
はじめに
疾患の進行や治療反応は、患者ごとに大きく異なります。この個人差に対応する医療、「個別化医療」は、近年、AI、ゲノム解析、構造生物学など多様な分野の融合により急速に進化しています。本記事では、2025年最新の技術トピックを元に、個別化医療の現状と今後を読み解きます。
個別化医療に関する最近の5つのトピック
① 多臓器老化のクロストークとAI・RNA治療の連携
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複数臓器で同時に進行する「静かな老化」を、AIとRNA医薬、セノリティクスで早期介入。
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多臓器保護により全身の健康寿命を延ばす試み。
② アトピー性皮膚炎のバイオマーカーによる反応性予測
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トランスクリプトーム解析により、治療薬への反応を事前に予測可能に。
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薬剤選択の最適化と副作用回避を実現。
③ 舌がんの免疫サブタイプ分類と免疫療法適応判断
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舌がんを5つの免疫型に分類。活性型には免疫療法が有効。
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他サブタイプへの治療戦略開発が喫緊の課題。
④ アナモレリンの構造解析と薬効個別化
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グレリン受容体との構造解析により、遺伝的多様性に基づく精密投与が可能に。
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構造生物学とゲノム情報の融合が進行中。
⑤ 小細胞肺がんの遺伝子型分類と治療最適化
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1,000例以上から5つのSCLCサブグループを同定。
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ゲノム型に合わせた創薬と臨床適用が始まっている。
🧩 各記事の分類と詳細
1. 『症状が出る前から進行する“静かな多臓器老化”』
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分類:多臓器老化×AI・RNA医薬・セノリティクス
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概要:心血管老化が肺や腎・脳などとのクロストークによって、症状が現れる前から全身的に進行する現象。AI、RNA医薬、老化細胞除去薬(セノリティクス)を用いた同時介入が注目される。
症状が出る前から進行する『静かな多臓器老化』の正体~革新的個別化医療を展望した新たな総説を発表~2025-06-16 国立循環器病研究センター国立循環器病研究センターは、心血管老化が他臓器との相互作用を通じて全身的な「静かな多臓器老化」を進行させることを解説した総説を発表しました。心臓、肺、腎臓、脳などの臓器間クロストークにより、慢性... -
効果:早期・同時介入で多臓器保護につながる可能性
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課題:クロストークのメカニズム解明や治療のタイミング最適化が必要
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今後の方向性:多臓器老化バイオマーカーの確立、AI駆動型介入モデルの実用化
2. アトピー性皮膚炎のバイオマーカー研究
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分類:皮膚疾患×トランスクリプトーム解析
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概要:慶應&理研が951サンプルから非仮説駆動解析で炎症タイプに対応したバイオマーカーを特定。治療薬デュピルマブ反応性と強く関連。
アトピー性皮膚炎の症状と治療反応に関わるバイオマーカーを発見~患者の皮膚から新たな指標を見出し、個別化医療の実現へ前進~2025-06-03 慶應義塾大学医学部,理化学研究所慶應義塾大学医学部皮膚科学教室と理化学研究所の共同研究チームは、アトピー性皮膚炎の症状や治療反応に関与する新たなバイオマーカーを発見しました。この研究では、156人の患者から採取した95... -
効果:反応性予測で治療選択の精度が向上
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課題:診断キットの標準化と臨床導入プロセス整備が課題
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今後の方向性:迅速診断ツールの開発、リアルタイムモニタリングへの応用
3. 舌がんの免疫サブタイプ分類
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分類:がん免疫プロファイリング
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概要:TSCC(舌扁平上皮がん)を5つの免疫サブタイプに分類。「Type I(免疫活性型)」は全体の16.1%。
舌がんの免疫サブタイプ分類が治療法選択の指標に~免疫プロファイル解析による個別化医療の可能性~2025-03-31 東京科学大学東京科学大学大学院医歯学総合研究科と富山大学の共同研究チームは、舌扁平上皮がんのがん微小環境における包括的免疫プロファイル解析を行い、患者を五つの免疫サブタイプ(Type IからV)に分類しました。 この... -
