抗トキソプラズマ免疫と抗ガン免疫の両方に重要な制御分子を発見

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PLCβ4はキラーT細胞特異的にT細胞受容体シグナルを制御する

2021-06-02 大阪大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • トキソプラズマ感染時の免疫応答にシグナル伝達分子PLCβ4(ピー エル シー ベータ 4)(※1)が重要な制御分子であることを解明
  • PLCβ4が免疫細胞の一つであるキラーT細胞(※2)の活性化に特異的に関与することを解明
  • 抗トキソプラズマ免疫だけではなく、抗ガン免疫にもPLCβ4は重要であることを発見
概要

大阪大学微生物病研究所の山本雅裕教授(免疫学フロンティア研究センター・感染症総合教育研究拠点兼任)らの研究グループは、病原性寄生虫トキソプラズマやガン細胞の排除を担う宿主免疫系のキラーT細胞の活性化にPLCβ4が必須であることを明らかにしました。

ホスホリパーゼC(PLC)は、細胞内にある代謝酵素で、真核生物で広く保存された重要なシグナル伝達分子です。PLCβ4は哺乳類で13種類あるPLCファミリー分子の一つで、古くから中枢神経系での発現が知られていましたが、免疫系での役割は全く不明でした。

今回、山本教授らの研究グループは、

  1. トキソプラズマ感染に対し、PLCβ4欠損マウス、特にT細胞のみPLCβ4を欠損しているマウスが非常に弱いこと
  2. PLCβ4は、免疫細胞の中でも特にキラーT細胞のT細胞受容体(TCR)(※3)シグナルを制御し、活性化に関与すること
  3. キラーT細胞依存的免疫である抗ガン免疫にもPLCβ4が関与すること

を明らかにしました。

これらの結果より、PLCβ4を人為的に制御すれば、抗トキソプラズマ宿主免疫応答および抗ガン免疫双方を担うキラーT細胞の反応を同時に高めることのできる薬剤開発につながることが大いに期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of Experimental Medicine」に、2021年5月10日(月)午後10時(日本時間)に掲載されました。


図)キラーT細胞でのPLCβ4の機能によって、トキソプラズマと癌が排除される

T細胞は、抗トキソプラズマ宿主免疫反応と抗ガン免疫に重要である。ヘルパーT細胞とキラーT細胞の細胞内シグナル伝達の主な経路は共通であるが、それに加えてキラーT細胞ではT細胞受容体の下流でGNAQ-PLCβ4経路が活性化し、キラーT細胞依存的な免疫応答を引き起こすことを明らかにした。

本研究の背景

病原性原虫であるトキソプラズマは日和見病原体の一つで、健常人が感染しても問題ありませんが、抗ガン剤投与患者や臓器移植患者などの免疫不全者や妊婦が初感染した場合に致死的なトキソプラズマ症を引き起こします。トキソプラズマに対する免疫系は、マクロファージなどの自然免疫系とT細胞などによる獲得免疫系が応答し、それらが相互に協調して働くことが重要であることが分かってきました。

ホスホリパーゼC(PLC)はリン酸エステル基の直前でリン脂質を切断する酵素群の総称で、真核生物で広く保存され、特に細胞内シグナル伝達経路で重要な役割を果たしています。13種類存在する哺乳類のPLCは構造に従ってβ、γ、δ、ε、ζ、ηに分類されます。PLCβ4は4つあるPLCβファミリー分子の一つで、主に中枢神経系に存在していることが報告されていましたが、免疫系における役割については全く分かっていませんでした。

本研究の成果

本研究により、PLCβ4はCD8T細胞(キラーT細胞)特異的にTCRシグナル伝達経路に重要であり、その活性化が個体レベルでの抗トキソプラズマ免疫および抗ガン免疫に必須であることを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

PLCβ4の活性を人為的に制御することでキラーT細胞による抗トキソプラズマ免疫や抗ガン免疫を賦活できるようになることから、今後PLCβ4が新規の創薬標的となることが大いに期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年5月10日(月)午後10時(日本時間)に米国科学誌「Journal of Experimental Medicine」(オンライン)に掲載されました。

タイトル
“Uncovering a novel role of PLCβ4 in selectively mediating TCR signaling in CD8+ but not CD4+ T cells”
著者名
Miwa Sasai, Ji Su Ma, Masaaki Okamoto, Kohei Nishino, Hikaru Nagaoka, Eizo Takashima, Ariel Pradipta, Youngae Lee, Hidetaka Kosako, Pann-Ghill Suh, Masahiro Yamamoto

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「日本のトキソプラズマ症の感染実態把握とその制御に向けた協創的研究開発」の研究支援を受け、韓国・脳研究院Pan-Ghill Suh院長(서판길 한국뇌연구원 원장)、徳島大学・小迫英尊教授と愛媛大学の高島英造准教授の協力を得て実施されました。

用語説明
(※1)PLCβ4(ピー エル シー ベータ 4)
PLC(ホスホリパーゼC)はリン脂質を切断する酵素群の総称。哺乳類では構造及び生理活性化機構によってβ、γ、δ、ε、ζ、ηの6タイプに分類される。PLCβは1~4の4つのサブタイプに分かれ、PLCβ4はその4番目。脳、神経系に多く発現し重要な機能を果たしており、PLCβ4KOマウスでは運動失調、視覚異常など様々な異常が観察される。
(※2)キラーT細胞
キラーT細胞はリンパ球であるT細胞の亜集団であり、病原体感染細胞やがん細胞を直接殺傷することから、「キラー」T細胞と呼ばれる。同じ亜集団に、ヘルパーT細胞と呼ばれる細胞も存在し、B細胞やキラーT細胞の役割を助けることから「ヘルパー」T細胞と呼ばれている。
(※3)T細胞受容体(TCR)
T細胞受容体(T Cell Receptor, TCR)は、T細胞の表面に存在する受容体である。これまでヘルパーT細胞とキラーT細胞の間でTCRのシグナル伝達経路には質的な違いはないと考えられてきた。
お問い合わせ先

本件に関する問い合わせ先
大阪大学 微生物病研究所 教授 山本 雅裕(やまもと まさひろ)

AMED事業に関するお問い合わせ先
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部 創薬企画・評価課
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業

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