皮膚細菌叢への抵抗力の低下が自己免疫疾患発症と関連することを発見~自己免疫疾患発症予防・治療法開発への期待~

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2022-11-14 東北大学,東北大学病院,国立がん研究センター

発表のポイント

  • 自己免疫疾患の発症原因はいまだに分かっていない。
  • 皮膚細菌叢注1に対する抵抗力の低下が自己免疫疾患の全身性エリテマトーデス注2の発症に関わることを発見した。
  • 本研究により、適切なスキンケアが自己免疫疾患の予防となる可能性が示された。

研究概要

自己免疫疾患は、免疫の異常によって自分自身の免疫が全身臓器を攻撃する慢性炎症性疾患です。その発症原因は、いまだ完全には解明されていません。東北大学大学院医学系研究科の皮膚科学分野の照井仁助教、山崎研志(*立つ崎(たつさき)が正式表記)臨床教授、浅野善英教授と相場節也名誉教授らの研究グループは、皮膚細菌叢に対する表皮細胞の応答不良を原因とする黄色ブドウ球菌の皮膚生着数の増加が、自己免疫疾患の1種、全身性エリテマトーデスの発症に関わっていることを明らかにしました。本研究は、自己免疫疾患の発症に皮膚細菌叢が関与していることを初めて明らかにした重要な報告です。本研究によって、全身性エリテマトーデスの予防法や治療法の発展に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2022年10月28日午後2時(米国東部標準時)Science Immunology誌(電子版)に掲載されました。

研究内容

全身性エリテマトーデスは自己免疫疾患のひとつであり、本邦では、約6~10万人の患者が存在すると報告されています。その詳細な病因や病態はまだ十分に解明されていないため、その病態解明と治療開発が喫緊の課題となっています。

東北大学大学院医学系研究科の皮膚科学分野の照井仁(てるい ひとし)助教、山崎研志(*立つ崎(たつさき)が正式表記)(やまさき けんし)臨床教授、浅野善英(あさの よしひで)教授と相場節也(あいば せつや)名誉教授らは、医学系研究科免疫学分野石井直人(いしいなおと)教授、河部剛史(かわべ たけし)准教授、医工学研究科阿部高明(あべ たかあき)教授、国立がん研究センター先端医療開発センタートランスレーショナルインフォマティクス分野山下理宇(やました りう)ユニット長らとの共同研究により、皮膚細菌叢バランスの破綻により自己免疫疾患のひとつである全身性エリテマトーデスの症状が増悪することを明らかにしました。

自己免疫疾患を自然に発症する遺伝子改変マウスの皮膚細菌叢を調べた結果、皮膚細菌叢のバランスが破綻しており、なかでも黄色ブドウ球菌の数が増えていました。このマウスでは、1.黄色ブドウ球菌の増殖を抑制する抵抗力が低い、2.全身性エリテマトーデスに特徴的な自己抗体が産生されている、3.腎障害をきたしている、などの現象が見られました。また、これらの現象が、抗菌薬の全身投与により抑制され、黄色ブドウ球菌の皮膚への塗布により悪化することが分かりました。この結果は、皮膚細菌叢のバランスの崩れと全身性エリテマトーデスの症状悪化に関連があることを指し示す結果です。

次に、黄色ブドウ球菌の皮膚に対する影響を検討した結果、黄色ブドウ球菌の皮膚塗布により皮膚に存在する好中球3が活性化し、好中球細胞外トラップ4を形成していることが分かりました。好中球の活性化に連動し、樹状細胞5とT細胞6が活性化しインターロイキン723やインターロイキン17Aを放出し、全身性エリテマトーデスの症状を形成していることを見い出しました。また、これらの症状はインターロイキン23やインターロイキン17Aの働きを止める抗体を用いることで抑制されることが分かりました (図1)。本研究は、自己免疫疾患に皮膚細菌叢が関わることを明らかにし、さらにはインターロイキン23やインターロイキン17Aが全身性エリテマトーデスの治療ターゲットになることを示唆する重要な報告です。

