2024-09-27 筑波大学
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日々の睡眠の量と質を一定に保つ仕組みを調べるため、脳の神経細胞同士の結びつき(シナプス)を増強する分子ツールと、シナプスと脳の活動の関係を予測する数理モデルを開発しました。その結果、前頭葉でシナプスの結びつきが強くなると眠りが始まり、眠るとその結びつきが弱まることが分かりました。
私たちは睡眠不足になると、いつもより長く、そして深い睡眠を取って、全体的な量と質を一定に制御(恒常性を維持)しています。しかし、体がどのように、睡眠時間をモニタリングし、そのような制御をしているのかはよく分かっていませんでした。
これを解明するため、本研究では、神経細胞同士のつながり(シナプス)に着目し、その結合の強さを増強する新たな分子ツール(SYNCit-K)と、シナプス強度と脳の活動の関係性を予測する数理モデル(EINモデル)を開発しました。SYNCit-Kをマウスの前頭葉に適用すると、睡眠が誘導されること、また、シナプス結合の増強を阻害すると、深い睡眠は誘導されないことが分かりました。さらに、増強されたシナプス強度が、その後の睡眠によって元に戻ることが明らかになりました。この結果は、シナプス強度と脳の活動の関係性を予測する数理モデル(EINモデル)の結果と一致しました。このように、前頭葉でシナプス結合が大きくなると睡眠が誘導されるメカニズムが明らかになりました。
シナプス結合の強度が睡眠の恒常性に関与するメカニズムの解明により、睡眠の質を向上させる新たな治療法開発への貢献が期待されます。さらに、SYNCit-KやEINモデルの適用範囲を広げることで、より詳細な脳機能解明や、睡眠の計算論の理解につながると考えられます。
PDF資料
研究代表者
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
史 蕭逸 助教
東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)
河西 春郎 特任教授
理化学研究所脳神経科学研究センター
豊泉 太郎 チームリーダー
掲載論文
- 【題名】
- Prefrontal synaptic regulation of homeostatic sleep pressure revealed via synaptic chemogenetics.
(シナプス化学遺伝学で解明された前頭前野シナプスによる恒常性睡眠圧の制御) - 【掲載誌】
- Science
- 【DOI】
- 10.1126/science.adl3043