哺乳類細胞における突発的遺伝子発現動態を網羅的に決定!!

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iPS細胞の精密な分化誘導法確立に繋がる可能性

2020-06-18 広島大学

本研究成果のポイント
  • 細胞は、同じゲノムDNAを持ち、同じ環境にいる同一細胞種間でも、異なる性質を示し得る。
  • 突発的遺伝子発現がこの多様性の誘引に関与していると考えられているが、その制御機構は不明。
  • 本研究では、哺乳類細胞における突発的遺伝子発現動態を1細胞レベルでの遺伝子発現解析により明らかにし、突発的遺伝子発現の動態に影響を与える特徴を発見。
  • これらの結果は、細胞間の性質的多様性の軽減法を確立し、iPS細胞の精密な分化誘導法の開発など、再生医療への応用が期待。
概要

広島大学大学院統合生命科学研究科、ゲノム編集イノベーションセンターの落合博講師、山本卓教授、理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)の二階堂愛チームリーダー、東京工業大学の木村宏教授、九州大学の大川恭行教授、国立国際医療研究センター研究所動物実験施設の岡村 匡史室長らのグループは、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞)における突発的遺伝子発現動態を網羅的に決定しました。

細胞は、数万ある遺伝子の情報をRNAへと「転写」し、RNAからタンパク質が合成され、生命活動を維持しています。この一連の流れを「遺伝子発現」と呼び、遺伝子の発現量は主に転写時に制御されています。多くの発現遺伝子は、常に一定の速度で転写されている訳ではなく、速い速度で転写される状態と、ほとんど転写されない状態が確率的に切り替わっていることが知られていました。これは「突発的遺伝子発現」または「転写バースト」と呼ばれ、同一環境中にいる、同一のゲノムDNAを有する細胞間で遺伝子発現量の多様性を生む要因の一つであることが知られています。しかし、哺乳類細胞における突発的遺伝子発現がどのように調節されているかは不明でした。本研究では、マウスES細胞における突発的遺伝子発現の動態を網羅的に解明するために、1細胞レベルの遺伝子発現解析を行い、転写伸長因子などが突発的遺伝子発現動態を制御することを明らかにしました。さらに、網羅的遺伝子破壊解析によって、Akt/MAPKシグナル伝達経路が転写伸長効率を調節することによって突発的遺伝子発現動態を調節することを明らかにしました。これらの結果は、哺乳類細胞における突発的遺伝子発現と細胞間遺伝子発現量多様性の根底にある分子機構を明らかにし、突発的遺伝子発現に由来する細胞間遺伝子発現量多様性を制御する技術の確立が期待されます。これにより、iPS細胞等の多能性幹細胞から特定細胞種への効率的な分化誘導法の確立へと繋がる可能性があり、再生医療への応用が期待されます。

本研究の成果は、「SCIENCE ADVANCES」に掲載されました。

図1: 転写バーストは遺伝子発現量の多様性を誘引する。 (A)転写活性状態と転写不活性状態は確率的に切り替わり、転写活性状態にのみ転写が盛んに行われる。このような転写様式を転写バースト(突発的遺伝子発現)と呼ぶ。(B) 転写バーストの有無による、mRNA数動態の模式図。(C) 転写バーストは、遺伝子発現において、細胞間および対立遺伝子間の不均一性を誘引する。同じ細胞状態の細胞が複数存在する場合、転写バーストにより細胞間、さらには対立遺伝子間でも遺伝子発現の不均一性が見られる(左パネル)。右パネルは、個々の対立遺伝子由来のmRNA数の散布図を示す。各データポイントは単一細胞からの発現データを示す。内因性ノイズが大きいほど、分布は対角線に垂直に伸びる傾向が大きくなる。

論文情報

掲載誌: SCIENCE ADVANCES

論文タイトル: Genome-wide kinetic properties of transcriptional bursting in mouse embryonic stem cells.

著者名: Hiroshi Ochiai1,2*, Tetsutaro Hayashi3, Mana Umeda3, Mika Yoshimura3, Akihito Harada4, Yukiko Shimizu5, Kenta Nakano5, Noriko Saitoh6, Zhe Liu7, Takashi Yamamoto1,2, Tadashi Okamura5, Yasuyuki Ohkawa4, Hiroshi Kimura8, Itoshi Nikaido3,9* (*責任著者)
所属:
1. 広島大学大学院統合生命科学研究科,2.  ゲノム編集イノベーションセンター, 3. 理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR), 4. 九州大学生体防御医学研究所, 5. 国立国際医療研究センター研究所, 6. がん研究会, 7. ハワードヒューズ医学研究所, 8. 東京工業大学, 9. 筑波大学

DOI: 10.1126/sciadv.aaz6699

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【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院統合生命科学研究科 生命医科学プログラム
講師 落合 博

理化学研究所 生命機能科学研究センター(BDR)
二階堂 愛

<報道に関すること>
広島大学 財務・総務室 広報部広報グループ

国立研究開発法人理化学研究所 広報室 報道担当

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