新種のカメ類を岩手県久慈市にて発見~白亜紀後期(約9,000万年前)の新種のカメ類「リンドホルメミス科」を岩手県久慈市にて発見~

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2023-07-13 早稲田大学

久慈琥珀博物館(岩手県久慈市 館長:新田 久男)と早稲田大学国際学術院の平山 廉(ひらやま れん)教授らが共同で発掘調査を実施している久慈市小久慈より発見されたカメ類の化石が、絶滅したカメ類(リンドホルメミス科)の新種として国際学会(8月初旬に東京大学で開催予定)で報告されることから、2023年7月13日(木)、早稲田大学(東京都新宿区 総長:田中 愛治)にて記者会見を行いました。

化石が発見された岩手県久慈市の久慈層群玉川層(約9,000万年前)からは、これまでに大型植物食恐竜(竜脚類)や肉食恐竜ティラノサウルス類の歯化石、カメ類やワニ類の骨格など30種類前後の脊椎動物化石が2023年6月現在で2,955点も発見されており、日本の恐竜時代(中生代白亜紀)の生物相を解明するための重要な地域となっています。

化石が発見された場所と地層

新種のカメ類化石(リンドホルメミス科)が発見された場所は、岩手県久慈市小久慈町にある発掘調査地です。この周辺に分布する久慈層群玉川層(白亜紀後期・約9,000万年前:火山灰中の放射性物質による年代測定)では、2012年3月から平山廉教授らによって発掘調査が実施されてきました。これまでに大型植物食恐竜(竜脚類)や肉食恐竜(獣脚類)の歯、カメ類、ワニ類、コリストデラ類、サメ類など約30種類に及ぶ脊椎動物化石(約2,800点)が発見されています。

久慈琥珀博物館が運営する琥珀採掘体験場からも、カメ類アドクス・コハクのほぼ完全な甲羅(2008年)をはじめとして、小型植物食恐竜(鳥盤類)の腰骨(2008年)、翼竜の翼の一部(中手骨:2010年)、肉食恐竜ティラノサウルス類の歯化石(2018年)、古代ザメ・ヒボダスの背棘(2019年)が発見されるなど、玉川層の陸生脊椎動物の化石が続々と発見されています。重さ約3㎏に達する琥珀が採掘されるなど、久慈琥珀博物館の周辺は、琥珀と恐竜時代の化石が眠る貴重な場所となっており、まさしく「琥珀と恐竜の大地・久慈」と謳われる世界でも稀な地域です。

リンドホルメミス科新種のカメ類復元画(小田隆制作)

久慈層群玉川層から発見された主な脊椎動物化石

  • 2010年7月 琥珀採掘体験場より翼竜類の化石を発見(2011年7月に記者発表)
  • 2012年3月 早稲田大学による発掘調査地より大型植物食恐竜(竜脚類)の歯化石を発見
  • 2015年3月 調査地より白亜紀後期ではアジア初となる「コリストデラ類」(絶滅した水生爬虫類)を学会で発表、同7月久慈市で記者発表
  • 2016年3月 調査地より平山教授のゼミ生が岩手県初の肉食恐竜の歯化石を発見(同年3月に記者発表)
  • 2018年6月 琥珀採掘体験場より高校生がティラノサウルス類の歯化石を発見(2019年5月に記者発表)
  • 2019年5月 日本国内の後期白亜紀では初の古代ザメ ヒボダス類の棘化石を琥珀採掘体験場から一般の体験者が発見(2020年7月に記者発表)
  • 2021年4月 カメ類の新種(アドクス・コハク)を記者発表
  • 2022年7月 久慈で発見された竜脚類恐竜の食性について記者発表

新種のカメ化石リンドホルメミス科

発見場所:発掘調査地(岩手県久慈市小久慈町)
発見日:2023年3月27日
発見者:久保 佑(発見当時は小学2年生 8歳)
発見された部位:下顎(登録番号OSD 4444:久慈琥珀博物館所蔵)および110点の追加資料(甲羅や頭骨の一部)
地層(地質時代):久慈層群玉川層(約9千万年前:中生代白亜紀後期)

本化石発見の意義と特徴:カメ類は約300種の現生種が知られるが、そのうち160種類がリクガメ上科に属している。本上科は、イシガメ科(ニホンイシガメやクサガメなど)やヨーロッパヌマガメ科(アカミミガメなど)、リクガメ科(ガラパゴスゾウガメなど)を含む多種多様な一群であり、オーストラリアや寒冷地域を除く世界の陸域に分布している。リクガメ上科は、リンドホルメミス科と呼ばれる小型のグループとして中生代白亜紀後半に出現した。本科にはこれまで11属がアジア(中国やモンゴル、ウズベキスタン)から知られているが、1属以外は甲羅だけが知られている。

