日本のがんゲノム医療の成果に世界が注目 米国癌学会旗艦誌Cancer DiscoveryにC-CAT紹介論文が掲載

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2022-11-04 国立がん研究センター

発表のポイント

  • 日本のがんゲノム医療の成果が世界から注目されており、米国癌学会旗艦誌Cancer Discoveryに招待され、がんゲノム情報管理センター (C-CAT)の活動を紹介する論文が掲載されました。
  • 国民皆保険制度のもと、2019年より開始されたがんゲノム医療により、既に4万人に及ぶがん患者さんが、がん遺伝子パネル検査を受けられており、患者さんの同意のもと、医療機関、検査企業のご協力により、ゲノム情報と臨床情報からなる世界に類を見ないデータベースが構築されています。
  • C-CATのがんゲノム医療データベースは日々拡充されており、これらのデータを用いた学術研究や医薬品等の開発によって、さらに多くの患者さんに、新しい治療が届けられることが期待されています。
  • 2021年に開始した学術研究や医薬品等の開発への利活用も急速に進み、既に30以上もの施設・グループが活用しています。今後、日本ひいては世界のがん医療の進展につながることが期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)がんゲノム情報管理センター(略称:C-CAT、センター長:間野 博行)の活動について、米国癌学会旗艦誌Cancer Discoveryに11月2日付けで紹介論文が掲載されました。国民皆保険制度のもとでがん遺伝子パネル検査が行われる日本のがんゲノム医療の体制は、世界に類をみない特長あるものとして海外から注目されています。2019年より開始して以来、これまでに4万人に及ぶ患者さんが全国233か所(2022年8月時点)のがんゲノム医療病院(がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院)でがん遺伝子パネル検査を受けられており、患者さんの同意のもと、ゲノム情報と臨床情報からなる貴重なデータがC-CATのデータベースに集積されています。また、2021年10月からはデータの利活用ポータルサイトの運用が開始され、現在、製薬企業を含む30以上の施設・グループによりC-CATデータを用いた学術研究や医薬品等の開発が進んでいます(注1)。このようながんゲノム医療の体制は患者さん、医療機関、検査企業の方々のご協力・ご尽力により実現しているものです。国の政策のもと、着実にがんゲノム医療を推進し、そこから集積されるビッグデータの利活用によって、学術研究や医薬品等の開発を促進することは、日本はもちろんのこと、世界のがん医療の進展をもたらすものと期待されます。

注1:C-CATデータの提供先公開サイト(外部サイトにリンクします)

背景

2019年6月よりがん遺伝子パネル検査が保険診療で用いられるようになり、がん細胞のゲノムを調べてどの遺伝子に変化が起こっているのかを知り、その変化に対応した治療法を選択するがんゲノム医療(注1)が行われています。C-CAT(注2)では、患者さんの同意に基づいて、がん遺伝子パネル検査で検出された遺伝子の変化や臨床情報をデータベースに収集し、それぞれの患者さんの検査結果に対して遺伝子変異の意義や遺伝子変異にマッチする国内の臨床試験の情報を記載したC-CAT調査結果を医療機関に提供してきました。その提供数は、2022年の8月末で約4万件に及びます(注3)。国民皆保険制度の下でこのようながんゲノム医療が行われ、データの集積や利活用が行われていることは世界的に見ても特筆すべきことであり、今回、日本のがんゲノム医療の仕組みについて、米国癌学会旗艦誌Cancer Discoveryに「Perspective(展望)」として発表しました。

発表内容

1.医療機関とC-CATからなるがんゲノム医療ネットワーク

全国のがんゲノム医療病院、検査企業から、C-CATは検査結果、ゲノム元データ、臨床情報を安全な回線を通して受け取ります。受け取った情報をもとに、C-CATはそのそれぞれの患者さんで見つかった変異の医学的な意義と遺伝子変異にマッチした臨床試験の情報を搭載した「C-CAT調査結果」を作成し、各医療機関に提供することで、診療の支援を行っています。

日本のがんゲノム医療の成果に世界が注目 米国癌学会旗艦誌Cancer DiscoveryにC-CAT紹介論文が掲載

がん遺伝子パネル検査の結果は利用規約に基づいてCATSフォーマット(注4)と呼ばれる統一規格で検査企業から収集され、C-CAT内でデータベース化されます。

C-CAT検査データ転送システム利用規約および細則
がんゲノム検査標準化フォーマット(CATS Format)に関して

2.C-CAT調査結果

C-CATは独自の知識データベース(CKDB)を持ち、それぞれの患者さんで見つかった変異の意義付けを行うとともに、変異にマッチした国内臨床試験をjRCT、UMIN-CTR、JapicCTI JMACCT-CTRなどのサイトで公開される臨床試験・薬剤情報から探し出します。この知識データベースは全国から選ばれた専門医からなるキュレーターチームにより定期的に更新され、最新かつ正確な情報を格納しています。

