必須栄養素コリンの吸収経路を発見~腸管ATP8B1欠損は体内コリン欠乏を引き起こす~

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2023-11-21 東京大学

〈発表概要〉
東京大学大学院薬学系研究科の田村隆太郎大学院生、佐分雄祐大学院生(研究当時)、林久允准教授、Axcelead Drug Discovery Partners株式会社の安藤智広主席研究員らの研究チームは、「必須栄養素コリンの吸収経路」を明らかにしました。
コリンは米国において必須栄養素と定められているビタミン様物質です。生体内のコリンは主に食事中のリン脂質に由来します。リン脂質は腸管内でリゾリン脂質、遊離型コリンを含む様々な物質に分解された後、この分解産物が吸収され体内に取り込まれると考えられています。しかしながら、その吸収に関わる分子機構は明らかになっていませんでした。
本研究チームは、膜タンパク質ATP8B1が腸管でリゾリン脂質の吸収に働いており、その破綻がコリン欠乏に起因する脂肪肝炎を招くこと、すなわち、体内へのコリン吸収の仕組みとその存在意義を明らかにしました。
ATP8B1は進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型(PFIC1)の原因遺伝子として知られています。PFIC1は指定難病(告示番号338)に認定されている希少疾患です。肝移植後に脂肪肝を発症するケースが多く、治療法が確立していません。今回の成果は、PFIC1を含むATP8B1の機能低下が関連する疾患を対象とした治療法開発に繋がる可能性があります。

〈本研究チームの活動について〉
今回本チームは、希少疾患であるPFIC1の患者さんの臨床情報(肝移植後に脂肪肝炎を発症する)を手掛かりに研究を開始し、本疾患に対する治療法開発の可能性を見出しました。
このように疾患の治療法開発は、対象疾患をしっかりと理解することがスタートとなります。しかしながら、希少疾患の場合、患者さんの数が少ないため、十分な情報が集まっていないケースがほとんどです。本チームは、この状況を打開するため、小児期発症の希少肝疾患群を対象とした患者登録研究(CIRCLe)を実施しています。CIRCLeでは、患者さんの臨床情報、生体試料(血液、尿など)を収集しています。本活動を通じ、小児期発症の希少肝疾患を理解し、画期的な検査法や診断法、治療法を開発することを目指しています。詳細は公式HPをご覧ください。
希少難病の新規治療法開発には我々研究者だけでなく、患者さん・ご家族、主治医の先生方など全員の協力が必要です。お子さんの長引く黄疸でお悩みのお父さま・お母さま、遷延性黄疸の患者さんを診ている先生方は、是非、CIRCLeへの参加をご検討ください。黄疸の原因が不明な場合には、確定診断のお手伝いもいたします。

論文情報

Ryutaro Tamura, Yusuke Sabu, Tadahaya Mizuno, Seiya Mizuno, Satoshi Nakano, Mitsuyoshi Suzuki, Daiki Abukawa, Shunsaku Kaji, Yoshihiro Azuma, Ayano Inui, Tatsuya Okamoto, Seiichi Shimizu, Akinari Fukuda, Seisuke Sakamoto, Mureo Kasahara, Satoru Takahashi, Hiroyuki Kusuhara, Yoh Zen, Tomohiro Ando, Hisamitsu Hayashi, “”Intestinal Atp8b1 dysfunction causes hepatic choline deficiency and steatohepatitis”,” Nature Communications: 2023年11月21日, doi:10.1038/s41467-023-42424-x.
論文へのリンク (掲載誌)

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