国立がん研究センターが開発した日本人のための国産遺伝子パネル検査

ad
ad

「NCCオンコパネル」システムが体外診断用医薬品・医療機器として製造販売承認取得

2019-1-15 国立がん研究センター,日本医療研究開発機構

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉/所在地:東京都中央区)は、がんのゲノム医療※1を提供する遺伝子パネル検査※2システムとして、当センター研究所で開発した遺伝子検査試薬「NCCオンコパネル」と遺伝子変異を検出する解析プログラム「cisCall(シスコール)」の有用性や、解析結果に基づき薬剤選択の検討を行うエキスパートパネル※3の体制などを、中央病院の臨床研究TOP-GEAR(トップギア)プロジェクトで検証し、保険適用を目指し先進医療※4での確認を進めています。

遺伝子パネル検査については、国立がん研究センターが、シスメックス株式会社(代表取締役会長兼社長 CEO:家次 恒/本社:神戸市)と共同で開発を進め、薬事承認を目指してまいりました。そして、2018年6月に同社より製造販売承認申請が行われ、この度2018年12月25日に遺伝子パネル検査システムで初めて体外診断用医薬品・医療機器として承認されました。国立がん研究センターでは、引き続き、保険適用を目指し準備を進めます。

がんのゲノム医療は、患者さん一人一人のがんの原因となっている遺伝子変異に合わせて薬剤や治療法を決める新しいがんの医療のかたちです。「NCCオンコパネル」は、日本人のがんで多く変異が見られる遺伝子114個について、次世代シークエンサー※5を用いて1回の検査で調べることができます。2018年4月より始まった先進医療Bでは、中央病院を含めた50施設で350例を目標に登録が進められました。今後、検査の有効性・安全性が評価され、保険適用について検討されます。

NCCオンコパネルによる遺伝子検査と治療方針の決定
国立がん研究センターが開発した日本人のための国産遺伝子パネル検査

背景

それぞれのがんは、生じている遺伝子の変異により、抗がん剤への感受性などの性質が大きく異なります。そこで個々の患者さんのがんに生じている遺伝子の変異を理解し、最適な治療法を選択することが重要です。このようながんゲノム医療は、がんの治療成績を大きく改善すると期待されています。

これまでのがん医療においては、EGFR遺伝子検査やBRAF遺伝子検査など、ひとつの遺伝子の変異を調べる検査が用いられてきました。しかし、それぞれのがんは、遺伝子の変異が多様であること、また、遺伝子変異をひとつひとつ調べていくには時間がかかることから、一度に多くの遺伝子の変異を網羅的に調べる遺伝子パネル検査を行い、多数の専門家からなるエキスパートパネル会議で検査結果を議論し、最適な治療を選択することが求められています。しかし、日本ではこれまで、薬事承認された遺伝子パネル検査がないことから、研究または保険外診療(自由診療)として行われるのみで、保険診療下で行うことはできませんでした。

「NCCオンコパネル」について

NCCオンコパネルは、研究所ゲノム生物学研究分野/先端医療開発センターゲノムTR分野(分野長:河野隆志)と研究所臨床ゲノム解析部門(部門長:市川仁)からなる開発チームによって、日本のがんゲノム医療のための国産がん遺伝子パネルとして設計・構築されました。NCCオンコパネル検査では、以下に示すような114個の遺伝子の遺伝子変異の検出ができます。

変異・増幅を検索する遺伝子(114)と融合を検索する遺伝子(12)

このパネルには、海外製品には搭載されていないNRG1遺伝子やRHOA遺伝子など日本のがん患者さんで変異が見られる遺伝子が搭載されており、また、日本人が持つ個人差(遺伝子多型)とがん細胞で生まれた変異(体細胞変異)を識別した検査結果が得られます。加えて、がん患者さんが生まれながらにもつ遺伝子変異(生殖細胞系列変異)の検出もできることから、遺伝的に発生した腫瘍の診療に役立つ結果も得られます。

「cisCall(シスコール)」について

遺伝子パネル検査では、多数の遺伝子の変異を次世代シークエンサーで解析しますが、解析により膨大なデータが生まれることになります。遺伝子の変異には、一塩基変異や挿入欠損変異、コピー数変異、融合遺伝子などあり、これらをコンピュータープログラムで検出することで初めて把握することが可能となります。

「cisCall」は、研究所バイオインフォマティクス部門(部門長:加藤護)で原版を開発したプログラムで、バイオインフォマティクス(生物情報学)を活用することで、全ての変異を高精度に検出することに成功しました(Kato et al, 2018, Genome Medicine)。NCCオンコパネルとともにTOP-GEAR(トップギア)プロジェクトでの検証と改良を経て、先進医療で活用されています。また、今回の承認により、シスメックス社より「OncoGuideTM NCCオンコパネル 解析プログラム」として製品化されます。