C-CAT調査結果に関して

C-CAT調査結果の画像

このCKDBの情報に基づいて、それぞれの患者さんに対し、C-CAT調査結果が作成されます。患者さんの情報を受け取ってから、C-CAT調査結果が各医療機関に提供されるまでのターンアラウンドタイム(TAT)は平均1.1日です。

3.C-CATポータルサイト(注5)

C-CATには毎月1,500例以上の患者さんの検査結果と臨床情報が集積され、特に、難治がん、希少がんの患者さんのデータが多く集積されています

C-CATポータルサイトデータ数の画像
2022年6月末時点

C-CATは診療検索ポータル、利活用検索ポータルという二つのポータルサイトを通じて、集積されたデータの利活用を進めています。診療検索ポータルは、全国のがんゲノム医療病院向けに公開されており、全国の患者さんのがん遺伝子パネル検査の結果や検査前後に投与された治療薬名や、治療効果、有害事象などのデータを閲覧することができます。また、最新のCKDBに基づき、各患者さんに対しアップデートされた臨床試験の情報を閲覧することができます。

利活用検索ポータルは、国内外の研究施設、医療機関、企業の研究開発を目的に開設され、情報利活用審査会の許諾のもと、匿名化された遺伝子変異情報や使用された治療薬名、治療効果、有害事象、医療機関名などの情報を利用者のPCから閲覧することができます。例えば、免疫チェックポイント阻害薬阻害治療を受けられた患者さんの情報は約4,000例含まれており、治療効果とがんの種類、遺伝子変異の関係などを調べることができます。現時点で、製薬企業を含む30以上の施設・グループがC-CATデータを用いて学術研究や医薬品等の開発を進めています。今後、クラウドを利用したゲノム元データの利用環境も提供させていただく予定です。

ゲノム元データの利用環境の図

今後の展望

日本のがんゲノム医療体制は国民皆保険制度のもとに成り立っており、持続的ながんゲノム医療の提供やデータ集積が達成されています。これは、患者さん、医療機関、検査企業、政府の多大な協力・支援のもと成り立っています。また、日本のがんゲノム医療は、診療ガイドラインの発出、人材育成などにおいて、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会をはじめとした多くの関連学会の支援を受けています。まさにall Japanで日本のがんゲノム医療は進んでおり、C-CATはその基盤として、今後も尽力してまいります。

遺伝子変異マッチした薬剤の推奨図

遺伝子パネル検査を受けられても、遺伝子変異にマッチした投薬を受けられる患者さんの割合 は一部(10%未満)に限られています。しかしながら、例えばKRAS遺伝子が正常の膵臓がんで、様々な治療関連変異が見られるなど、C-CATのデータには多くの治療のシーズ(種)が含まれています。

希少フラクションの治療標的の図

また、臨床現場では患者申出療養制度を利用した受け皿試験として、すでに400名近い患者さんが、がん遺伝子パネル検査で見出された遺伝子変異にマッチした抗がん剤の適応外治療を受けられています(注6)。

今後、C-CATに集積された日本のがん患者さんのリアルワールドデータを国内外の研究機関、企業が利活用されることで、日本国内で多くの臨床試験・治験が行われ、その結果、より多くの患者さんに有効な治療法が届くことを期待しています。C-CATではtwitter(https://twitter.com/NccCat) やホームページ(https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/)を介して利活用を含めた情報の共有に努めてまいります。

謝辞

本発表に際し、以下の方々にC-CAT一同深く感謝申し上げます。C-CATは日本や世界のがんゲノム医療の発展に貢献できるよう、引き続き尽力してまいります。

  • C-CATへのデータ登録、利活用にご同意いただいた患者さん
  • 診療情報等のデータ登録にご協力いただいたがんゲノム医療病院の方々
  • 遺伝子パネル検査のデータを登録くださった検査企業の方々
発表雑誌

雑誌名
Cancer Discovery (11月2日付オンライン版)

論文タイトル
C-CAT: The national datacenter for cancer genomic medicine in Japan

著者
Takashi Kohno, Mamoru Kato, Shinji Kohsaka, Tomohisa Sudo, Ikuo Tamai, Yuichi Shiraishi, Yusuke Okuma, Daisuke Ogasawara, Tatsuya Suzuki, Teruhiko Yoshida, and Hiroyuki Mano(注)(注:corresponding author)

