2024-05-22 九州大学
医学研究院
小野 悦郎 名誉教授
ポイント
- 最先端のゲノム編集技術による胚操作により、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の骨格筋および心筋の症状を再現する世界最小のマイクロミニ・ブタモデルを創出しました。
- このモデルは、DMDの病態の更なる解明や治療法開発に役立つことが期待されます。
概要
この研究では、CRISPR/Cas9を用いた先進的なゲノム編集技術を用いて、マイクロミニ・ブタ(※1)のジストロフィン遺伝子のエクソン23に11塩基の欠失を作りました。この結果、このブタの骨格筋や心筋の細胞膜からは、最も大きなジストロフィンの分子種であるDp427タンパク質が消失します(図a参照)。ジストロフィンのウエスタンブロット解析では、骨格筋と心筋からDp427タンパク質がなくなっている一方で、短いジストロフィンの分子種であるDp71タンパク質は残っているのが分かりました(図b参照)。また、ジストロフィンの免疫染色では、骨格筋と心筋の細胞膜からDp427タンパク質が消失していることが確認され、これはヒトのデュシェンヌ型筋ジストロフィー(※2)と同様のパターンを示しています(図c参照)。このマイクロミニ・ブタモデルは、骨格筋の萎縮と筋力の低下、心筋症、血中クレアチニン値が高値、運動機能の低下など、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に見られる症状を非常に良く再現していました。
このマイクロミニ・ブタモデルの注目すべき特徴は、ブタでありながら非常に小さいため、中型実験動物の施設で容易に飼育できること、そして、早死にしないことです。生後3ヶ月から6ヶ月の間に亡くなるものがいるものの、生後すぐに亡くなることはなく、1年以上生きる個体も多数いる点が、以前のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのミニブタモデルとは大きく異なります。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの新しいマイクロミニ・ブタモデルは、以前のブタモデルよりも寿命が長く、骨格筋と心筋の状態が適切に重症化するため、病気のメカニズムをより深く理解することができます。
研究成果は、Natureの姉妹紙であり、オープンアクセス・ジャーナルの「Communications Biology」に、2024年5月3日にオンライン掲載されました。
用語解説
(※1)マイクロミニ・ブタ = マイクロミニピッグ
マイクロミニピッグは、富士マイクラ株式会社がポットベリー種を始祖として国内で繁殖•固定化した実験用ブタで、生後6ヵ月で体重は10kg未満、体長も80cm未満と超小型のため、犬用ケージで飼育が可能です。2年齢の成獣でも25kg程度と一般のミニブタの半分以下の大きさです(性成熟は雄が4.5ヶ月、雌が8ヶ月齢)。そのため扱いが容易で薬物の投与量も抑えることができ、費用対効果の高い試験の実施が可能です。さらに、豚白血球抗原(SLA)では11種類のハプロタイプが確認されており免疫学的反応の解析も行えます。
(※2)デュシェンヌ型筋ジストロフィー
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、男児に発症する、もっとも頻度の高い遺伝性筋疾患で、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の細胞の骨組みを作るタンパク質(ジストロフィンタンパク質)の遺伝子に変異が起こることで、正常なタンパク質が作れなくなり、筋力が低下してやがて死に至る重篤な疾患です。現在、その進行を遅らせる目的でステロイド剤による治療が行なわれていますが、それ以外に有力な治療法は存在せず、新たな治療法の開発が必要とされています。
論文情報
論文名:Severe cardiac and skeletal manifestations in DMD-edited microminipigs: an advanced surrogate for Duchenne muscular dystrophy
著者: Masayoshi Otake, Michihiro Imamura, Satoko Enya, Akihisa Kangawa, Masatoshi Shibata, Kinuyo Ozaki, Koichi Kimura, Etsuro Ono & Yoshitsugu Aoki
掲載誌: Communications Biology 2024
DOI:10.1038/s42003-024-06222-5
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研究に関するお問合せ先
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 部長 青木吉嗣