日本のがんゲノム医療の新たな研究成果を世界に発信 がんゲノム医療中核拠点病院の現状分析に基づくエキスパートパネルの課題解決への提言

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2023-03-08 国立がん研究センター

発表のポイント

  • 全国のがんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネル*1の実力を検討するため、50例の模擬症例とその模範解答を作成し、全国12のがんゲノム医療中核拠点病院の各エキスパートパネルの治療推奨と比較しました。
  • その結果、承認されている薬剤があるようなエビデンスレベル*2の高い治療については、各エキスパートパネルの推奨の一致率は91%と良好でした。一方、エビデンスレベルが低い治験などの研究段階の治療の提案については一致率が24%と低いことがわかりました。
  • 各エキスパートパネルでの治験情報の把握が不十分であるためであり、病院横断的なエキスパートパネル間での最新の治験情報の共有が重要であることが明らかになりました。また、病院横断的にエキスパートパネル間での最新の治験情報の共有を行うことで、世界に先駆けて、さらに多くの患者さんにより適切な治療が届けられることが期待されています。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市)は、全国12のがんゲノム医療中核拠点病院の専門家会議であるエキスパートパネルの代表者からなる研究チームを組織し、がんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルの実力を検討するために、50例の模擬症例とその模範解答を作成しました。本模擬症例を用いて、全国12のがんゲノム医療中核拠点病院の各エキスパートパネルでどのような治療が推奨されるかを検討しました。

その結果、研究チームが作成した模範解答との一致率は62%でした。すでに承認されている薬剤があるようなエビデンスレベルの高い治療の一致率は91%と良好でした。一方、エビデンスレベルが低い、治験などの研究段階の治療が提案される症例での一致率が24%と低く、これは各エキスパートパネルでの治験情報の把握が不十分であるためであり、病院横断的なエキスパートパネル間での最新の治験情報の共有が重要であることが明らかになりました。

本研究成果は、米国科学誌「JAMA Network Open」に2022年12月5日付で掲載されました。

背景

がんゲノム医療は、第3期がん対策推進基本計画の分野別施策「がん医療の充実」に掲げられている重要課題です。質の高いがんゲノム医療の提供には、がんゲノム医療中核拠点病院等のエキスパートパネルの質の向上、標準化が不可欠です。

2019年6月よりがんゲノムプロファイリング検査*3が保険適用となり、2022年12月末までに46,000件以上の検査が行われています。しかし、実際にがんゲノムプロファイリング検査に基づいて適合する治療が行われるのは10%未満であると報告されています。 適合する治療の約3分の2は治験などの研究段階の治療であることも報告されています(1)(2)。このため、がんゲノムプロファイリング検査に基づいて最適な治療を検討するためには、治験情報の把握が重要です。

一方、がんゲノムプロファイリング検査の結果を日常診療で用いるためには、がんゲノム医療中核拠点病院等に設置された専門家会議であるエキスパートパネルでの検討が必要です。しかし、全国のエキスパートパネルによる治療推奨には、病院ごとに差がある可能性が示唆されていました(3)。しかし、実際に治療推奨にどの程度差があるのか、なぜ差があるのかについては大規模な検討がなされていませんでした。

国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター「C-CAT登録状況」
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/registration_status/

(1)Naito Y et al., “Japanese Society of Medical Oncology; Japan Society of Clinical Oncology; Japanese Cancer Association. Clinical practice guidance for next-generation sequencing in cancer diagnosis and treatment (edition 2.1)”, International Journal of Clinical Oncology, 2021 Feb;26(2):233-283, DOI: 10.1007/s10147-020-01831-6.
(2)Sunami K et al., “Feasibility and utility of a panel testing for 114 cancer-associated genes in a clinical setting: A hospital-based study” Cancer Science, 2019 Apr;110(4):1480-1490. DOI: 10.1111/cas.13969.
(3)Sunami K et al., “The initial assessment of expert panel performance in core hospitals for cancer genomic medicine in Japan”, International Journal of Clinical Oncology, 2021 Mar;26(3):443-449, DOI: 10.1007/s10147-020-01844-1.