DOI番号
10.1158/2159-8290.CD-22-0417

URL
https://aacrjournals.org/cancerdiscovery/article/12/11/2509/709981/C-CAT-The-National-Datacenter-for-Cancer-Genomic

発表者
国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)

河野 隆志、加藤 護、高阪 真路、須藤 智久、玉井 郁夫、白石 友一、大熊 裕介、小笠原 大介、鈴木 達也、吉田 輝彦、間野 博行

用語解説

(注1) がんゲノム医療
数十から数百個の遺伝子の変化を一度に調べることで、がん細胞におきている遺伝子の変化を調べる検査です。がん細胞の遺伝子の変化、つまり特徴を知ることで、患者さんのがんに適した治療法を検討します。2019(令和元)年から、全国233か所(8月現在)のがんゲノム医療病院(がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院)では保険診療としてがん遺伝子パネル検査を受けられるようになりました。現在では、3種類のがん遺伝子パネル検査が保険診療で用いられており、C-CATはこれら3種類のパネル検査の情報を収集しています。がんゲノム医療病院については以下のサイトに情報を掲載しています。

よく分かるがんゲノム医療とC-CAT(外部サイトにリンクします)

(注2) C-CATについて
2018(平成30)年6月、国によって国立がん研究センター内にがんゲノム情報管理センターが設置されました。当センターは、がんゲノム医療病院で、患者さん一人ひとりのがん遺伝子パネル検査の結果、得られる配列情報および臨床情報を集約・保管し、利活用するための機関です。がんゲノム情報管理センターは、その英語名 Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics の頭文字から、略称で「C-CAT(シー・キャット)」とも呼ばれています。C-CATは、次の三つの役割を持ちます。一つ目は、患者さん一人ひとりの遺伝子パネル検査の結果、得られる配列情報および診療情報を集約・保管したデータベースを厳格に管理・運営することです。二つ目は、がんゲノム医療を行う病院とデータを共有し、がんゲノム医療の質の確保・向上に役立てることです。そして三つめは、大学などの研究機関や製薬会社などの企業で行われる研究開発のための基盤を提供することです。

2018年6月1日 プレスリリース
がんゲノム情報管理センター(C-CAT)開設

(注3) C-CATへのデータ登録状況
がん遺伝子パネル検査を受ける患者さんから同意をいただいた場合、検査データや診療情報がC-CATに登録されます。2022年8月28日までの登録人数は39,431人です。登録されたデータは大切に保管され、患者さんご自身の診療支援と将来の医療のために使われます。また、がん遺伝子パネル検査を受ける患者さんには、C-CATに登録されたご自身のデータを学術研究や医薬品などの開発目的で利用するために第三者に提供すること(二次利活用)に同意いただけるかおたずねしています。登録や二次利活用への同意の状況は、以下のホームページで公開しています。

C-CAT登録状況(外部サイトにリンクします)

(注4) CATS フォーマットについて
C-CATで開発された、主にゲノムデータを対象とするデータ表現形式の統一規格です(https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/jitsumushya/060/index.html)。様々な種類の遺伝子変異や付帯情報を、一つのファイルで表現できます。JSONという一般的なデータ表現形式を応用しています。

(注5) データ利活用について
診療検索ポータル、利活用検索ポータルを通じたC-CAT データの利活用の仕組みに関しては、以下のサイトに情報を公開しております。なお、C-CAT データの利用から生じる成果や知的財産権は利用者に帰属します。

利活用のページ

利活用検索ポータルを通じてC-CATデータを利用している施設・グループ、利用目的に関しては、以下のサイトで公開しております。

C-CAT登録データの提供先(外部サイトにリンクします)

(注6) 受け皿試験について
薬事承認済み、あるいは、評価療養として実施されているがん遺伝子パネル検査を受け、抗がん剤の治療効果が見込まれる遺伝子変異を有することが判明した患者を対象に、それぞれの遺伝子変異に対応する適応外薬を投与し、治療経過についてのデータを収集することを目的とした臨床試験です。患者申出療養制度に基づいて、がんゲノム医療中核拠点病院で行われています。

治療選択肢の可能性を求めて(患者申出療養)

お問い合わせ先

報道機関からの問い合わせ
国立研究開発法人 国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室

C-CAT情報の利活用に関する問い合わせ
国立研究開発法人 国立がん研究センター
がんゲノム情報管理センター 情報利活用戦略室

C-CATからの情報提供
ホームページ 「がんゲノム医療と遺伝子パネル検査」
C-CAT twitter(https://twitter.com/NccCat)

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