母親マウスは鼻で血を感知して探索・リスクアセスメント行動に出る~体外に出た血中ヘモグロビンが化学感覚 シグナルとなる~

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2022-02-03 東京大学

発表者
小坂田 拓哉(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任研究員:研究当時)
阿部  峻之(東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 博士課程:研究当時)
板倉  拓海(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士課程3年)
森   裕美(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻/
JST ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト 学術支援専門職員:研究当時)
東原   和成(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授/
東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)連携研究者)
発表のポイント
  • マウスは外界にある血を鼻の中に取り込み、血中のヘモグロビンが化学感覚シグナル(注1)として感知されることが明らかになりました。
  • 鼻に入ったヘモグロビンは、鼻腔下部に存在する鋤鼻(じょび)器官(注2)の神経組織に存在するGタンパク質共役型受容体(注3)の一つVmn2r88で受容されます。母親マウスでは、脳の視床下部の腹内側核背側部(VMHd・注4)にヘモグロビンシグナルが伝達され、探索・リスクアセスメント様行動(注5)が表出することがわかりました。
  • ヘモグロビンは血中において酸素運搬能を有していることが知られていますが、体外に出ると化学感覚シグナルとしての機能を持ち、子育てをしている母親マウスはヘモグロビンの存在で周囲の環境の危険性等を伺っている可能性が考えられます。
発表概要

げっ歯類を含む動物の多くは、五感のひとつである嗅覚を主に用いて周囲の環境などの重要な情報を取得します。マウスにおいては、低分子有機化合物からなる揮発性の匂い分子だけでなく、ペプチドやタンパク質などの不揮発性の物質も化学感覚シグナルとして受容されることが知られています。不揮発性分子は鼻腔下部に位置する鋤鼻器官 (VNO: vomeronasal organ)で受容されて、社会行動に影響を与えます。
今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授らの研究グループは、マウスの血液が鋤鼻器官に存在する神経細胞を活性化することを見出し、その活性化因子はヘモグロビンであることを発見しました。さらに、ヘモグロビンは鋤鼻神経細胞に発現しているGタンパク質共役型受容体の一つによって受容され、母親マウスにおいては、視床下部の亜領域である腹内側核背側部(VMHd; dorsal part of the VMH)を活性化し、その結果、探索・リスクアセスメント様行動が引き起こされることが明らかになりました。ヘモグロビンは血中で酸素運搬能がよく知られていますが、争いや出産などで体外に出た血は化学感覚シグナルとしての機能を持つという驚くべき知見です。子育てをしている母親マウスはヘモグロビンの存在で周囲の環境の危険性等を伺っていると思われます。人間のように言葉を持たない動物にとって「血は口ほどに物を言う」のかもしれません。

発表内容

図1 母親マウスは鼻で血を感知して探索・リスクアセスメント行動に出る
母親マウスは血中に含まれるヘモグロビンを鼻から取り込むと、立ち上がり行動(rearing)や潜り行動(digging)といった探索・リスクアセスメント様行動を顕著に示すようになります。

図2 血液中に含まれるヘモグロビンが母親マウスの探索・リスクアセスメント行動を制御する際の受容体ならびに神経回路
ヘモグロビンは鼻腔下部に存在する鋤鼻器官に発現する鋤鼻2型受容体の1つであるVmn2r88で受容され、その情報がAOB→MeA→VMHd→中脳水道周囲灰白質背側部(PAGd)という神経回路を伝達されることで、母親マウスおいて潜り行動(digging)や立ち上がり行動(rearing)を促進させます。


