2025-01-14 京都大学
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法において、サイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome、CRS)の発症直後に頭頚部浮腫を来たす症例がまれにあります。重症例では窒息に至り人工呼吸管理を要するなど、極めて重要な合併症ですが、この現象は少数例の症例報告に留まっており、認知度が低い合併症です。
中村直和 医学研究科博士課程学生、髙折晃史 医学部附属病院教授(病院長)、新井康之 同講師、城友泰 同助教らの研究グループは、この合併症をCAR-T後頭頚部浮腫(Neck Edema after CAR-T cell therapy、NEC)と命名し、発症頻度の算出と、リスク因子の探索に取り組みました。その結果、NECは13.5%でみられ、発症中央値はCAR-T輸注3日目であり、多くの症例でNEC発症の1-2日前にCRSを発症していることが分かりました。さらに、NEC発症例と非発症例の血液検査成績を比較したところ、発症例ではNEC発症の1-2日前から末梢血中の好酸球比率が上昇しており、発症予測バイオマーカーとなることが判明しました。
本研究成果は、NECを正しく理解し、適切な治療を行うために有用であり、好酸球比率のモニタリングがNEC管理の大きな助けになる可能性を示しました。また、NECは発症メカニズムが未解明ですが、今回の研究成果は、CRSとは異なる免疫反応が発症に関わっていることを示唆しています。
本研究成果は、2025年1月6日に、国際学術誌「British Journal of Haematology」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「CAR-T細胞療法が始まった頃は、NECという概念は全く知られておらず、初めて頭頚部に著明な浮腫を合併した症例を経験した際は、対処に試行錯誤したものでした。症例を重ねるにつれ、徐々に対処法がわかり、本研究によって正確な発症頻度と早期バイオマーカーをも同定することができました。今回の発見が、今後さらに件数が増加することが予想されるCAR-T細胞療法を、より安全に提供することに一役買うとともに、謎に包まれたNEC発症のメカニズムを解き明かす一歩になるものと期待しております。」(中村直和、新井康之)
詳しい研究内容について
キメラ抗原受容体T細胞投与後の合併症を新たに報告―頭頚部浮腫(NEC)の発症頻度算出とバイオマーカーの発見―
研究者情報
研究者名:髙折 晃史
研究者名:新井 康之
研究者名:城 友泰
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1111/bjh.19992
【書誌情報】
Naokazu Nakamura, Tomoyasu Jo, Yasuyuki Arai, Toshio Kitawaki, Momoko Nishikori, Chisaki Mizumoto, Junya Kanda, Kouhei Yamashita, Miki Nagao, Akifumi Takaori-Kondo (2025). Increased relative eosinophil counts portend neck oedema after chimeric antigen receptor-T therapy. British Journal of Haematology.