2018-10-26 京都大学
木村亮 医学研究科助教、萩原正敏 同教授らの研究グループは、医学部附属病院、人間・環境学研究科、大阪市立総合医療センター、東大寺福祉療育病院、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校と共同で、遺伝子の欠損によって発症するウィリアムス症候群において発現が変動する遺伝子を探索し、複数の遺伝子群(モジュール)が病態に関わっていることを発見しました。
本研究成果は、2018年10月26日に、英国の国際学術誌「Journal of Child Psychology and Psychiatry」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
この研究は、自閉スペクトラム症の研究をしていたときに、ウィリアムス症候群に出会ったことがきっかけで始まりました。欠失した遺伝子は同じなのに、一人ひとりの症状が多様性に富んでいる点に大変興味を感じ、研究を進めてきました。
今回、失われた遺伝子以外の遺伝子も異常なネットワークを形成し、病態に関わっていることを見出すことができましたが、まだわかっていないことが多くあります。今後も、ウィリアムス症候群の基礎・臨床に関する研究を進めていきたいと思います。研究にご協力してくださった、多くの患者様、医師・研究者の皆様に感謝いたします。
概要
ウィリアムス症候群は1万人に1人の頻度で生じ、発達や知的な遅れ、過度な社交性、心血管異常などが生じる病気です。この病気では、7番染色体の片側にある約28個の遺伝子が失われていることが知られています。これまで、失われた遺伝子に関する研究が多く行われてきましたが、症状との関係については十分わかっていませんでした。
本研究グループは、ウィリアムス症候群の患者家族会などから提供された検体に、トランスクリプトーム解析を用いて発現が変動する遺伝子を探索しました。その結果、ウィリアムス症候群では広範囲にわたって遺伝子の発現に変動があり、複数の遺伝子群(モジュール)が病態に関わっていることを発見しました。なかでもウィリアムス症候群と最も強い相関を示したモジュールは、失われた遺伝子以外で構成されており、免疫系と関連していることが明らかになりました。
本研究成果により、失われた遺伝子以外の遺伝子が、病態に関与していることが初めて見出されたことで、病気に対するさらなる理解と将来的な治療法の開発につながると期待されます。
図:本研究の概要図
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1111/jcpp.12999
【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/234815
Ryo Kimura, Vivek Swarup, Kiyotaka Tomiwa, Michael J. Gandal, Neelroop N. Parikshak, Yasuko Funabiki, Masatoshi Nakata, Tomonari Awaya, Takeo Kato, Kei Iida, Shin Okazaki, Kanae Matsushima, Toshihiro Kato, Toshiya Murai, Toshio Heike, Daniel H. Geschwind, Masatoshi Hagiwara (2018). Integrative network analysis reveals biological pathways associated with Williams syndrome. Journal of Child Psychology and Psychiatry.
詳しい研究内容について
ウィリアムス症候群の多彩な症状が生じる仕組みを発見 ―遺伝子発現ネットワークの異常に着目―
概要
ウィリアムス症候群は、7 番染色体の片側にある約 28 個の遺伝子が失われ、発達や知的な遅れ、過度な社 交性、心血管異常などが生じる病気です。これまで、失われた遺伝子に関する研究が多く行われてきましたが、 症状との関係については十分わかっていませんでした。京都大学大学院医学研究科 木村亮 助教、萩原正敏 同 教授らの研究グループは、京都大学医学部附属病院小児科、同精神科、京都大学人間環境学研究科、大阪市立 総合医療センター、東大寺福祉療育病院、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校と共同で、ウィリアムス症 候群において発現が変動する遺伝子を探索し、複数の遺伝子群(モジュール)が病態に関わっていることを発 見しました。なかでも、ウィリアムス症候群と最も強い相関を示したモジュールは、失われた遺伝子以外で構 成されており、免疫系と関連していることが明らかになりました。失われた遺伝子以外の遺伝子が、病態に関 与していることが初めて見出されたことで、病気に対するさらなる理解と将来的な治療法の開発につながると 期待されます。
