2023-06-06 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)情報利用促進部の金岡幸嗣朗室長、岩永善高客員部長、奈良県立医科大学今村知明教授らのグループが、急性冠症候群患者に対するSGLT2阻害薬の早期開始は、心不全を伴う急性冠症候群患者において、全死亡、心不全もしくは急性冠症候群の再入院の複合イベント(事象)の減少と関連することを、レセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて明らかにしました。この研究成果は、European Heart Journal – Cardiovascular Pharmacotherapyに掲載されました。
■研究概要
急性冠症候群は、全世界的にも主要な死亡の要因のひとつです。これまで経皮的冠動脈形成術や薬物治療の普及により、急性期の死亡率は低下してきましたが、一部の患者では心機能の低下などにより退院後の再入院や死亡につながる場合もあります。
SGLT2阻害薬は、従来は糖尿病治療薬として使用されていましたが、心不全患者に対しても、複合心血管イベントの減少との関連が報告され、近年使用が増加している薬剤です。一方で、急性冠動脈症候群に対するSGLT2阻害薬の早期導入の有効性について、これまで大規模な報告はありませんでした。
本研究では、レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下、NDB)を用いて解析を行いました。NDBは、我が国全体の入院・外来を含むほぼ全ての保険診療を含むデータベースです。本研究では、NDBから、2014年度から2020年度に、急性冠症候群で初回入院し、直近で心不全入院のない患者を対象としました。主要エンドポイントは、全死亡、心不全もしくは急性冠症候群の再入院の複合アウトカムとしました。入院中の利尿剤や機械的補助循環等の治療の有無で重症心不全がある群とない群に患者を分け、入院14日以内のSGLT2阻害薬開始とアウトカムとの関連について、傾向スコアマッチングを行い、各群ごとに解析を行いました。
急性冠症候群で入院した388,185人の患者について解析を行いました。その結果、心不全あり群において、SGLT2阻害薬の早期開始は主要エンドポイントの減少と関連していました。一方で、心不全なし群では、SGLT2阻害薬の使用と主要エンドポイントとの関連はみられませんでした。加えて、心不全あり群のうち、糖尿病患者における、SGLT2阻害薬の開始は、我が国でよく用いられているDPP4阻害薬の開始と比較しても、主要エンドポイントの減少と関連していました。
■今後の展望と課題
本研究から、近年の我が国において糖尿病や心不全に対する処方が増えているSGLT2阻害薬の急性冠症候群患者に対する入院早期からの導入は、特に心不全を伴う患者において、その後のイベントを抑制できる可能性が示唆されました。現在、急性冠症候群患者に対するランダム化比較試験が進行中であり、その結果が待たれます。
■発表論文情報
著者: Koshiro Kanaoka, Yoshitaka Iwanaga, Michikazu Nakai, Yuichi Nishioka, Tomoya Myojin, Shinichiro Kubo, Katsuki Okada, Tatsuya Noda, Yasushi Sakata, Yoshihiro Miyamoto, Yoshihiko Saito, Tomoaki Imamura.
題名: Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitor Use in Early-Phase Acute Coronary Syndrome with Severe Heart Failure
掲載誌: European Heart Journal – Cardiovascular Pharmacotherapy
■謝辞
本研究は、厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)国や都道府県が循環器病対策に関する計画を策定する際に必要な利用可能な指標の設定、及び新型コロナウィルス感染症による循環器病への影響の評価のための研究(22FA1701)により支援を受けました。
(図)急性冠症候群患者におけるSGLT2阻害薬早期開始とイベントとの関連
A.心不全ありの患者におけるイベント発症 B. 心不全なしの患者におけるイベント発症
実線:SGLT2阻害薬開始群 点線:SGLT2阻害薬非開始群
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国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室