ヒトは生活環境に存在する様々な匂い物質を受容し、その匂い情報は様々な反応や感情を引き起こします。マウスを含むげっ歯類などの動物においては、ヒトが匂いとして感じることのできる揮発性有機化合物(匂い分子)だけでなく、ペプチドやタンパク質などの不揮発性分子も化学感覚シグナルとして利用していることが知られています。不揮発性の分子は、くんくんと嗅いだり舐めたりすることによって、鼻腔下部に存在する鋤鼻器官(VNO)という組織に取り込まれ、受容されます。東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授らの研究グループは、以前に、雄マウスの涙液中に含まれるペプチドESP1(注6)がフェロモンとして機能するということを発見しました(Kimoto et al., Nature 2005, Haga et al. Nature 2010)。当時、研究グループは涙液のみならず、唾液を分泌する顎下腺(がくかせん)からも鋤鼻活性を検出して報告していましたが、その後、その活性は混在していた血液によるものであることがわかりました。そこで、血液中に含まれる鋤鼻活性物質の同定を最初の動機として本研究は開始されました。
どの血中成分が鋤鼻活性を有しているのかをマウス血液の精製ならびに初期応答遺伝子を指標にした活性化細胞のマッピング(注7)を行い検証したところ、ヘモグロビンを含む画分のみが鋤鼻活性を有していることがわかりました。続いて、様々な生物種由来のヘモグロビンを供した生物検定を行うと、マウス以外の生物種のヘモグロビンからも鋤鼻活性が検出されるとともに、魚類など進化的に遠い生物のヘモグロビンは活性を示しませんでした。そこで、各種のヘモグロビンのアミノ酸配列を比較し、活性に重要と思われるアミノ酸残基に変異を導入すると、17番目に位置しているアミノ酸残基グリシン(Gly17)が鋤鼻活性に重要であることが明らかになりました。次に、double in situ ハイブリダイゼーション(注8)によるスクリーニングとCRISPR/Cas9ゲノム編集システム(注9)を用いることによって、約120種類の受容体を含むGタンパク質共役型受容体ファミリーの中から鋤鼻2型受容体Vmn2r88がヘモグロビンの受容体であることを見出しました。
鋤鼻で感知されたヘモグロビンの情報はどのような脳神経回路によって伝達されるか、また、ヘモグロビンはどのような作用を引き起こすかという疑問に対して、ヘモグロビンを受容したマウスの脳で活性化される領域を検索しました。鋤鼻受容体で受容されたシグナルは、鋤鼻神経細胞がその軸索を伸ばしている副嗅球(AOB)へ伝達され、その後は、扁桃体内側核(MeA)や視床下部腹内側核(VMH)といった高次脳領域へと伝達されることが知られており、初期応答遺伝子を指標にしてこれらの領域の活性化細胞のマッピングを行いました。その結果、単離飼育されている雄マウスや雌マウスではMeAやVMHにおける活性化は見られませんでしたが、母親マウスにおいて、MeAならびにVMHの背側部(VMHd: dorsal part of the VMH)において活性化が観察されました。つまり、ヘモグロビンが子育てをしている母親マウスにとって重要な役割を有していることが示唆されました。
次に、ヘモグロビンがどのような作用を引き起こすかを検証するため、様々な行動実験を行いました。血液は雄マウス同士による争いや出産時に体外に放出されるので、まず母親マウスが示す母性攻撃行動(注10)への影響を調べましたが、変化は観察されませんでした。そこで、ホームケージにいる母親マウスにヘモグロビンを提示した際の行動変化を詳しく解析すると、巣材を掘ってその下に潜る行動(digging)が顕著に観察されることが明らかになりました。この行動は雄マウスや子育てをしていない雌マウスでは観察されず、母親マウスでのみ観察されました。これは不安になった結果なのかをオープンフィールド試験(注11)で検証したところ、ヘモグロビン受容による不安行動は見えず、立ち上がり行動(rearing)の増加が観察されました。不安やストレスなどの状況に関連する血中コルチコステロン濃度はヘモグロビンの受容によって変化しないことなどから、ヘモグロビンを受容した母親マウスにおけるdiggingとrearing行動の表出は、不安行動ではなく、探索・リスクアセスメント様行動であるものと考察されました。
最後に、母親マウスにおけるこれらの探索・リスクアセスメント様行動を支配する脳領域の検証を行いました。ここでは、初期応答遺伝子によるマッピングによって母親マウスでのみ活性化が観察された視床下部腹内側核の背側部(VMHd)に着目しました。薬理遺伝学的手法(注12)や光遺伝学(注13)を用いて、VMHdの神経活動の人為的な操作を行ったところ、digging行動が制御されました。この結果は、VMHdがヘモグロビンによる母親マウスでの探索・リスクアセスメント様行動をコントロールしている脳領域であることを示しています。これまでにVMHdは防御行動等への関わりが報告されていることを考慮すると、子育てをしている母親マウスはヘモグロビンの存在で周囲の環境の危険性等を伺っていると思われます。
本研究では、動物の血液中に存在して酸素の運搬という重要な役割を担っているヘモグロビンが、体外に放出されて存在すると、鼻で感知される化学感覚シグナルとなるという意外な事実を明らかにしました。ヘモグロビンの情報は、母親マウスにおいてのみ視床下部へと伝達され、探索・リスクアセスメント様行動を引き起こします。すなわち、ヘモグロビンが雌マウスのライフサイクル依存的に化学感覚シグナルとして機能することを示しています。しかし、なぜヘモグロビンの効果は母親マウスにおいてのみ観察されるのでしょうか。母親マウスの行動を仔マウス と同居した状況、仔マウスを取り除いた状況、また、ホームケージでなくきれいな巣材を敷き詰めた状況下で観察しました。すると、仔マウスと同居した状況と比較して、仔マウスがいない状況では巣材に潜る行動(digging)がより顕著に観察されました。このことは、母親マウスにおける周囲の環境への感受性、敏感さの違いに依存してヘモグロビンの効果がみられる可能性を示唆しています。また、母親マウスが過去の出産時に血液を受容した経験を有することとも関連するかもしれません。一方で、マウス以外の生物種のヘモグロビンも活性を持っていたという事実は、母親マウスが同種間での争いだけでなく、他種すなわち天敵等の情報も周囲に存在するヘモグロビンから認識している可能性を示唆しています。
本研究では、血液という身近に存在する物質が、体外で化学感覚シグナルとして働くという驚くべき事実とその情報伝達機構を明らかにしました。動物は、外界のシグナルをくまなく感知することによって、ライフサイクルの状況に適した適切な行動をとり、自分や家族の生存や種の保存のために役立てているのです。

