2024-02-21 京都大学
陸上植物は、藻類の一種を共通祖先として進化してきましたが、コケ植物と、花を咲かせる被子植物では生殖細胞の発生の様式が大きく異なります。被子植物では、雌しべに生じる胚のうの中に卵細胞と中央細胞を、また雄しべで生じる花粉の中に精細胞をつくりますが、コケ植物では、造卵器・造精器とよばれる生殖器官を形成し、その中にそれぞれ卵細胞と鞭毛をもつ精子をつくります。これらの組織の発生と生殖細胞の分化のメカニズムは、未だ多くの部分が不明のままになっています。
包昊南 生命科学研究科研究員(研究当時:同博士課程学生)、孫芮 同研究員(研究当時:同博士課程学生)、岩野恵 同研究員、吉竹良洋 同助教、山岡尚平 同准教授、河内孝之 同教授らのグループは、安喜史織 奈良先端科学技術大学院大学助教、梅田正明 同教授、西浜竜一 東京理科大学教授らと共同で、コケ植物のゼニゴケが、被子植物の胚乳の元になる細胞である中央細胞の分化に関わるCKI1遺伝子と相同な遺伝子を用いて、造卵器の発生において卵細胞のもとになる細胞の分化を制御していることを発見しました。CKI1を介したメカニズムは、陸上植物の共通の祖先において誕生し、約4億7000万年前に分かれて進化してきた被子植物とコケ植物において、それぞれの雌の生殖細胞の分化に重要な役割を果たしてきたと考えられます。
本研究成果は、2024年1月31日に、国際学術誌「Current Biology」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「この研究は、『裸子植物イチョウの雌性配偶体で被子植物の中央細胞の起源を探す』という内容の論文を研究室セミナーで紹介したことから始まりました。中央細胞の起源を探し求め、ゼニゴケで進化的に保存されたシグナル伝達経路を発見することができました。被子植物の中央細胞分化を制御するシグナル伝達と相同な経路が、ゼニゴケの卵細胞発生にも重要な役割を果たしていることは、大変興味深いことです。」(包昊南)
「中央細胞は種子の栄養を蓄える胚乳の生みの親とも言える細胞です。中央細胞の発生に重要とされる遺伝子が、見かけも大きく異なるコケ植物の造卵器発生に関わるとは思いもよらないことでした。陸上植物の生殖細胞の発生の仕組みには進化に秘められた共通性があるのかもしれません。」(河内孝之)
詳しい研究内容について
コケ植物の卵細胞を生み出す遺伝子を発見―陸上植物の生殖細胞をつくる機構とその進化―
研究者情報
研究者名:吉竹 良洋
研究者名:山岡 尚平
研究者名:河内 孝之
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.01.013
【書誌情報】
Haonan Bao, Rui Sun, Megumi Iwano, Yoshihiro Yoshitake, Shiori S. Aki, Masaaki Umeda, Ryuichi Nishihama, Shohei Yamaoka, Takayuki Kohchi (2024). Conserved CKI1-mediated signaling is required for female germline specification in Marchantia polymorpha. Current Biology.