レビー小体病に併存するアルツハイマー病変化を血液で評価 ~患者と予備群の血液を用いた発症前後の比較解析~

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2024-08-01 名古屋大学

レビー小体病に併存するアルツハイマー病変化を血液で評価 ~患者と予備群の血液を用いた発症前後の比較解析~

名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野 雅央 教授、平賀 経太 医員(筆頭著者)らの研究グループは、国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターおよび国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構との共同研究で、神経変性疾患のひとつであるレビー小体病(パーキンソン病とレビー小体型認知症を合わせた名称)の発症前および発症後の段階におけるアルツハイマー病の合併を、患者と予備群の血液バイオマーカーを用いて解析しました。
レビー小体病はα-シヌクレインの神経細胞内蓄積を病理学的特徴とする神経変性疾患であり、パーキンソン病とレビー小体型認知症を含む疾患概念です。近年、レビー小体病ではα-シヌクレインに加え、併存するアルツハイマー病理(アミロイドβとタウ*8 の蓄積)が認知症の出現や進行に関与することが剖検脳を用いた研究で報告されていましたが、こうしたアルツハイマー病の変化がいつから出現するのかは明らかではありませんでした。
本研究では、パーキンソン病患者 84 名、レビー小体型認知症患者 16 名に加え、勝野教授らの研究グループが開発した、アンケートによるレビー小体病発症リスク検出法(Hattori et al. J Neurol  267(5):1516-1526, 2020, Hattori et al. NPJ Parkinsons Dis  9:1-9, 2023)を用いて抽出したハイリスク者(予備群)82 名、ローリスク者(健康な方)37 名を対象に、血液中のアルツハイマー病のバイオマーカー(アミロイドβ、リン酸化タウ 181)と神経変性マーカー(ニューロフィラメント軽鎖)を測定しました。
その結果、パーキンソン病患者とレビー小体型認知症患者ではアルツハイマー病に関連した変化がみられましたが、未発症のハイリスク者ではアルツハイマー病の血液バイオマーカーに変化がみられませんでした。一方で、神経変性マーカーはハイリスク者、パーキンソン病患者、レビー小体型認知症患者のいずれにおいても上昇していました。
以上の結果から、パーキンソン病やレビー小体型認知症の併存アルツハイマー病変化は発症前の段階ではみられず、発症後の段階になってから生じ始めることが示唆されました。また、神経変性マーカーであるニューロフィラメント軽鎖を用いることでα-シヌクレインによる神経障害を発症前の段階から検出できる可能性が示唆されました。

本研究成果は、2024 年 7 月 31 日付(日本時間 7 月 31 日 18 時)米国科学雑誌『npj Parkinson’s Disease』に掲載されました。

【ポイント】

・レビー小体病はα-シヌクレインの神経細胞内蓄積を病理学的特徴とする神経変性疾患*1 であり、パーキンソン病*2 とレビー小体型認知症*3 を含む疾患概念である(合計患者数約 100 万人)。
・近年、レビー小体病ではα-シヌクレイン*4 に加え、併存するアルツハイマー病*5 の病理変化が認知症の出現や進行に関与していることが知られており、治療標的となる可能性がある。
・本研究では、パーキンソン病患者 84 名、レビー小体型認知症患者 16 名に加え、先行研究で見出したレビー小体病未発症のハイリスク者(予備群)82 名、ローリスク者(健常な方)37 名を対象に血液中のアルツハイマー病のバイオマーカー(アミロイドβ*6、リン酸化タウ 181)、神経変性マーカー(ニューロフィラメント軽鎖*7)を測定し解析した。
・ パーキンソン病患者とレビー小体型認知症患者ではアルツハイマー病関連の変化がみられたが、未発症のハイリスク者では変化がみられなかった。
・ 神経変性マーカーの上昇はパーキンソン病患者、レビー小体病患者、ハイリスク者のいずれにおいてもみられた。
・ レビー小体病の併存アルツハイマー病変化は発症前の段階ではみられず、発症後から生じることが示唆された。また、神経変性マーカーであるニューロフィラメント軽鎖を用いることで、α-シヌクレインによる神経障害を発症前の段階で検出できる可能性が示唆された。

