扇 東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻 准教授(研究当時)
廣川 信隆 東京大学名誉教授/東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻 特任研究員

発表のポイント
1, 多指症を生じる KIF3B 機能不全マウスを用い、体肢芽におけるソニック・ヘッジホッグ (SHH) タンパク質の濃度勾配の可視化により、指が 5 本に保たれる仕組みを解明しました。
2, SHH 濃度勾配の形成原理を、体肢芽の外周の「走路」と中心部の「砂場」の二層からなる「陸上競技場モデル」で説明しました。機能不全マウスでは Talpid3 タンパク質が運ばれないため中心部の細胞が SHH 粒子をトラップできず、SHH 濃度勾配が保たれず多指症を発症しました。
3, 形態形成因子(モルフォゲン)の濃度勾配形成メカニズムは、これまで発生生物学の大きな謎とされていましたが、今回、細胞内で物を運ぶ分子モーターの研究から、画期的な解答がもたらされました。がんや統合失調症の治療や再生医療など、臨床への応用も期待されます。

発表概要
ソニック・ヘッジホッグ(SHH)タンパク質は、発生の初期段階において重要な役割を果たす形態形成因子(モルフォゲン) 注1の一つです。体肢芽や脊髄などにおいて、ある 1 か所から放出された後、組織内に濃度勾配を形成し、器官のデザインを決定する役割を果たしています。モルフォゲン濃度勾配の形成不全は、多指症をはじめ多くの奇形の原因となります。
東京大学大学院医学系研究科の廣川特任研究員は、細胞内の微小管というレールの上で様々な蛋白質を輸送する分子モーター群、KIFs を発見しその働きを長年にわたり研究してきました。今回、グループの田中庸介講師、王碩特任研究員らが、主要な分子モーターの一つである KIF3B の機能不全マウスを作製したところ、胎児期の四肢の原基である体肢芽において SHH タンパク質の濃度勾配が崩れ、多指症となりました。マウスの胚操作、細胞の初代培養、電子顕微鏡法、蛍光寿命顕微鏡法など、さまざまな実験手法を駆使して SHH タンパク質をめぐる分子群の挙動を解析し、その濃度勾配形成メカニズムの解明に世界ではじめて成功しました。
本研究の成果は「いかにしてモルフォゲンの濃度勾配ができるか」という発生生物学の根源的な課題への一つの回答であり、分子発生生物学の発展に大きく貢献するものです。今回発見した SHHタンパク質の分泌制御機構は、抗がん剤の開発など、種々の臨床応用も期待されます。

本研究は、科研費(JP23000013、JP16H06372、JP22K06246:廣川)、AMED 融合脳 統合失調症・発達障害プログラム(JP20dm0107084:廣川、田中)、東京大学 GAP ファンド(第8期:田中)、AMED 橋渡し研究シーズ A(JP22ym0126805:田中) の支援により実施されました。

詳しい資料は≫

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細胞遺伝子工学
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