野菜を「噛む」ことが血糖値変動のメカニズムに影響~ 咀嚼が食後のインスリン分泌を促すことを確認~

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2024-04-17 早稲田大学

発表のポイント

  • ゆっくりとよく噛んで食べることによる食後の代謝応答への影響は知られているが、これまで同じエネルギー量の食品を用いた咀嚼の有無による影響は検討されていなかった。
  • 野菜を「噛む」ことで、食後のインスリン分泌およびインスリン分泌を促すホルモンが刺激されることを確認した。
  • 野菜を「噛んで食べる」という食べ方の一つである咀嚼の重要性を、食後の代謝の視点より裏付けることを明らかにした。
概要

早稲田大学スポーツ科学学術院の宮下 政司(みやした まさし)教授、同大学スポーツ科学研究センターの亀本 佳世子(かめもと かよこ)研究助手(当時)と、キユーピー株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役 社長執行役員:髙宮 満)らの研究グループは、野菜(キャベツ)を「咀嚼して食べるとき」と「咀嚼せずに食べるとき」の食後における代謝への影響を調べたところ、噛むことで食後の血糖値を下げるホルモンであるインスリン※1がしっかりと分泌され、その作用機序の一つとしてインスリンの分泌を促す作用を持つホルモンであるインクレチン※2が食後の初期段階で刺激されることを発見しました。

野菜を「噛む」ことが血糖値変動のメカニズムに影響~ 咀嚼が食後のインスリン分泌を促すことを確認~

本研究成果は、Springer Nature発行の『Scientific Reports』に「Effect of vegetable consumption with chewing on postprandial glucose metabolism in healthy young men: a randomised controlled study」として、2024年3月30日(土)にオンラインで公開されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

食事を摂ると血糖値が上昇します。健康なヒトの場合は、血糖値を下げるはたらきをするインスリンが分泌され、体内に糖質を取り込むため血糖値は下がります。ところが、食後のインスリン分泌が少ない場合や、働きが不十分だと、血糖値が高いままの状態である「食後高血糖」を引き起こします。食後の血糖値が高い状態が続くことは糖尿病予備群の可能性があり、さらに動脈硬化の危険因子となるため注意が必要です。そこで、これまで食後の血糖値上昇を抑える食品や食事法に関する研究が数多く行われてきました。そのひとつが「咀嚼、噛むこと」です。

咀嚼は消化の最初のプロセスであり、固形物を粉砕し唾液の分泌を促します(Bilt et al., Physiol Behav. 89, 22-27. 2006)。さらにエネルギー吸収に関与し(Lasschuijt et al., Nutrients. 13,1391. 2021)、充分な咀嚼は空腹感を抑えることが報告されています(Zhu et al., Br J Nutr. 110, 384-390. 2013)。健康な成人を対象とした研究では、食事の前にガムを噛む、または食事中の咀嚼回数を増やすことにより、食後の血中グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1:GLP-1)や、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic peptide:GIP)などのインクレチンの分泌が促進され、早期のインスリンの分泌が促されることで食後血糖値の上昇が抑えられることが明らかとなっています(Takahara et al., Diabetol Int. 11, 394-402. 2020; Zhu et al., Br J Nutr. 110, 384-390. 2013)。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

食事の始めに野菜を摂取する、いわゆる「ベジタブルファースト」の食事法は、食後血糖値の上昇を抑える働きがあることが報告されています(Sun et al., Clin Nutr. 39, 950-957. 2020)。これは野菜に多く含まれる食物繊維が関係していると考えられます。また、野菜の形状の違い(固形または液状)によって食後血糖値に及ぼす影響は異なることが報告されています(Zhu et al., Br J Nutr. 120, 1023-1033. 2018)。しかしながら、野菜を咀嚼して摂ることが食後血糖値とインスリンやインクレチンなどのホルモンの分泌に及ぼす影響は不明でした。

そこで本研究では、食前に固形の野菜を咀嚼して摂取することが食後の糖代謝に及ぼす影響について検証しました。その結果、食前に固形の野菜を咀嚼して摂取することは、食後のインスリンおよびインクレチンの分泌を促進することが明らかになりました。

(3)そのために新しく開発した手法

19人の健康な成人男性(平均22歳)を対象として、野菜を噛んで食べる「咀嚼条件」(千切りキャベツ+ゼリー飲料※3)と野菜を噛まずに食べる「非咀嚼条件」(キャベツ粉砕物+ゼリー飲料)のそれぞれ2条件に参加する交差試験※4を行いました(図1)。食べ始めを0分として、0分、15分、30分、45分、60分、90分、120分、180分後に、それぞれの条件で採血を行い、「血糖」および、血糖値変動メカニズムの指標として「インスリン」「インクレチン(GIP、GLP-1)」の血中濃度を調べました。