「TOP-GEAR(トップギア)プロジェクト」について

「TOP-GEAR(Trial of Onco-Panel for Gene-profiling to Estimate both Adverse events and Response by cancer treatment)プロジェクト」は、遺伝子パネル検査によるゲノム医療の実現を目指し、中央病院で2013年より開始した臨床研究(研究代表者:山本昇)です。

プロジェクトの第一弾(TOP-GEAR第一期)では、遺伝子パネル検査が個々の患者さんの治療選択に有用か、また実臨床へ導入する体制についても検討し、遺伝子解析情報を診療情報と合わせ臨床的意義付けを行うエキスパートパネルを組織しました。

2016年からのプロジェクト第二弾(TOP-GEAR第二期)では、それまで研究所で行っていた遺伝子検査を、検査としての国際的な品質基準を満たすようシスメックス社、理研ジェネシス社と協同で遺伝子検査室SCI-Lab(エスシーアイーラボ)を院内に設置しました。また、思春期・若年成人患者さん(AYA世代の患者)の検査も受けられる体制をつくり、現在は1歳以上の小児のがん患者さんも検査が受けられる体制となりました。TOP-GEARプロジェクト第二期では、約半数の患者さんで治療の判断に関わる遺伝子変異※6が検出され、10%強の患者さんが見つかった遺伝子変異に基づいた抗がん剤の治療を受けました。

このTOP-GEARプロジェクトでの検証を経て、2018年4月1日からは先進医療Bとして、国立がん研究センター中央病院、東病院を含む50施設のがんゲノム医療中核拠点病院、および連携病院※7において本検査が実施され、検査の有用性が再確認されています。

本研究への支援

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
臨床ゲノム情報統合データベース整備事業
「ゲノム創薬・医療を指向した全国規模の進行固形がん、及び、遺伝性腫瘍臨床ゲノムデータストレージの構築(JP18kk0205004)」
革新的医療シーズ実用化研究事業
「がん遺伝子プロファイリング検査の実用化に向けた研究(JP18lk1403003)」
国立がん研究センター研究開発費
「遺伝子変異等の情報を活用した個別化医療開発のための基盤構築 (24-A-1)」
「個別化医療のためのクリニカルシークエンス基盤整備に関する研究 (27-A-1)
「本邦の個別化がん医療に資するクリニカルシークエンスの体制整備に関する研究 (30-A-6)」

用語解説

※1 がんゲノム医療:
遺伝子の変異情報に基づいたがんの医療のこと。遺伝子の変異に基づいて、より効果が高い治療薬を選択することが可能となり、患者一人一人にあった「個別化医療」が可能となる。

※2 遺伝子パネル検査:
1度に多数のがんにかかわる遺伝子の変異を調べる検査。単一遺伝子の変異検査を重ねるよりも、検査時間や再生検などの患者さんの負担が軽減できる。
※3 エキスパートパネル:
各分野の専門家が集まって検討し、解析結果の意義づけと、治療法の提案を行う会議。担当医、がん治療の専門医、臨床検査を担当する医師、検体を見極める病理医、ゲノムの専門家、臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーらが参加する。担当医はこの議論の結果を基に、遺伝子変異や治療の選択などについて患者さんに説明します。
※4 先進医療:
保険適用の対象にするかどうかを検討するため、有効性・安全性を臨床研究で評価する保険外併用療養制度。NCCオンコパネル検査については、先進医療Bで「個別化医療に向けたマルチプレックス遺伝子パネル検査研究」として実施され、11月1日に登録終了した。

※5 次世代シークエンサー:
DNAの塩基配列を、大量に読み取る解析装置。今回の検査では、イルミナ社のNextSeq 550Dx機(クラスI医療機器、製造販売届出番号: 13B2X10271000001)が用いられる。
※6 治療上意義のある遺伝子変異:
効果の見込まれる治療薬の選択、がんの診断、予後判定に有用な情報となる変異。日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会合同で発出された次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス(第1.0版)に、その内容が説明されている。

※7 がんゲノム医療中核拠点病院、および連携病院
がんゲノム医療を牽引する高度な医療を有する医療機関として、国立がん研究センター中央病院・東病院を含む全国11カ所のがんゲノム医療中核拠点病院が厚生労働省により指定されている。中核拠点病院は全国135カ所のがんゲノム医療連携病院と協力しながら、がんゲノム医療を提供し、情報共有や人材育成を行う。
またこのがんゲノム医療中核拠点病院、および連携病院で遺伝子パネル検査を受けられた患者さんの遺伝子変異や診療情報は同意の下、がんゲノム医療の新たな拠点として2018年6月1日に国立がん研究センターに設置された「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」 に集約され、日本のがんゲノム医療の品質管理、新しい診療法の開発に役立てられる。

お問い合わせ先

報道関係からのお問い合わせ先

国立研究開発法人 国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
基盤研究事業部 バイオバンク課

医療・健康細胞遺伝子工学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました