糖尿病の発症初期段階での運動はマイクロRNAの発現増加と心機能の改善をもたらすことが明らかに

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2020-09-24 国立循環器病研究センター

オタゴ大学医学部生理学科と国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)研究所との共同研究によって、身体の心臓保護遺伝子調節機構を操作することにより、糖尿病性心疾患に起因する心不全を改善するための新たな可能性を明らかにしました。オタゴ大学医学部生理学科のSchwenke Daryl准教授、Katare Rajesh准教授、元博士課程の学生Lew Jason博士および国循心臓生理機能部長ピアソン・ジェームズ率いる研究チームとの長年にわたる共同研究の成果が、Circulation Research誌オンラインファースト版で9月10日に掲載されました。

背景

糖尿病は冠血管機能障害および冠血管リモデリングを誘発し、心筋灌流を次第に低下させ、心機能障害や心不全を引き起こすことが知られています。また、不規則な食生活や運動不足は、糖尿病性心疾患の進行を加速させる危険因子です。したがって、糖尿病性心疾患の進行具合を把握することはとても重要です。そこで我々は近年バイオマーカーとして注目されているマイクロRNA(注1)に着目しました。マイクロRNAは遺伝子発現調節を介して細胞分化、細胞死、細胞増殖、代謝など様々な生命現象を制御する分子ですが、糖尿病性心不全の発症とマイクロRNAの関連性はまだ解明が進んでいません。また、一般的に、スポーツや運動トレーニングは糖尿病を始めとする生活習慣病に対して心臓保護的であることが示されていますが、その最適な強度や時間については結論は出ていません。従って本研究ではこれらを踏まえ、異なる糖尿病発症時期に対して異なる強度の運動介入を行い、糖尿病性心疾患の進行度合いを示すバイオマーカーとなる心臓由来マイクロRNAの同定とともに、その具体的な機能解明を目指して共同研究を行いました。

研究手法と成果

ピアソン部長、土持裕胤統合生理研究室長の研究チームとLew博士は、肥満糖尿病自然発症モデルマウスを用いて8週間の運動トレーニングを行った後、Schwenke准教授とKatare准教授のチームと共に、大型放射光施設SPring-8を利用し、最先端の放射光X線イメージング法で冠血管機能評価を行いました。その後、病態発症の程度と血中および心臓のマイクロRNA発現の関連を調べました。
その結果、肥満糖尿病マウスに対する運動トレーニングによって、心臓保護的マイクロRNAの発現増加や局所放出の増加を観察しました。重要なことは、糖尿病の発症初期段階での運動トレーニングはマイクロRNAの発現増加と心臓・冠血管機能の改善をもたらしたが、糖尿病が進行した状態で運動トレーニングを始めた場合には、その効果が減弱したことです。今回用いた肥満糖尿病モデルマウスは遺伝的要因が極めて強いため、運動トレーニングを行っても糖尿病自体は改善されませんでしたが、糖尿病の改善とは独立して、心疾患の病態改善、心臓灌流(図1)、血管・心筋細胞の形態(図2)や心機能に対する運動の効果を初めて明らかにしました。

今後の展望

臨床現場では既に、糖尿病が進行すると運動を維持するのが難しいことが知られています。今回の研究で、これらの保護的マイクロRNAを冠血管や心筋障害の単なる診断指標として用いるだけでなく、進行性糖尿病に対する運動療法とマイクロRNAの投与を組み合わせることで、運動療法の効果を高める治療法の開発へと繋げたいと考えています。

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