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

【用語説明】

*1)神経変性疾患:特定の種類の神経細胞が進行性に変性する(死滅する)疾患の総称。神経変性疾患に共通する病理学的な特徴として、神経細胞の中や周囲に異常な蛋白質が蓄積し、それによって特定の種類の神経細胞が障害されることが知られている。パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症などが神経変性疾患の代表的疾患。

*2)パーキンソン病:神経細胞内にα-シヌクレインという異常な蛋白質が蓄積し、主に脳内のドーパミン神経に障害を起こすことで、振戦(手足の震え)、筋強剛(筋肉や関節が固くなる)、動作緩慢、姿勢反射障害(転びやすくなる)などのパーキンソン症状を引き起こす進行性の難病。

*3)レビー小体型認知症:神経細胞内にα-シヌクレインという異常な蛋白質が蓄積することで、幻視を始めとする認知機能障害やパーキンソン病に類似した運動症状を引き起こす進行性の難病。

*4)α-シヌクレイン:レビー小体病患者の脳内にみられる異常な蛋白質の凝集体であるレビー小体の主成分。レビー小体病発症の重要な原因蛋白質の 1 つと考えられている。

*5)アルツハイマー病:脳内にアミロイドβやタウという異常な蛋白質が蓄積し、もの忘れなど認知機能低下を引き起こす疾患。

*6)アミロイドβ:アルツハイマー病患者の脳内に細胞外蓄積し老人斑を形成する。アルツハイマー病発症の重要な原因蛋白質の 1 つと考えられている。

*7)ニューロフィラメント軽鎖:神経細胞に特異的な蛋白質で、神経細胞が軸索の変性や炎症によって破壊されると、軸索から放出され、血液中にも移行する。神経細胞のダメージを数値化する指標として多くの神経疾患で検討されている。

*8)タウ:アルツハイマー病患者の脳内に神経細胞内蓄積し神経原線維変化を形成する。アルツハイマー病発症の重要な原因蛋白質の 1 つと考えられている。

【論文情報】

雑誌名:npj Parkinson’s Disease
論文タイトル:Plasma biomarkers of neurodegeneration in patients and high risk subjects with Lewy body disease
著者名・所属名:Keita Hiraga, MD1, Makoto Hattori, MD, PhD1, Yuki Satake, MD1,2, Daigo Tamakoshi, MD1, Taiki Fukushima, MD1, Takashi Uematsu, MD1, Takashi Tsuboi, MD, PhD1, Maki Sato1, Katsunori Yokoi, MD, PhD3, Keisuke Suzuki, MD, PhD4, Yutaka Arahata, MD, PhD3, Yukihiko Washimi, MD, PhD5, Akihiro Hori, MD, PhD6, Masayuki Yamamoto, MD, PhD6, Hideaki Shimizu, MD, PhD7, Masakazu Wakai, MD, PhD8, Harutsugu Tatebe, PhD9, Takahiko Tokuda, MD, PhD9, Akinori Nakamura, MD, PhD10, Shumpei Niida, PhD11, Masahisa Katsuno, MD, PhD1,12
1 Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Neurology, Daido Hospital, Nagoya, Japan
3 Department of Neurology, National Hospital for Geriatric Medicine, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
4 Innovation Center for Translational Research, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
5 Department of Comprehensive Care and Research on Memory Disorders, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
6 Kumiai kosei Hospital, Takayama, Gifu, Japan
7 Medical Examination Center, Daido Clinic, Nagoya, Japan
8 Chutoen General Medical Center, Kakegawa, Shizuoka, Japan
9 Department of Functional Brain Imaging, Institute for Quantum Medical Science, National Institutes for Quantum Science and Technology, Chiba, Japan
10 Department of Biomarker Research, Center for Development of Advanced Medicine for Dementia, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
11 Core Facility Administration, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
12 Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
DOI: 10.1038/s41531-024-00745-8

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/npj_240731en.pdf

【研究代表者】

大学院医学系研究科 勝野 雅央 教授

医療・健康
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