本研究は、2018 年 10 月 26 日に英国の国際学術誌「Journal of Child Psychology and Psychiatry」にオン ライン掲載されました。
1.背景
私たちは、生まれつき染色体や遺伝子の異常によって、身体や脳の働きに支障をきたす病気を調べ、将来的 には治療へとつながることを目指して研究を行っています。
ウィリアムス症候群は、1 万人に1人の頻度で生じ、特徴的な顔貌、発達や知的な遅れ、過度な社交性、心 血管異常、糖尿病など多彩な症状がみられる病気です。この病気では、7 番染色体の片方にある約 28 個の遺 伝子が失われていることが知られています。これまで、これら失われた遺伝子に着目した研究が進められてき ましたが、症状と遺伝子との関係については十分に明らかになっていませんでした。そのため、他のアプロー チによる研究が待たれていました。
2.研究手法・成果
本研究グループは、ウィリアムス症候群の症状と遺伝子との関係を明らかにするため、患者家族会 (エルフ ィン関西)等の協力を得て集めた多数の検体に、トランスクリプトーム解析という方法を用いて、すべての染 色体上の遺伝子の発現変動を調べました。その結果、ウィリアムス症候群では失われた場所だけでなく、広範 囲にわたって遺伝子の発現に変動があることが判明しました。そこで、似たような変動パターンを示す遺伝子 をグループ化して抽出し調べた結果、複数の遺伝子群 (モジュール)が病気や症状と関連していることがわか りました。とくにウィリアムス症候群と最も強い相関を示したモジュールは、失われた遺伝子以外で構成され ており、免疫系と関連していることが明らかになりました。さらに、このような大規模な遺伝子の発現変動が 生じる要因の一つとしてマイクロ RNA が関わっている可能性を見出しました。
本研究は、多数の患者さんの検体を用いて、失われた遺伝子以外の遺伝子が病態に関与しているということ を明らかにしたという点で、大変意義のある成果だと考えています。今後、病気に対するさらなる理解と将来 的な治療法の開発につながることが期待されます。
3.波及効果、今後の予定
ウィリアムス症候群では、まだわかっていないことがたくさんあります。私たちは、ウィリアムス症候群の 患者さんの脳でも今回と同じような遺伝子の変化がみられるのかについて関心を持っています。そこで、患者 さんの細胞から作成した iPS 細胞を神経などに分化させて調べるような研究を準備しています。
本研究によって、ウィリアムス症候群という病気に関心をもってくれる方が増え、治療に結びつくような研 究が進展することを期待しています。
4.研究プロジェクトについて
本研究は、下記の資金提供を受けて実施されました。
・日本医療研究開発機構 (AMED)戦略的創造研究推進事業 (CREST) 「エピゲノム研究に
基づく診断 治 療へ向けた新技術の創出」(No. JP16gm0510008)
・ 文部科学省 科学研究費補助金(No. 16K09965)
・京都大学スーパージョン万プログラム
<用語解説>
トランスクリプトーム解析:
生物の細胞中に存在するすべての遺伝子がどれくらい発現しているかを網羅的に調べる方法。本研究ではマイクロアレイと RNA-Seq という方法が使われました。
モジュール:
本研究では、同じ機能を有するなど、関連のある複数の遺伝子が集まった集団を指す言葉として用いています。
<論文タイトルと著者>
タイトル:Integrative network analysis reveals biological pathways associated
with Williams syndrome (ウィリアムス症候群の統合ネットワーク解析により
明らかになる生物学的経路)
著 者:Ryo Kimura, Vivek Swarup, Kiyotaka Tomiwa, Michael J. Gandal,
Neelroop N. Parikshak, Yasuko Funabiki, Masatoshi Nakata,
Tomonari Awaya, Takeo Kato, Kei Iida, Shin Okazaki, Kanae Matsushima,
Toshihiro Kato, Toshiya Murai, Toshio Heike, Daniel H. Geschwind,
and Masatoshi Hagiwara
掲 載 誌:Journal of Child Psychology and Psychiatry DOI:10.1111/jcpp.12999
<イメージ図>