2024-11-28 京都大学
同種造血幹細胞移植(HSCT)は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)の切り札とも言える治療ですが、移植後再発が依然として課題です。移植前に実施する前処置の強度を高める手法(強化型前処置)によって、再発率を低下させる試みが行われてきましたが、逆に治療に関連した合併症による死亡の増加につながる可能性もあることから、どの症例に強化型前処置を用いるかを判断する根拠が求められています。しかし、強化型前処置を用いる効果は様々な背景因子の影響を受けることから、従来の統計学的手法では、複雑な因子の交互作用を同時に評価できず、強化型前処置の恩恵を真に受けられる集団の特定は困難でした。
城友泰 医学部附属病院助教、新井康之 同講師、井上浩輔 白眉センター/医学研究科特定准教授、熱田由子 日本造血細胞移植データセンター長(兼:愛知医科大学教授)らの研究グループは、日本全国で実施された造血幹細胞移植の一元管理プログラム(TRUMP)に登録された4,652人のデータを用いて、人工知能に基づいたベイズ因果フォレスト(BCF)アルゴリズムを活用し、ALLに対するHSCTにおいて前処置強化によって恩恵を受けられる患者集団(High-benefit群)を同定して、これらの集団に強化型前処置を適用するアプローチ(High-benefit approach)によって、ALL患者さんの移植後予後を改善できる可能性を示しました。
本研究成果は、2024年11月25日に、国際学術誌「Communications Medicine」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「同種造血幹細胞移植において、前処置を強化することで再発リスクを低減できる可能性はあるものの、合併症リスクの増大と背中合わせであり、どの症例に前処置を強化するのが良いかの判断基準が必要です。今回の検討では、介入効果を個別症例レベルで評価できる機械学習モデルを用いることで、high-benefit群の同定と、それに基づいて強化型前処置を選択するhigh-benefit approachの有用性が示されました。本研究を基に、移植に関わる様々な介入の効果を検討して、個別化治療に生かすモデルの作成を目指します。」(城友泰、新井康之)
詳しい研究内容について
人工知能を用いた造血幹細胞移植の最適化―急性リンパ芽球性白血病に対する強化型前処置の効果予測―
研究者情報
研究者名:城 友泰
研究者名:新井 康之
研究者名:井上 浩輔
書誌情報
【書誌情報】
Tomoyasu Jo, Kosuke Inoue, Tomoaki Ueda, Makoto Iwasaki, Yu Akahoshi, Satoshi Nishiwaki, Hiroki Hatsusawa, Tetsuya Nishida, Naoyuki Uchida, Ayumu Ito, Masatsugu Tanaka, Satoru Takada, Toshiro Kawakita, Shuichi Ota, Yuta Katayama, Satoshi Takahashi, Makoto Onizuka, Yuta Hasegawa, Keisuke Kataoka, Yoshinobu Kanda, Takahiro Fukuda, Ken Tabuchi, Yoshiko Atsuta, Yasuyuki Arai (2024). Machine learning evaluation of intensified conditioning on haematopoietic stem cell transplantation in adult acute lymphoblastic leukemia patients. Communications Medicine, 4, 247.