植物の根が地中へ、枝が上向きに一定の角度で伸長する仕組み

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Anti-gravitropic offset (AGO)と呼ばれる成長成分の性質を明らかに

2020-05-19 基礎生物学研究所

基礎生物学研究所 植物環境応答研究部門の森田(寺尾)美代教授と川本望特任助教、中村守貴特任研究員らのグループはシロイヌナズナを用いて、重力屈性とは相反する、Anti-gravitropic offset (AGO)と呼ばれる成長成分の性質を明らかにしました。
植物の根は地中に向かい、茎は上方へと伸長します。これは植物が重力の方向を感じ取って反応する、重力屈性と呼ばれるものです。重力の方向は根や茎に存在する重力感受細胞で感知されることが知られています。茎がまっすぐに上方へと伸長するのに対し、側枝は一定の角度を持って、斜め上に伸長します。この角度は、重力屈性とAnti-gravitropic offset (AGO)と呼ばれる重力屈性とは相反する成長成分のバランスによって制御されているという考え方が提唱されていました。しかしながら、AGOというものが本当に存在するのか、また、その性質については不明なままでした。森田教授らの研究グループはこれまでにLZYと呼ばれるタンパク質が重力屈性に中心的な役割を担っていることを明らかにしてきました。その過程で、LZYの機能を失った植物の側枝は下側へと、根は上方へと、重力屈性とは逆方向に屈曲する、不思議な現象を見出しました。今回、この重力屈性が逆転したように見える不思議な現象の解析を進めた結果、AGOには根と茎に存在する重力感受細胞が必要不可欠なこと、重力屈性と共通した重力方向の感受メカニズムを利用している可能性があることを明らかにしました。本研究の成果は、2020年5月12日に国際学術誌Plants誌に掲載されました。
fig1.jpg図1. 野生型(Col)と lzy1;2;3変異体の重力応答
野生型植物の側枝は通常は上方向へと伸長するが(A)、lzy1;2;3変異体では下方向へと伸長する(B)。逆さ吊りにより重力方向を180度入れ替えると、野生型では上方へと伸長するが(C)、lzy1;2;3変異体では下方へと伸長する(D)。

【研究の背景】
植物の根は地中へ、茎は上空へと向かい、伸長します。これは、植物が重力の方向を認識し、根を水分や栄養の豊富な地中へ、葉や花を形成する地上部を光合成や受粉に有利な上方へと各器官を配置する環境応答の一つであり、重力屈性と呼ばれます。重力屈性においては重力感受細胞の中で、デンプンを蓄積したアミロプラストが重力の方向に沈降することにより重力方向を認識します。シロイヌナズナにおいて、根では根端のコルメラ細胞、茎では内皮細胞が重力感受細胞です。コルメラ細胞の中では、アミロプラストが重力方向へと沈降すると、植物に特有のLZY(LAZY1-LIKE)ファミリータンパク質が重力側の細胞膜に偏在することで重力屈性を制御することがわかっています。植物の側枝や側根といった茎や主根から発生する側方器官は植物種に固有のある一定の成長角度を持って発生します。この角度はGravitropic setpoint angle (GSA)と 呼ばれ、重力屈性と重力屈性とは相反する成長成分であるAnti-gravitropic offset (AGO)とのバランスによって決定されるとの考え方が提案されていました。しかしながら、重力屈性の分子機構については精力的に研究が進められている一方で、AGOに関しては研究報告が少なく、その実態は大部分が不明なままでした。

【研究の成果】
森田教授らの研究グループはじめ、複数のグループの研究成果から、重力屈性においてはLZYとよばれるタンパク質の機能が重要であることが明らかになっていました。LZYの機能を失ったシロイヌナズナのlzy多重変異体は側枝が下方向へ、主根が上方向へと通常とは逆方向へと成長することが示されていました。森田教授らは、GSAが重力屈性とAGOのバランスによって決定されるとするならば、lzy多重変異体の示す不思議な表現型は重力屈性が失われた結果AGOが顕在化したものと考えることができるのではないかと考えました。そこで、研究グループはlzy多重変異体の表現型をAGOとして、AGOもまた重力に応答しする性質を持つのかを明らかにするために、シロイヌナズナを逆さ吊りにすることで重力方向を180度変化させ、lzy多重変異体の重力応答を調べました(図1)。野生型のシロイヌナズナの側枝は正常な重力屈性を示し、上方向へと伸長方向を変えたのに対し、lzy多重変異体の側枝は、下方向へと伸長方向を変えました。この結果は、lzy多重変異体で顕在化したAGOも重力に応答した成長反応であることを示唆しています。
次に、AGOがどのような重力感受の性質を持つのか明らかにするために、重力感受に必要なデンプンの蓄積したアミロプラストを形成できないpgm変異体、地上部の重力感受細胞である内皮細胞の形成に異常を生じるeal1変異体とlzy変異体との関係を調べました。
lzy変異体の主根が上方向へと伸長する表現型はpgm変異を加えることで、その伸長方向はランダムになりました。また、lzy変異体の側枝が下方向へと伸長する表現型はeal1変異を加えることで、水平方向へと伸長方向を変化させました。
これらの結果は、地上部においては重力感受の場である内皮細胞がAGOに必要なこと、根においては重力感受細胞であるコルメラ細胞内において、デンプンの蓄積したアミロプラストが重力方向へと沈降することが必要であることを意味しています。
以上のことから、AGOという成長成分には重力感受細胞が必要なこと、重力感受細胞におけるアミロプラストの沈降を介した重力方向の認識という、重力屈性と共通した重力方向の認識機構を利用している可能性があることを明らかにしました。
fig2.jpg図2. 主根の伸長方向
野生型(Col)の植物ではほぼ真下へと伸長するが(A, E)、lzy2;3;4変異体では上側へと伸長する(B, F)。pgm変異(D, H)を加えたlzy2;3;4;pgm変異体では根の伸長方向がランダムになる(C, G)。

【今後の展望】
GSAと呼ばれる重力屈性とAGOによる成長角度の制御は植物器官を適切な位置へと配置する植物構造の最適化に関与する要因の一つで、植物の分子育種など、農業において重要な形質です。GSAを決定する要因のうち、重力屈性に関しては理解が進んでいましたが、AGOに関しては、その存在も含め、大部分が謎のまま残されていました。本研究でAGOの実態の一端を明らかにすることができ、重力を指標にした植物の姿勢制御の理解と操作へと繋がると期待されます。

【発表雑誌】
雑誌名: Plants
掲載日: 2020年5月12日
論文タイトル:
Gravity-Sensing Tissues for Gravitropism Are Required for“Anti-Gravitropic” Phenotypes of Lzy Multiple Mutants in Arabidopsis
著者: Nozomi Kawamoto, Yuta Kanbe, Moritaka Nakamura, Akiko Mori, Miyo Terao Morita
DOI: https://doi.org/10.3390/plants9050615

【研究グループ】
本研究は基礎生物学研究所 植物環境応答研究部門の川本望特任助教、中村守貴特任研究員、森田(寺尾)美代教授らのグループにより行われました。

【研究サポート】
本研究は、科学研究費補助金である新学術領域研究「植物構造オプト」、挑戦的研究(萌芽)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」研究領域の支援を受けて行われました。

【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所 植物環境応答研究部門
教授 森田(寺尾)美代(モリタ(テラオ)ミヨ)

【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室

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