【研究グループの構成】
小坂田  拓哉(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任研究員:研究当時)
阿部  峻之(東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 博士課程:研究当時)
板倉  拓海(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士課程3年)
森   裕美 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻/JST ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト 学術支援専門職員:研究当時)
石井  健太郎(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士課程:研究当時)
江口   諒(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 修士課程:研究当時)
村田   健(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任助教)
齊藤   航介(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士課程2年)
-山中紗智子(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任研究員:研究当時)
木本   裕子(東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 博士課程:研究当時)
吉原   良浩(理化学研究所 脳神経科学研究センター システム分子行動学研究チーム チームリーダー)
宮道   和成(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任准教授:研究当時/
JST ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト グループリーダー:研究当時)
東原   和成(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授/東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)連携研究者)

発表雑誌
雑誌名
Nature Communications
論文タイトル
Hemoglobin in the blood acts as a chemosensory signal via the mouse vomeronasal system
著者
Takuya Osakada*, Takayuki Abe*, Takumi Itakura*, Hiromi Mori*, Kentaro K Ishii, Ryo Eguchi, Ken Murata, Kosuke Saito, Sachiko Haga-Yamanaka, Hiroko Kimoto, Yoshihiro Yoshihara, Kazunari Miyamichi, and Kazushige Touhara¶ (* equally contribution; ¶ corresponding author)
DOI番号
10.1038/s41467-022-28118-w
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41467-022-28118-w
問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 生物化学研究室
教授 東原 和成(トウハラ カズシゲ)

用語解説

注1 化学感覚シグナル
動物同士のコミュニケーションにおいては、視覚、聴覚において受容される物理的信号に加え、においやフェロモンといった化学的信号も重要であることが知られている。嗅覚や味覚など化学的信号を受容する感覚は化学感覚(Chemical senses)と総称されるようになり、信号を媒介する役割を有するにおいなどの物質は化学感覚シグナル(Chemosensory signal)と呼ばれる。

注2 鋤鼻器官(VNO: vomeronasal organ)
鼻腔下部に存在する管状の感覚器であり、フェロモンをはじめとした化学感覚シグナルの受容に関わる。両生類から哺乳類の多くの動物に存在するが、ヒトなどの高等霊長類においては機能していない。鋤鼻器官で受容されたシグナルの情報は、一次中枢である副嗅球を経由して、扁桃体内側核や視床下部腹内側核といった高次脳領域に伝達される。

注3 Gタンパク質共役型受容体
細胞膜上に存在する受容体タンパク質の一種であり、神経伝達物質、ホルモン、匂い分子など様々なリガンドを受容する。7回膜貫通構造を有し、N末端は細胞外にC末端は細胞内に位置する。化学物質などの細胞外からのシグナルを受容すると、受容体は構造変化を起こし、細胞質側に結合しているGタンパク質が活性化され、細胞内シグナル伝達が生じる。

注4 視床下部腹内側核(VMH: ventromedial hypothalamic nucleus)
視床下部腹内側核(VMH)は、背側部(VMHd: dorsal part of VMH)と腹外側部(VMHvl: ventro-lateral part of VMH)の2つの亜領域にわけられる。VMHdに分布する神経細胞の大半には転写因子SF1(Steroidgenic Factor 1)の発現がみられる。一方で、VMHvlの細胞にはSF1の発現はみられず、エストロゲン受容体1(Esr1)が領域の分子マーカーとして用いられることが多い。VMHdのSF1発現細胞群は防御行動との関わりが報告されている一方で(Kunwar et al., elife 2015)、VMHvlに分布するEsr1発現細胞群は、雌雄のマウスにおける攻撃行動などに関与していることが知られている(Lin et al., Nature 2011, Hashikawa et al., Nature Neuroscience 2017)。

注5 探索・リスクアセスメント様行動
マウス等の動物が、周囲の情報を得るために起こす行動である。新奇な物体等に対し這いつくばりながらゆっくりと近づく行動や、新奇環境において立ち上がって周囲を見渡す行動(rearing)や、穴を掘り潜る行動(digging)などを取ることで周囲の探索を行う。