図1:本研究のプロトコル図

結果は次の通りです。試験全体(180分)におけるインスリンおよびGIPの上昇曲線下面積※5が咀嚼条件で高値を示すことが確認されました(図2 B、D)。一方、血糖では明らかな差は確認されませんでした(図2 A)。また、消化吸収速度で血中の応答が変わってくるGLP-1には、胃内容物排出※6の遅延を介した食後の血糖値の上昇を抑制する作用を有するため、GLP-1の血中の経時変化による解析を行い、比較したところ、咀嚼条件で食事開始45分から90分の時間帯で高値を示すことが確認されました(図3)。一方、試験全体(180分)におけるGLP-1の上昇曲線下面積(図2 C)では明らかな差は確認されませんでした。


図2:血糖およびホルモンの上昇曲線下面積
*条件間で統計学的な有意な差が認められました。


図3:GLP-1の経時変化
*条件間で統計学的な有意な差が認められました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

加齢に伴いインスリンの分泌が低下するため、野菜を「噛んで食べること」でインスリンの分泌が刺激される可能性が示唆された若年者を対象とした本研究の結果は大変意義深いと言えます。また、国が推進する食育推進基本計画※7では、「食育の推進に当たっての目標」の一つに、「ゆっくりよく噛んで食べる国民を増やす」ことが掲げられ、国民が生涯を通じ心身の健康を支える食育の推進の視点として「噛む」ことを推奨しています。しかしながら最近は、固い食べ物は敬遠され、やわらかい食品が好まれる傾向にあり、意識して「噛む」ことが求められているため、普段の生活の中の実践が期待されます。

(5)今後の課題

本研究では、野菜(キャベツ)を「咀嚼して食べるとき」と「咀嚼せずに食べるとき」の「咀嚼」に着目し、その代謝への影響を検討したかったため、用いたその他の食品として咀嚼せずに摂取できるゼリー飲料を用いました。食後のインスリン及びインクレチン分泌が促進されたにも関わらず、食後血糖値は条件間で差が認められなかったのは、試験食が一般的な食事とは異なるゼリー飲料であったことが理由のひとつとして考えられます。インスリンの分泌には、食事をして血糖値が上がることによって出るインスリンとインクレチンによって出るインスリンがあります。本研究において、野菜(キャベツ)を「咀嚼して食べる」ことが、どちらに作用、あるいは両方に作用したか不明ですが、魚や肉に含まれる脂肪酸がインクレチン分泌を促すことが知られていますので、今後、野菜と一般的な食事とを組み合わせ、「ゆっくりとよく噛んで食べる」ことで、本研究と同様に食後にインスリンやインクレチンの分泌が促進し、食後の血糖値の上昇を抑えられるかを幅広い年代や性別で調査する必要があります。

(6)研究者のコメント

野菜を「噛んで食べること」に着目し食後の糖代謝を検討した研究は珍しく、特にこれまでインスリンの分泌を促進するインクレチンの作用は不明でした。なぜ、「咀嚼」がインスリンの分泌を促すかに着目し、キユーピー株式会社との共同研究により、この疑問を調べることができました。野菜を「噛んで食べること」で増えたインクレチンは、食欲にも関わるホルモンであるため、今後、日常生活の中で「ゆっくりとよく噛んで食べる」ことを実践することで、食事の摂取量や体重にも影響があるか否かについても調査していきたいと思います。

(7)用語解説

※1 インスリン
血糖を下げる働きをもつ膵臓のβ細胞で作られるホルモン。

※2 インクレチン
食事を摂ると腸管から分泌されるホルモンの総称で、インスリンの分泌を促進する働きがある。代表的なホルモンとして、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ホルモン)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド‐1)があり、前者は主に小腸上部のK細胞、後者は主に小腸下部のL細胞より分泌される。

※3 ゼリー飲料
血糖を上昇させ、噛まずに摂取できる食品として体重1㎏あたり5.5 gを摂取した(100 g中に含まれる炭水化物25 g、脂質0 g、たんぱく質0 g、エネルギー量約100 kcal)。

※4 交差試験
複数の試行が存在する場合、個体要因を排除するために、全対象者が各条件間に休息期間(ウォッシュアウト期間)を設けながら、全ての条件に参加する方法のこと。

※5 上昇曲線下面積
時間経過にともなう増加量(空腹時や初期値を0とした場合)の面積のこと。

※6 胃内容物排出
摂取したもの(食事や飲料)が胃から小腸に移行されること。

※7 食育推進基本計画
食育基本法に基づき、食育の推進に関する基本的な方針や目標について定める「第4次食育推進基本計画」(https://www.mhlw.go.jp/content/000770380.pdf)

(8)論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文名:Effect of vegetable consumption with chewing on postprandial glucose metabolism in healthy young men: a randomised controlled study
執筆者名(所属機関名):Kayoko Kamemoto*d, Yusei Tataka*e, Ayano Hiratsu *e, Chihiro Nagayama*e, Yuka Hamada*d, Koji Kurata*f, Michiko Chiyoda*f, Machi Ito*f, Masashi Miyashita*a,b,c
*a Faculty of Sport Sciences, Waseda University
*b School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University
*c Department of Sports Science and Physical Education, The Chinese University of Hong Kong
*d Waseda Institute of Sport Sciences, Waseda University
*e Graduate School of Sport Sciences, Waseda University
*f R&D Division, Kewpie Corporation
掲載日時:2024年3月30日(土)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-58103-w
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-58103-w

医療・健康
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