玉川層のボーンベッドでは、2012年3月から現在に至るまで毎年3月と8月に集中的な発掘調査が実施されている。カメ類の化石は特に多く、総計1100点に達する。そのうちリンドホルメミス科と考えられる小型のカメ類の断片的な甲羅が100点以上を占めている。2023年3月の発掘調査でもリンドホルメミス科カメ類の追加資料が発見されたが、中でも下顎(および甲羅)には他のカメ類には見られない特徴があることから、新種であると判断して今回の発表に至った。

議論

久慈市の玉川層からは、これまで1,100点に達するカメ類の化石が発見されている。アドクス・コハクは、2021年に新種として報告された大型のカメ類であり、甲長は最大で60センチに達する。他にも、スッポン科やスッポンモドキ科の同様の大型カメ類が確認されている。他方、玉川層では甲長25センチに満たない小型のカメ類化石の甲羅が確認されており、甲羅表面の装飾などからいずれもリンドホルメミス科の同一種と考えられる。なお久慈標本は、日本国内で確認された初めてのリンドホルメミス科である。
カメ類の中でも、リンドホルメミス科には以下のような形態的特徴が認められる。
1:背甲に接合する腹甲柱(ふくこうちゅう)と呼ばれる腹甲の外側が強く発達し、肋板の裏側に達する。
2:鱗板溝(りんばんこう:甲羅を覆う鱗の境界部)は相対的な深さや幅がアドクスなど他の水棲カメ類の数倍に達する。
3:甲羅の長さは最大でも30センチほどであり、白亜紀の陸生カメ類としては小型である。
4:腹甲と背甲の境界部に4対ないし3対の下縁鱗が連続して発達することで始新世以降のリクガメ上科(前後2対の下縁鱗は不連続)と識別される。

リンドホルメミス科は、上記の特徴から現在最も優勢なカメ類であるリクガメ上科の祖先的(あるいは基盤的)なグループと考えられている。リンドホルメミス科は、これまでアジア(モンゴルや中国、ウズベキスタンなど)の白亜紀後期から古第三紀(約9,000万年前から6,000万年前)にかけて11属が確認されているが、モンゴル産のモンゴレミス以外は甲羅のみが知られている。とりわけ下顎の詳細についてはこれまで未知であった。

今年3月の調査で久保佑さんが発見した下顎の化石には、「咬合面が前方で狭く、後方で拡がる」という現在のカメ類には見られない特徴が確認された。これは、初期のリクガメ上科が現生種とは異なる顎の動かし方をしていたことを示唆する。また久慈標本の甲羅では、第1椎鱗が非常に狭く、第12縁鱗が第2上尾板に達するなど、本科の他のカメ類には見られない特徴が認められた。したがって、久慈標本は未知の分類群であると考えられる。

玉川層のボーンベッドは、挟在する火山灰の放射年代測定により約9,000万年前であることが判明しており、久慈標本が本科(またリクガメ上科)では世界最古級の種類であることを示す。久慈標本は、初期リクガメ上科の知られざる多様性を示す貴重な資料であり、日本が現代型カメ類の適応放散を探る上で重要なフィールドであることを物語っている。

久慈標本は、東北地方から新種として報告された中生代の脊椎動物化石としては、稲井竜(イナイサウルス:宮城県の三畳紀)、歌津魚竜(ウタツサウルス:宮城県の三畳紀)や双葉鈴木竜(フタバサウルス:福島県の白亜紀後期)、魚類の一種(Ischyrhiza iwakiensis:福島県の白亜紀後期)、およびアドクス・コハクに次いで6例目、岩手県からは2例目となる。

まとめ

岩手県久慈市の久慈層群玉川層(約9000万年前)からリンドホルメミス科カメ類の新種を報告した。これは、本科のカメ類としては世界最古級のものと考えられる。岩手県の中生代から新種として報告される脊椎動物は、2021年に報告されたアドクス・コハクに次いで2例目である。国内で本科のカメ類が確認されたのは初めてであるが、日本など東アジアがリクガメ上科など現在につながるカメ類の適応放散における重要な地域であったことを示す発見と考えられる。

発見時のリンドホルメミス科カメ類の下顎(OSD 4444・久慈標本)と発見者の久保 佑(くぼ ゆう)さん(2023年3月27日、撮影:平山)

久慈層群玉川層より発見されたリンドホルメミス科カメ類(久慈標本)の下顎(背面観)

久慈層群玉川層より発見されたリンドホルメミス科カメ類の甲羅復元図:黒線は甲羅を構成する骨板の境界部、赤線は骨板を覆う鱗の境界部を示す

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