がん細胞に見られる「環状DNA」が作り出される仕組みを解明 〜 DNA複製と転写の衝突が問題だ 〜

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2025-01-29 国立遺伝学研究所

国立遺伝学研究所の佐々木真理子准教授と東京大学の小林武彦教授の研究グループは、細胞内で染色体から切り離された「染色体外環状DNA」が形成されるメカニズムを解明しました。環状DNAは、がん細胞においてがんの発症や進行に関与することが知られていますが、その形成メカニズムは長年の謎でした。

研究グループは、この謎を解明するため、ヒトのモデル生物である出芽酵母のサーチュインタンパク質Sir2に着目し、このタンパク質が欠損した際の反応メカニズムを解析しました。その結果、DNAの設計図を読み取る「転写」と、DNAをコピーする「複製」という2つの重要な細胞内プロセスが衝突してしまい、遺伝子を含んだ環状DNAが生まれることを発見しました。つまり、Sir2タンパク質が転写と複製の衝突を防ぐことで、環状DNAの生成を抑制していることを明らかにしました。この発見は、がん細胞で見られる環状DNAの生成メカニズムの理解につながる重要な成果です。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(JPMJFR214P)、同 戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR19S3)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(21H04761、20H05382、18H04709、17H01443)、日本医療研究開発機構AMED (JP21gm1110010)、上原記念生命科学財団、内藤記念科学振興財団、武田科学振興財団により支援されました。

本研究成果は、国際科学雑誌「Nucleic Acids Research」に2025年1月29日(日本時間)に掲載されました。

がん細胞に見られる「環状DNA」が作り出される仕組みを解明 〜 DNA複製と転写の衝突が問題だ 〜図: (左)野生型では、リボソームRNA遺伝子領域の転写をSir2タンパク質が抑えているため、複製装置と転写装置の衝突が起こりません。よって、DNA二本鎖切断損傷が起きても正確に直され、DNAの構造は維持されます。
(右)Sir2タンパク質が欠損した細胞では、転写が活発に起こるようになり、転写装置と複製装置が衝突し、DNA二本鎖切断損傷が相同組換え経路によって修復されます。この衝突がリボソームRNA遺伝子などの繰り返し配列で起きると、相同組換えによって環状DNAが作られることがわかりました。


Transcription near arrested DNA replication forks triggers ribosomal DNA copy number changes

Mariko Sasaki *¶ and Takehiko Kobayashi *
*: 責任著者 ¶: 代表著者

Nucleic Acids Research (2025) 53, gkaf014, DOI:10.1093/nar/gkaf014

プレスリリース資料

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