2017-12-27 理化学研究所,慶應義塾大学
要旨
理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター生命系放射光利用システム開発ユニットの岡島公司客員研究員(慶應義塾大学理工学研究科特任助教)、山本雅貴ユニットリーダーらの共同研究チームは、大型放射光施設「SPring-8[1]」の放射光を用いたX線小角散乱法[2]によって、植物個体の光屈性や葉緑体の細胞内運動を制御する青色光受容タンパク質「フォトトロピン[3]2」の全長の立体構造を明らかにしました。
1880年、チャールズ・ダーウィンらは、光の方向に植物の茎などが屈曲する「光屈性」という植物における光合成効率を最適にする運動を発見しました。その後の研究で、光屈性の原因タンパク質として、青色光受容によって制御されるタンパク質フォトトロピン1とフォトトロピン2が見いだされています。特に、フォトトロピン2が青色光受容すると、その信号が酸化酵素ドメインに伝達され他のタンパク質をリン酸化してさまざまな細胞運動を誘起します。 一方で、青色光という物理刺激をリン酸化という生体内信号に変換するメカニズムは解明されておらず、この分野での大きな課題となっています。
今回、共同研究チームは、これまで難しかったフォトトロピン2全長の大量発現と生化学的な調製に成功し、その立体構造をSPring-8の放射光を用いて調べました。その結果、青色光受容に伴って分子が大きく変形することやフォトトロピン2を構成する二つの光受容ドメイン[4]LOV1とLOV2の役割が明らかになりました。
本成果は今後、生体における光センシング[5]の解明につながると期待できます。また、フォトトロピンのような光受容分子は、光を利用して細胞を制御する光遺伝学に利用され始めています。光刺激をリン酸化に変換する分子機構が解明できれば、光によって遺伝子発現を制御する光遺伝学[6]への応用も期待できます。
本研究は、米国の科学雑誌『Journal of Biological Chemistry』掲載に先立ち、オンライン版(12月1日付け)に掲載されました。
※共同研究チーム
理化学研究所 放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門
ビームライン基盤研究部 生命系放射光利用システム開発ユニット
研修生 大出 真央(おおいで まお)(慶應義塾大学 理工学研究科 博士課程1年)
客員研究員 岡島 公司(おかじま こうじ)(慶應義塾大学 理工学研究科 特任助教)
研修生(研究当時) 関口 優希(せきぐち ゆうき)
客員研究員 苙口 友隆(おろぐち ともたか)(慶應義塾大学 理工学部 専任講師)
研究員 引間 孝明(ひきま たかあき)
ユニットリーダー 山本 雅貴(やまもと まさき)
客員主管研究員 中迫 雅由(なかさこ まさよし)(慶應義塾大学 理工学部 教授)
環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループ
客員研究員 中神 弘史(なかがみ ひろふみ)
大阪大学 生命機能研究科
特任准教授 加藤 貴之(かとう たかゆき)