2024-07-09 京都大学
アデノシン三リン酸(ATP)は「エネルギー通貨」とも呼ばれ、様々な生命活動に不可欠な分子ですが、その詳細な動態は謎に包まれていました。柳田素子 医学研究科教授(兼:高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)主任研究者)、山本恵則 ASHBi特定研究員(現:医学部附属病院特定病院助教)らは、これまでに細胞内ATP濃度を可視化するセンサーを全身発現したマウスを作成し、生体腎のATP動態を高精度かつリアルタイムに捉えることに成功しました。本研究では、同マウスの腎臓のスライス切片を作成し、独自に改良した培養条件下で観察することで、これまで観察ができなかった腎臓の深部領域を含めたATPの可視化に成功しました。最近、アメリカ食品医薬品局(FDA)は医薬品承認のための動物実験要件を撤廃しました。この背景には動物愛護の観点があり、これにより、動物実験を臓器チップやオルガノイドなどの実験で代替できるようになりましたが、代替法はまだ動物実験を完全に代替するには至っておらず、さらなる発展が待たれています。本研究グループによる新規システムは、生体に類似した三次元構造と機能性(トランスポーターによる薬物取り込みなど)を保持しており、さらに1つの腎臓から複数のスライスを作成し、複数の実験条件を同時に試験することができることから、動物愛護の観点からも高いポテンシャルを持った実験系だと考えられます。本技術は、腎臓病の原因をエネルギー代謝の観点から解明することや、新規薬剤開発に役立つと考えられます。
本研究成果は、2024年7月9日に、国際学術誌「Kidney International」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「現代においても、腎機能を改善させる画期的な薬剤の開発は未だに困難な状況です。その原因として、腎臓が多種多様な細胞から構成され、腎臓の機能はそれらの細胞間の複雑な相互作用のバランスの上で成り立っているからだと考えられます。本技術に限らず、複数の細胞の機能を経時的に解析できる実験手法は、今後も重要になると考えられます。腎臓病や透析で苦しむ患者さんが減るよう、引き続き、病気の根本的な原因解明を目指して研究・診療に取り組んでいきたいと考えています。」(山本恵則)
詳しい研究内容について
腎臓全領域におけるエネルギー動態の可視化―腎臓病の病態解明や薬剤開発に役立つ新技術―
研究者情報
研究者名:柳田 素子
研究者名:山本 恵則
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.kint.2024.05.028
【書誌情報】
Shigenori Yamamoto, Shinya Yamamoto, Masahiro Takahashi, Akiko Mii, Akihiro Okubo, Naoya Toriu, Shunsaku Nakagawa, Takaaki Abe, Shingo Fukuma, Hiromi Imamura, Masamichi Yamamoto, Motoko Yanagita (2024). Visualization of intracellular ATP dynamics in different nephron segments under pathophysiological conditions using the kidney slice culture system. Kidney International.