生活範囲別に活動性の高さを評価する質問票(Active Mobility Index)を用いて、大規模な調査・分析を行ったところ、日常生活における活動性が高いほど、認知症の発症リスクが低い事が明らかになった

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2025-02-26 国立長寿医療研究センター

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)老年学・社会科学研究センターの土井剛彦予防老年学研究副部長、島田裕之センター長らの研究グループは、生活範囲別に行う活動を評価する質問票(Active Mobility Index; AMI)を作成し、活動性が高いことが認知症の発症リスクが低い事を明らかにしました。

概要及び研究成果

「生活範囲」とは、個人と周囲の環境との関係にもとづき、家から移動できる範囲と定義されています。生活範囲や活動性を高く維持することは、健康増進に寄与することの一つであると考えられていますが、認知症との発症との関連性については十分に分かっていませんでした。そこで、本研究は、地域在住高齢者を対象に生活範囲やそれに伴う活動性が高いことと将来の認知症発症との関連性を検討することを目的としました。また生活範囲やそれに伴う活動の評価方法は、国内外を含め様々用いられています。従来の評価方法には、家屋内での活動評価や自立度の評価が含まれているなど、日常生活が自立している高齢者を評価する場合には適さない点があります。そこで、本研究では日本の地域在住高齢者に対して評価することを念頭に置いて、同研究グループが開発したActive Mobility Indexを用いて検討しました。

Active Mobility Index(802KB)は、生活範囲別(戸外から1km、1kから10km、10km以上)に、移動の目的、手段、内容等について評価を行い(図1)、それぞれの回答に応じた配点を合計し点数を算出します(0から216点)。点数が高いほど活動性が高いことを示します。合計点の算出シートはこちらより入手可能です。データを入力すると「FALSE」表示は消えます。

生活範囲別に活動性の高さを評価する質問票(Active Mobility Index)を用いて、大規模な調査・分析を行ったところ、日常生活における活動性が高いほど、認知症の発症リスクが低い事が明らかになった
図1 Active Mobility Indexの構成

本研究は、大規模コホート研究National Center for Geriatrics and Gerontology-Study of Geriatric Syndromes(NCGG-SGS)のデータを用い、最初の調査時に認知症ではない2740名を対象に分析を行いました(平均年齢74.4歳、女性の割合:58.8%)。

生活範囲にもとづく活動の評価は、このActive Mobility Indexを用いて評価しました。認知症の発症は、医療診療情報と介護保険情報を用いて、活動の評価から何か月後に認知症の発症がみられたかをデータ化しました。最大5年間の追跡期間とし、平均追跡期間は53.7カ月でした。AMIの値を三分位数注1)の値を元に3つに群分けし解析をしたところ、AMIの点数が高い者は、低い者に比べ認知症発症の割合が少なく、ハザード比注2)が低く、認知症発症の割合が少ないことが示されました(図2)。

注1)三分位数とは、データの個数を3等分しグループ分けしたものをさします。
注2)ハザード比とは、グループ間で、ある出来事(例えば病気の発症や死亡)が起こるリスクについて、いつ起こったかという時間の情報を含めて計算される値です。

認知症の発症に関するリスクを示したグラフです。
図2. 認知発症に対するAMIスコアのハザード比

*AMIのスコアの三分位数を元に3つのグループに対象者を分類した(T1:52点以下、T2:53から77点、T3:78点以上)。認知症の発症に対し、最も点数が低い群(T1)を参照すると、T2、T3において、それぞれハザード比(hazard ratio: HR)が低値であった(T2:HR 0.76 [95%CI 0.59から0.97]、T3:HR 0.49 [95%CI 0.36から0.68])。
これらの結果から、高齢者においてその活動性が高いほど、認知症の発症リスクが低い可能性が示されました。認知機能低下や認知症のリスク低減に活動性を高めることはWHOのガイドラインなどにおいて推奨されており、本研究はそれを支持する形となりました。今後は、生活範囲の拡大や活動の促進を行うためにどのような介入方法が効果的かなどの検証が必要かなどの更なる研究の実施が期待されます。

論文情報

本研究成果は、専門学術誌「Journal of the American Medical Directors Association」に掲載されました。
Doi T, Makino K, Tomida K, Tsutsumimoto K, Sakimoto F, Matsuda S, Shimada H.
Life-Space Activities and Incident Dementia Among Older Adults: Insights From a Cohort Study.
J Am Med Dir Assoc. 2024 Dec 13;26(2):105416. doi: 10.1016/j.jamda.2024.105416.

プレスリリース(PDF:500KB)

リリースの内容に関するお問い合わせ先

この研究に関すること
国立長寿医療研究センター研究所 老年学・社会科学研究センター
予防老年学研究部 土井剛彦

報道に関すること
国立長寿医療研究センター総務部総務課 総務係長(広報担当)

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