注6 ESPファミリー
マウスのゲノム上には38種類のESP(Exocrine gland-Secreting Peptide)遺伝子が存在し、ペプチドファミリーを形成している。一方で、ヒトのゲノム上にはESP遺伝子は存在していない(Kimoto et al., Current Biology 2007)。マウスのESPペプチドの中ではESP1やESP22についてその解析が進んでおり、雄マウスの涙液中に分泌されるESP1はV2Rp5(Vmn2r116)を発現する鋤鼻神経細胞で受容され、雌マウスの性行動や雄マウスの攻撃行動を促進する機能を持つ(Haga et al., Nature 2010, Hattori et al., Current Biology 2016)。近年ではESP22についても解析が進み、ESP22が生後2-3週令の幼少マウスの涙液中にのみ分泌され、V2Rp4 (Vmn2r115)で受容され、雌雄のマウスの性行動を抑制することが明らかにされている(Ferrero et al., Nature 2013, Osakada et al., Nature Communications 2018)。

注7 初期応答遺伝子を指標にした活性化細胞のマッピング
初期応答遺伝子とは神経細胞の活性化に伴い、短時間で発現が見られる遺伝子のことである。神経科学分野においては、初期応答遺伝子の発現が神経細胞の活性化の指標として使われることが多い。本研究では、初期応答遺伝子であるc-FosもしくはEgr1の発現を指標として用い、活性化細胞を定量した。それによって、ヘモグロビンによって活性化されている鋤鼻神経細胞を標識した。加えて、ヘモグロビンにより活性化される神経細胞が多く分布する脳領域の絞り込みを雌雄のマウス、また、母親マウス間での比較をしながら行った。

注8 Double in situ ハイブリダイゼーション
Double in situ ハイブリダイゼーションは、細胞に発現する特定のmRNAを認識するRNAプローブを同時に複数利用することで異なるmRNAを同時に検出する手法である。本研究では、神経細胞の活性化の指標となる初期応答遺伝子Egr1を認識するRNAプローブと各鋤鼻2型受容体を認識するRNAプローブを利用した。それによって、ヘモグロビンによって活性化される鋤鼻神経細胞において発現している鋤鼻2型受容体を1種類(Vmn2r88)に絞り込んだ。

注9 CRISPR/Cas9ゲノム編集システム
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)/ Cas9(CRISPR associated protein 9)は本来、細菌や古細菌においてウイルスなどの侵入物を標的として、それらを排除するように機能する適応免疫機構である。CRISPR/Cas9を利用すると哺乳類をはじめとしたさまざまな生物種において、ゲノム中の任意の配列を切断できることが明らかにされた。現在では、CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いることで、さまざまな生物種において、簡便かつ従来の方法と比較すると短時間で、遺伝子ノックアウト個体を作製することが可能となっている。

注10 母性攻撃行動
攻撃行動は、自発的な闘争行動が生じやすい雄個体のみならず、雌個体によっても示される。雌のげっ歯類は、妊娠成立を境として高い攻撃性を示すようになることが知られており、この妊娠成立から養育期の雌のげっ歯類が示す攻撃性は母性攻撃行動と呼ばれている。母性攻撃行動に深く関わる脳神経回路ならびに妊娠成立前後の変化については様々な解析が進められているが、視床下部の視索前野(MPOA: medial preoptic area)などが重要な領域として知られている。

注11 オープンフィールド試験
オープンフィールド試験は、げっ歯類の不安行動や探索的行動等を調査するために用いられる行動実験のひとつである。新奇環境における自発的な活動性を測定するため、オープンフィールド試験では空のテストアリーナが用いられ、本研究では、正方形のアリーナが利用された。移動距離、立ち上がり行動、中央区画の滞在時間などが測定対象とされている。

注12 薬理遺伝学ツール
薬理遺伝学ツールDREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drug)は人工的合成リガンドによって特異的に活性化されるように遺伝子変異を加えたGタンパク質共役型受容体である。本研究では、ヒトM4ムスカリン性アセチルコリン受容体を元にして、生体内には存在しない化学物質clozapine-N-oxide(CNO)によって活性化されるよう改変された人工受容体hM4Diを用いた。hM4Diを神経細胞に局在させると、CNOを受容した際にその神経細胞の活動を抑制することができる。

注13 光遺伝学
光遺伝学(オプトジェネティクス)は、光で活性化されるタンパク質を特定の細胞に導入し、その細胞の機能を光照射によって制御する手法のことである。本研究では、光感受性の非選択的な陽イオンチャネルであるChannelrhodopsin 2(ChR2)を用いた。ChR2を発現する神経細胞に光ファイバーを介して青色光を照射することで、特定の神経細胞群の活性化を誘導することができる。

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