効果:免疫チェックポイント阻害薬の効果予測が可能に
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課題:Type I以外のサブタイプの治療戦略確立が必要
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今後の方向性:サブタイプごとの併用療法開発、生体内モニタリング技術との連携
4. アナモレリンとグレリン受容体の構造解析
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分類:創薬構造生物学×個別化医療
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概要:アナモレリン(悪液質治療薬)のグレリン受容体結合構造を解明。SNPによる薬効差も解明 。
がん悪液質治療薬アナモレリンが結合したグレリン受容体構造を解明 創薬、個別化医療への道を拓く構造・薬理学情報を拡充2025-01-21 京都大学岩田想 医学研究科教授、林到炫 同助教、椎村祐樹 久留米大学助教、松井一真 同博士課程学生、児島将康 同客員教授、増保生郎 米国サンフォード研究所(Sanford Research)博士らを中心とした国際共同研... -
効果:個人差に基づく薬効予測が可能になり、精密治療に道
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課題:遺伝子多様性と実臨床の関連性検証が必要
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今後の方向性:構造情報とゲノム解析を組み合わせた個別創薬へ進展
5. 小細胞肺がんの5サブグループ分類
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分類:臨床ゲノム解析×がんサブタイプ分類
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概要:LC-SCRUM‑Asiaで1,035例のSCLCをA〜Eグループに分類。標的治療や免疫療法の適応が示唆。
小細胞肺がんを五つのサブグループに分類し、治療効果の予測に成功個別化医療の発展に寄与 ~LC-SCRUM-Asia大規模臨床ゲノムデータベース解析による研究成果~2024-12-10 国立がん研究センター発表のポイント 国内154施設が参加する研究プロジェクトLC-SCRUM-Asiaにおいて、小細胞肺がんの患者さん1035名の遺伝子解析を行い、がんの遺伝子情報を調べました。 その結果、小細胞肺がん... -
効果:遺伝子情報に基づく治療選択で療効改善の可能性
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課題:各グループへの治療戦略・臨床試験の設計が必要
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今後の方向性:治療対応薬の開発、パネル検査の標準化、保険適用へ
トレンド総合分析
近年のトレンドは「患者層別化と精密治療」に集約されます。バイオマーカーや免疫プロファイリングを通じて患者をサブグループ化し、適切な治療を選ぶ。構造解析やAIの導入により、複雑な医療データを可視化・最適化する技術が急速に進化しています。
🌐 トレンド分析:共通点・潮流・展望
✅ 共通テーマ
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サブグループ/バイオマーカー解析による患者の層別化
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AI/ゲノム/構造解析の複合的アプローチ
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非仮説駆動解析の進化により、発見→臨床活用のサイクルが加速
🔍 トレンドの方向性
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効果 | 治療の精度・反応性予測・副作用低減 |
| 課題 | 標準化された臨床診断プロセス、規制・保険対応、臨床試験の設計 |
| 今後の方向性 | |
| ①迅速・非侵襲バイオマーカー検査の開発 | |
| ②AI×マルチオミクスを用いたリアルタイムモニタリング | |
| ③構造情報に基づく創薬とゲノム連携の深化 |
今後の方向性
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予測医療:リアルタイムバイオマーカーにより発症前診断を可能に。
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創薬革新:AIと構造解析により個人向け薬剤設計が実現。
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制度整備:パネル検査やRNA医療の保険適用、標準化が鍵。
📈 今後注目分野
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多臓器老化予測と早期介入
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疾患特異的トランスクリプトームによる精密予後予測
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免疫プロファイル別併用療法の最適化
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構造解析に基づく薬効個別化
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臨床ゲノムビッグデータを使用したレアがん対応
まとめ
個別化医療は、単なる医療のカスタマイズを超え、全く新しい「予測型・設計型医療」へと進化しつつあります。今後は、個々人のバイオデータと最新の科学技術が融合し、誰もが恩恵を受ける時代が到来するでしょう。

