2018-09-03 京都大学
武藤誠 名誉教授(医学研究科特命教授)、坂井義治 医学研究科教授、三好弘之 産官学連携本部特定研究員(特任准教授)、前川久継 医学研究科研究生らの研究グループは、手術で摘出した大腸がんからがん幹細胞を効率よく分離し、立体的に培養する方法(スフェロイド培養)を開発しました。さらに、大腸がんスフェロイドを実験用マウスに移植してがんを形成させ、このマウスで投薬試験を行うことによって、抗がん剤の効果を精度よく予測する「PDSX(Patient-derived “spheroid” xenograft)」法を開発しました。
本研究成果は、2018年4月24日に米国の国際学術誌「Oncotarget」、および2018年7月3日に米国癌学会誌「Molecular Cancer Therapeutics」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の研究成果により、患者さん自身の大腸がん細胞を使った個別化医療の実現に一歩近づきました。次のステップでは、前向き試験によって治療中の患者さんでの効果を確認するとともに、手術で摘出したがんからスフェロイドを培養する工程を事業化する必要があります。今後は臨床現場の医師や民間企業と連携し、化学療法の必要な多くの患者さんが受けることのできる、廉価で信頼性の高い医療サービスの開発に取り組みます。
概要
大腸がんは日本で最も罹患数の多いがんで、各人に有効な抗がん剤を予測して投与する「個別化医療」の実現が望まれています。手術で摘出したがん組織からがん細胞を培養し、そこにさまざまな抗がん剤を投与して抗がん効果を見ることは、この個別化医療を早期に実現できる方法です。
本研究グループは、「がん細胞スフェロイド」(立体的ながん細胞の塊)を体外培養して抗がん剤の効果を調べる方法を改良し、コストを大幅に抑えるとともに試験に必要な期間を短縮することに成功しました。本研究により、がん細胞スフェロイドを2週間から2ヶ月という短期間で効率よく樹立でき、さらに培養の成功率が従来の6割から9割にまで上がりました。
また、本研究では、培養して十分な量に増やしたがん細胞スフェロイドを免疫不全マウスに移植することによって、がん組織を直接移植する従来法よりも効率よく、短期間で移植がんを作出する「PDSX 」法の開発に成功しました。今回発表したスフェロイド培養およびPDSXはいずれも従来の技術より低コスト、⾼効率であり、医療サービスとして直ちに提供できる⽔準にあります。今後は臨床現場での効果を検証する予定です。
図:今回開発した技術に基づく大腸がん個別化医療構想