2023-12-05 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区 理事長:五十嵐隆)アレルギーセンターの大矢幸弘、福家辰樹、山本貴和子、宮地裕美子らの研究グループは、食物アレルギーの子どもの治療である経口免疫療法に関する研究を行いました。鶏卵もしくは牛乳の食物アレルギーがある子ども(4歳~18歳)に対し、食物経口負荷試験[2]の閾値[3]をもとに5つの方法(A~E群)で経口免疫療法を行い、経口免疫療法中のそれぞれの方法の安全性と有効性について電子カルテデータを用いて分析しました(図1)。
その結果、閾値の1/100量から開始、1/10量で維持する方法が従来の方法よりも2回目の食物経口負荷試験の閾値上昇人数の割合が高く、重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシー症状が出現することなく、症状が出現しても軽微なものに限られているということがわかりました。
本研究成果は、アレルギー分野の雑誌「Clinical Experimental Allergy」で発表しました。
【図1. 食物経口免疫療法の5つの群のイメージ】
[1]経口免疫療法とは、即時型食物アレルギーの子どもに対して、日常的に自宅で原因食物を継続して摂取することで、制限している原因食物の耐性が獲得され、食物アレルギーが改善する可能性のある治療法のこと。
[2]食物経口負荷試験とは、問診や血液検査、皮膚検査で疑われた食品を実際に病院で摂取してみる検査のこと。
[3] 閾値とは、食物経口負荷試験で症状が出現した量を除いた負荷量の合計(累積耐量)のこと。
プレスリリースのポイント
- 即時型食物アレルギーの子どもの治療である経口免疫療法では、本研究を通して極微量より開始し、食物経口負荷試験の閾値以下で維持する方法(極微量開始維持法)は、従来行われてきた方法よりも安全で有効性が高いことがわかりました。
- 微量開始維持群では、重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシー症状が出現することなく、症状が出現しても口や喉のかゆみなどいずれも軽微なものに限られていました。
- 本研究により、即時型食物アレルギーの子どもが、閾値より低い微量の部分解除の方法で安全かつ有効に経口免疫療法に臨むことができる具体的な量の目安を示すことができました。
- ただし、食物アレルギーはアトピー性皮膚炎や喘息などその他のアレルギー疾患との関連性が高く、当センターでは経口免疫療法を行う際、湿疹の治療をはじめその他のアレルギー疾患のコントロールを徹底して行っています。実臨床で行う場合にはその点にも十分配慮をして行われる必要があります。
【図2. 研究結果】
背景・目的
食物経口免疫療法は、これまで完全に除去するしかなかった重症な子どもにとっては有用な治療法と考えられています。しかし、最適な量や安全性が確立しておらず、一般診療でどこでも実施できるものではありません。また摂取量や体調不良、摂取後の運動などによりアナフィラキシーなどの重篤症状も含むアレルギー症状が誘発されることがあり、大きな課題となっていました。
この研究は、安全に、かつ有効な経口免疫療法の方法を検討する目的に行われました。
発表論文情報
題名:Effectiveness and safety of low-dose oral immunotherapy protocols in paediatric milk and egg allergy
著者名:宮地裕美子、山本貴和子、羊利敏、福家 辰樹、成田雅美、大矢 幸弘
所属名:国立成育医療研究センター アレルギーセンター
掲載誌:Clinical & Experimental Allergy
DOI:10.1111/cea.14400
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本件に関する取材連絡先
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室