睡眠を妨げる習慣を定量化する鍵に~就寝を先延ばしする傾向を測定する日本語版尺度を開発~

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2024-02-16 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部の栗山健一部長、羽澄恵研究員らの研究グループは、就寝を先延ばしする傾向を測定する尺度(Bedtime Procrastination Scale)の日本語版を開発し、信頼性と妥当性を検証しました。
これを用いることにより、睡眠相後退や不眠、睡眠不足の背後に存在する寝つき悪化の一要因となる行動習慣である「就寝を先延ばしにする傾向」を定量的に評価できるようになります。
本研究成果は2024年2月1日に、イギリスのオンライン総合学術雑誌「BMC Psychology」に掲載されました。

研究の背景

特別な用事がないにもかかわらず、意図した時刻よりも就寝時刻を先延ばししてしまう傾向が、睡眠相後退や不眠、睡眠不足などに関連することが指摘されています。就寝先延ばし傾向がみられるかどうかを定量的に評価できるようになることで、こうした問題の分析が可能になります。
そこで、本研究チームでは、Bedtime Procrastination Scale(BPS)の日本語版開発と信頼性・妥当性の検討を行いました。

研究の概要

原版開発者(Floor M. Kroese)の許諾を得て本研究チームで尺度の翻訳・逆翻訳を行った後、習慣的な睡眠不足がある100名に尺度の文章の明瞭さや理解の容易さを確認し、日本語版BPSを開発しました。
次に、信頼性と妥当性を検証するために、20 ~65歳の慢性睡眠不足症候群以外の睡眠障害がない日勤労働者574名から日本語版BPSに有効回答を得た上で、再検査信頼性を検証するため14日後に280名から再度有効回答を得ました。
構造的妥当性を検討するために確認的因子分析を行ったところ、モデルの適合度が不十分だったため、因子負荷量が低い原版の項目2を除外して2因子構造で再度分析したところ適合度が向上したため、日本語版では原版から項目2を除外することにしました。再検査信頼性や内的一貫性は、項目2を含めた場合でも除外した場合でも、十分であることが示されました。
日本語版のBPSの各項目の平均点は2.72±0.87点、合計点は21.69± 7.05でした。繰り返し検査を行った際は、前者では1.13点以上、後者では9.08点以上の変化が見られた際に、誤差を越えた変化と判断するのが適切と示されました。BPS得点の高さは、睡眠時間の短さ、睡眠相後退を示す指標である睡眠中央時刻の遅れ、睡眠不足傾向と有意な関連を示しました。また、BPS得点が高い人は終業時刻が遅く、就寝時刻を先延ばしすることへの抵抗感が薄い傾向が示されました。

図1
日本語版Bedtime Procrastination Scaleの概要

日本語版Bedtime Procrastination Scaleは、8項目からなります。各項目について、1(ほとんどない)から5(いつもある)までの数字で評価し、全項目の平均点もしくは合計点を算出します。得点が高いほど、就寝を先延ばしする傾向が強いと判断します。
1.自分が意図していたより、寝る時間が遅くなる。
3. 夜、明かりを消さなければならない時間になったら、すぐに消す。(反転項目)
4. 寝る時間になっても、他のことをしていることが多い。
5. 本当は寝ようと思っている時でも、すぐに他の事に気をとられてしまう。
6. 決まった時間に寝ない。
7. 決まった就寝時間があり、それを守っている。(反転項目)
8. 決まった時間に寝たいと思うが、できない。
9. 寝る時間になったら、それまで行っていた活動を容易に止められる。(反転項目)
※原版の項目2「翌朝早く起きなければならないときは、早く寝る。」は、構造的妥当性の観点から、日本語版では除外しました。

今後の展望

本研究から、日本の日勤労働者においては就寝先延ばし傾向が睡眠不足や睡眠相後退と関連していることが窺われました。
今後は、日本語版BPSを用いて、日本における就寝先延ばし傾向の疫学調査を行うとともに、就寝先延ばし傾向と様々な睡眠障害の関連についても明らかにしたいと考えております。

日本語版Bedtime Procrastination Scaleの使用について

研究、臨床、個人による使用を目的とする場合は、以下のURLよりダウンロードして無料でご使用いただけます。研究等での使用にあたっては、公表時に以下の論文(*)の引用をお願いいたします。商業目的の場合は、必ず事前にメールでご相談ください。

https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/research_activity/tool/index.html

*論文
*Hazumi M, Kawamura A, Yoshiike T, Matsui K, Kitamura S, Tsuru A, Nagao K, Ayabe N, Utsumi T, Izuhara M, Shinozaki M, Takahashi E, Fukumizu M, Fushimi M, Okabe S, Eto T, Nishi D, Kuriyama K. Development and validation of the Japanese version of the Bedtime Procrastination Scale (BPS-J). BMC Psychol. 2024 Feb 1;12(1):56. doi: 10.1186/s40359-024-01557-4. PMID: 38303086.
*Kroese FM, De Ridder DT, Evers C, Adriaanse MA. Bedtime procrastination: introducing a new area of procrastination. Front Psychol. 2014 Jun 19;5:611. doi: 10.3389/fpsyg.2014.00611. PMID: 24994989; PMCID: PMC4062817.

用語の説明

1)睡眠相後退:眠りについてから目覚めるまでの時間帯(睡眠相)が遅れ、極端な遅寝遅起きの状態。
2)慢性睡眠不足症候群:本来必要とされる睡眠時間よりも実際に眠っている時間のほうが短い状態が慢性的に続いている状態で、日中の強い眠気や倦怠感等により仕事や学業に支障が生じる睡眠障害。
3)睡眠中央時刻:眠りにつく時刻と目覚める時刻のちょうど中間にあたる時刻。この時刻が遅い(早い)ほど睡眠相が後退(前進)していることを示す。

原著論文情報

論文名:Development and validation of the Japanese version of the Bedtime Procrastination Scale (BPS-J)
著者:Megumi Hazumi, Aoi Kawamura, Takuya Yoshiike, Kentaro Matsui, Shingo Kitamura, Ayumi Tsuru, Kentaro Nagao, Naoko Ayabe, Tomohiro Utsumi, Muneto Izuhara, Mio Shinozaki, Eriya Takahashi, Michio Fukumizu, Momo Fushimi, Satomi Okabe, Taisuke Eto, Daisuke Nishi & Kenichi Kuriyama
掲載誌: BMC Psychology
DOI/URL: https://doi.org/10.1186/s40359-024-01557-4

研究経費

本研究結果は、以下の支援を受けて行われました。
厚生労働科学研究:#21FA1002、#22FA2001
科研費補助金:22K13847、22K07590
国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費:2-1

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
公共精神健康医療研究部
睡眠・覚醒障害研究部 羽澄 恵

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報室

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