2024-04-05 高知大学
自然科学系農学部門の市栄智明教授らの国際共同チームの研究成果が、国際誌「Oecologia」に2024年3月14日付で掲載されました。
東南アジアの低地熱帯雨林では、2-10年に1度、様々な樹木が同調的に開花・結実する一斉開花・結実現象がみられます。特に優占樹種であるフタバガキ科の多くの樹木が一斉開花の年のみ繁殖し、その年には大量に結実します。これまで、樹木はこのような大量開花・結実のために、長い時間をかけて炭水化物を樹体内に貯蔵し、それを利用して繁殖を行っていると考えられていました。
本研究は、マレーシア・ボルネオ島のランビル国立公園で起こった一斉開花に参加したフタバガキ科18種を対象として、種子に含まれる放射性炭素同位体(※1)を分析し、種子の炭水化物が光合成によっていつ作られたかを特定しました。その結果、どの樹種も長い期間をかけて蓄積したものではなく、主に繁殖が起きた年の光合成で作られた炭水化物を利用していることが明らかになりました。つまり、フタバガキ科樹木は数年に1度の種子生産に対して「貯蓄型」ではなく、比較的新しい資源を使い極端に言えば、宵越しの銭は持たないと言えるような「自転車操業型」の対応で、大量の種子生産に対応していることが分かったのです。
今後は、種子生産に対する窒素やリンなど他の栄養素の貢献度が分かれば、一斉開花の発生時期や種子生産量の予測が可能になり、東南アジア熱帯雨林の適切な保全・管理技術の確立につながることが期待されます。
題 名:No evidence of carbon storage usage for seed production in 18 dipterocarp masting species in a tropical rain forest
(熱帯雨林のフタバガキ科18種の種子生産に対して貯蔵炭素の利用の証拠なし)
著 者:Shuichi Igarashi1 · Shohei Yoshida1 · Tanaka Kenzo2 · Shoko Sakai3,6 · Hidetoshi Nagamasu4 · Fujio Hyodo5 ·Ichiro Tayasu6 · Mohizah Mohamad7 · Tomoaki Ichie1
所 属:1高知大学, 2国際農林水産業研究センター, 3香港浸会大学, 4京都大学, 5岡山大学, 6総合地球環境学研究所, 7マレーシアサラワク森林局
D O I:https://doi.org/10.1007/s00442-024-05527-w
プレスリリース_熱帯雨林樹木の繁殖への対応は貯蓄型か自転車操業型か?.pdf(596KB)
※1放射性炭素同位体(14C):大気中には安定同位体である12Cが約99%、同じく安定同位体である13Cが約1%、そして放射性同位体である14Cが極微量含まれている。 植物は12Cと同時に、13Cや14Cも取り込んで光合成を行っている。