結論

本研究によって、皮膚細菌叢に対する抵抗力の低下と、全身性エリテマトーデスの発症が関連することを発見しました。このことはスキンケアが自己免疫疾患発症の予防になることが示唆されます。また、全身性エリテマトーデスの症状を抗IL-23抗体や抗IL-17A抗体によって抑制できる可能性も明らかにしました。

支援

本研究は、科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED)などの支援により行われました。

用語説明

注1 皮膚細菌叢
皮膚に存在している皮膚常在菌のことであり、善玉菌と悪玉菌が存在する。

注2 全身性エリテマトーデス
皮膚、腎臓、関節、神経など全身のさまざまな臓器に慢性的に炎症を起こす自己免疫疾患。

注3 好中球
白血球のひとつであり、細菌免疫の主役であるが、近年の研究により自己免疫疾患の発症機序に関わることが判明されてきている。

注4 好中球細胞外トラップ
炎症が誘導されたときに、好中球が自らのDNA、ヒストン、好中球エラスターゼなどを細胞外に放出できることをいう。発見当初は細菌防御に必要な現象のことを指していたが、最近では好中球細胞外トラップの制御不全が様々な自己免疫疾患に関わっていることが明らかになっている。

注5 樹状細胞
抗原提示細胞として機能する白血球の一種であり、T細胞をはじめとする免疫細胞に対して司令塔の役割を担っている。

注6 T細胞
リンパ球の一種であり、普段はウイルスなどに感染した細胞を見つけて排除する機能を持つ。免疫異常によりT細胞が過剰に活性化することで、自己免疫疾患や乾癬などの病態に寄与することが分かっている。

注7 インターロイキン
多彩な生理活性を有するサイトカインと呼ばれる分泌性のタンパク質であり、免疫応答や炎症反応の調節に重要な役割を果たしている。

図1
本研究から明らかになった自己免疫疾患の発症機序の概要
黄色ブドウ球菌の皮膚生着数の増加によりダメージを受けた皮膚は、免疫担当細胞(好中球、樹状細胞やT細胞)の活性化し、インターロイキン-23やインターロイキン-17Aの作用により自己免疫疾患が発症・増悪することが示唆されました。

自己免疫疾患の発症機序の概要

論文題目

Title
Staphylococcus aureus skin colonization promotes SLE-like autoimmune inflammation via neutrophil activation and the IL-23/IL-17 axis

Authors
Hitoshi Terui, Kenshi Yamasaki, Moyuka Wada-Irimada, Mayuko Onodera-Amagai, Naokazu Hatchome, Masato Mizuashi, Riu Yamashita, Takeshi Kawabe, Naoto Ishii, Takaaki Abe, Yoshihide Asano and Setsuya Aiba

タイトル
黄色ブドウ球菌の皮膚生着は好中球活性化とインターロイキン-23/インターロイキン-17軸を介して全身性エリテマトーデス様の自己免疫炎症を亢進する。

著者名
照井仁、山崎研志(*立つ崎(たつさき)が正式表記)、入間田萌花、天貝まゆ子、八丁目直和、水芦政人、山下理宇、河部剛史、石井直人、阿部高明、浅野善英、相場節也

掲載誌名
Science Immunology

DOI
10.1126/sciimmunol.abm9811

研究者情報

東北大学大学院医学系研究科 皮膚科学分野

研究者
照井 仁(てるい ひとし)
山崎研志(*立つ崎(たつさき)が正式表記)(やまさき けんし)

お問い合わせ先

研究に関すること
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野
助教 照井 仁(てるい ひとし)
臨床教授・非常勤講師 山崎研志(*立つ崎(たつさき)が正式表記)(やまさき けんし)

取材に関すること
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室 東北大学病院広報室
国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報室企画室(柏キャンパス)

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