2024-01-10 東北大学
大学院薬学研究科 薬理学分野
教授 佐々木拓哉
【発表のポイント】
- 内臓の情報を脳へ伝達する迷走神経は、前頭前皮質や扁桃体の脳波パターンと連動して、正常な情動の形成に関与することを示しました。
- このような生理活動は、精神的ストレスを負荷すると減弱し、迷走神経を慢性的に刺激すると回復しました。
- 迷走神経と脳の連動が、ストレスやこころの状態を理解するために重要であることが示され、より正確な精神疾患に対する治療法の考案が期待されます。
【概要】
長い間、情動は脳によってつくられると考えられてきました。しかし最近の研究では、情動は脳だけでなく、様々な内臓の状態にも影響を受けることがわかっています。中でも、身体を走行する迷走神経が重要であると考えられますが、その詳細な生理メカニズムは不明でした。
東北大学大学院薬学研究科の佐々木拓哉教授と、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループは、マウスにおいて、迷走神経と、情動に重要な脳の前頭前皮質および扁桃体の活動がどのように関連するか解析しました。健常なマウスでは、迷走神経の活動に対応して、不安の増減と共に変動するような前頭前皮質と扁桃体で見られる脳波パターンの強弱が明確に連動することがわかりました。しかし、精神的なストレスを負荷してうつ様状態になったマウスでは、このような連動が観察されなくなりました。こうした病態生理変化は、迷走神経の電気刺激により、回復することが確認されました。
本研究成果は、私たちのこころの状態を正確に理解するために、脳だけでなく、迷走神経に着目することが重要であることを示唆します。このような考え方は、臨床研究において最近着目されている迷走神経刺激の治療法についても、新しい脳メカニズムを考察する契機となります。この成果は、2024年1月9日(火)午後6時(日本時間) に科学誌Nature Communicationsに掲載されました。
図1.本研究成果の概要図
健常マウスでは、前頭前皮質の20-30 Hz帯の脳波の増減が、迷走神経活動と連動する。このようなマウスでは、不安が高まるような環境で、安静な行動の状態を保つことができる。しかし精神的ストレスを負荷したうつ様マウスでは、このような迷走神経と脳の連動が減弱し、安静状態を保てなくなる(赤矢印、右側)。うつ様マウスの迷走神経を慢性的に電気刺激すると、健常マウスと同じような生理活動と安静状態に回復する(青矢印、左側)。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 佐々木拓哉
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
総務係