研究方法・成果

厚生労働科学研究費(がん対策推進総合研究事業)がんゲノム医療に携わる医師等の育成に資する研究 大江班 吉野小班 (19EA1007) (以下吉野小班)において、国立がん研究センター東病院・副院長(研究担当)吉野孝之は、全国のがんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルの代表からなる研究チームを組織し、50例の模擬症例を作成しました。同時に、模擬症例に対してどのような治療が推奨され、どのような臨床試験/治験の対象になるかについて、本研究チームで模範解答を作成しました。

これら50例の模擬症例について、全国12のがんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルで治療推奨が作成されました。各がんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルの一致率を、不一致の場合はその原因を検討しました。

その結果、コンセンサスアノテーションとの一致率は平均62% (範囲;48~86%) であり、特に治験などの研究段階の治療についての提案がなされていない (一致率24%) ことが判明しました。また、すでに承認されている薬剤がある標準治療については高い一致率 (91%) であることも判明しました。
がんゲノム医療中核拠点病院一致率エビデンスレベル

展望

エキスパートパネルの治療推奨の現状と課題が明らかになりました。治験などの研究段階の治療についての提案がなされていない (一致率24%) ことから、このような情報収集の方法のためのセミナー実施、情報共有を行うことの重要性が確認されました。

吉野小班では、上述のセミナーとして日本臨床腫瘍学会と共同で、2021年7月4日(日曜日)に「エキパネ道場」を開催し高い評価を得ています。「エキパネ道場」はその後日本臨床腫瘍学会の事業として引き継がれ、第2回が2022年11月6日に開催されました (エキパネ道場ワーキンググループ長 国立がん研究センター東病院 総合内科長 内藤 陽一)。また、吉野小班では、最新の治験情報の共有を行いました。これらの成果によりエキスパートパネルの質向上につながるかについても検討がなされ、治験情報の共有によりがんゲノムプロファイリング検査に基づいて適合する治療が実施される割合が2倍以上に増加することが示されています (4)。

今後も吉野小班が行った治験情報や臨床試験情報の共有を継続的に行っていくアカデミア施設の系統的・持続的な連携を推進してまいります。
(4)Sunami K al., “Chronological improvement in precision oncology implementation in Japan”, Cancer Science, 2022 Nov;113(11):3995-4000, DOI: 10.1111/cas.15517.

発表論文

雑誌名
JAMA Network Open

タイトル
Concordance Between Recommendations From Multidisciplinary Molecular Tumor Boards and Central Consensus for Cancer Treatment in Japan

著者
Yoichi Naito, Kuniko Sunami, Hidenori Kage, Keigo Komine, Toraji Amano, Mitsuho Imai, Takafumi Koyama, Daisuke Ennishi, Masashi Kanai, Hirotsugu Kenmotsu, Takahiro Maeda, Sachi Morita, Daisuke Sakai, Kousuke Watanabe, Hidekazu Shirota, Ichiro Kinoshita, Masashiro Yoshioka, Nobuaki Mamesaya, Mamoru Ito, Shinji Kohsaka, Yusuke Saigusa, Kouji Yamamoto, Makoto Hirata, Katsuya Tsuchihara, Takayuki Yoshino(注)
(注:corresponding author)

掲載日
2022年12月5日

DOI
10.1001/jamanetworkopen.2022.45081.

研究費
  • 厚生労働科学研究費(がん対策推進総合研究事業) がんゲノム医療に携わる医師等の育成に資する研究 大江班 吉野小班 (19EA1007)
用語解説

*1 エキスパートパネル
「がんゲノム医療中核拠点病院」、「がんゲノム医療拠点病院」では、専門家が集まり、がんゲノムプロファイリング検査の解析結果を検討する定期的な会議を開催している。がんゲノムプロファイリング検査で一度にたくさんの遺伝子を調べ、その結果は多くの研究結果をもとに、特定の薬剤がどの程度効果があるか協議され、検出された遺伝子異常に効果が期待できる薬剤があるかを検討する。このようながんゲノムプロファイリング検査の結果を、医学的に解釈するための多職種による検討会を「エキスパートパネル」という。

*2 エビデンスレベル
研究方法をわかりやすいように類型化して作成した信頼度の目安。日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会により作成された次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス改訂第2版では、下記のエビデンスレベルを作成している。

*3 がんゲノムプロファイリング検査
100個以上の遺伝子の変化を一度に調べることで、がん細胞におきている遺伝子の変化を調べる検査。患者さんのがんに適した治療法を検討する。2019年から、全国234か所(2022年12月時点)のがんゲノム医療病院(がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院)では、保険診療としてがんゲノムプロファイリング検査を受けることができる。

問い合わせ先

研究に関する問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
総合内科 科長 内藤 陽一

広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

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