2023-04-07 立命館大学,科学技術振興機構
ポイント
- CNTは次世代ナノ材料として大きく期待されているものの、一部のCNTはアスベスト様の毒性が懸念されており、その毒性発現分子機構は不明であった。
- 独自のインシリコ探索により、世界で初めてCNTを認識するヒト免疫受容体を発見した。
- マクロファージがその免疫受容体を用いてCNTを貪食して炎症を引き起こすことを明らかにした。
- 本研究で見いだした免疫受容体および炎症シグナルを標的とした健康被害の予防・治療法の開発が期待される。
立命館大学 大学院薬学研究科の山口 慎一朗さん(博士課程後期)、同大学 大学院生命科学研究科の謝 祺琳さん(2022年度 博士課程前期修了)、同大学 生命科学部の笠原 浩太 助教(現JT 医薬総合研究所 研究員)、同大学 薬学部の中山 勝文 教授らの研究チームは、カーボンナノチューブ(CNT)を認識するヒト免疫受容体を発見しました。
CNTは多岐にわたる分野での利用が大きく期待されている日本発の次世代ナノ材料ですが、一部の多層CNT(Multi-Walled CNT:MWCNT)はアスベストに似た炎症毒性を示すことが動物実験で報告されています。しかしMWCNTがどのように生体内で認識されて炎症を誘導するのか、またヒトにおいても同様の炎症毒性が認められるのかについては分かっていませんでした。
本研究グループは、免疫細胞の1つであるマクロファージが細胞表面のSiglec-14というヒト免疫受容体を介してMWCNTを貪食し、炎症を引き起こすことを明らかにしました。また新たに作成した抗Siglec-14阻害モノクローナル抗体やSiglec-14の炎症シグナル阻害薬を用いることによって、MWCNTの炎症毒性を軽減できることが分かりました。今後のCNTの実用化に向けて、ヒトでの安全性の担保は重要課題であり、本研究はその一助になることが期待されます。
本研究成果は、2023年4月7日(日本時間)に、イギリスの科学雑誌「Nature Nanotechnology」に掲載されます。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の研究領域「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」およびJST 戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)の研究領域「生体における微粒子の機能と制御」の支援を受けて、名古屋大学 大学院医学系研究科の豊國 伸哉 教授、東北大学 大学院情報科学研究科の木下 賢吾 教授らとの共同研究により行ったものです。
<論文タイトル>
- “Carbon nanotube recognition by human Siglec-14 provokes inflammation”
- DOI:10.1038/s41565-023-01363-w
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
笠原 浩太(カサハラ コウタ)
立命館大学 生命科学部 助教(論文責任著者:現 JT薬品総合研究所)
中山 勝文(ナカヤマ マサフミ)
立命館大学 薬学部 教授(論文責任著者)
<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
<報道担当>
立命館大学 広報課 担当:名和
科学技術振興機構 広報課