1年後の体重・腹囲・non-HDLコレステロールを有意に改善
2019-01-15 京都大学
川村孝 環境安全保健機構教授、松崎慶一 同助教らの研究グループは、一般財団法人サンスター財団からの受託研究(「宿泊型健康指導プログラムがもたらす行動変容と健康状態、医療費への影響」)の中で、サンスターグループ社員向け健康増進施設で提供された宿泊型健康指導プログラムの有効性を明らかにしました。
本研究グループは、サンスター財団より提供されたサンスターグループ社員定期健康診断の匿名化データから、傾向スコアマッチング法によりプログラム参加者・非参加者の背景因子を調整して1年後の健康診断の数値を比較したところ、プログラム参加者では非参加者の変化と比較して体重、腹囲およびnon-HDLコレステロールが有意に改善していることを見出しました。また、体重と腹囲に関しては2年後までその効果が維持されており、プログラム参加者において参加1年後に行動変容スコアの有意な進展が認められました。
本研究により、宿泊型健康指導プログラムは、参加者に健康的な生活習慣の獲得を促し、持続的な行動変容をもたらすことが確認されました。
本研究成果は、2019年1 月2日に、国際学術誌「Preventive Medicine Reports」に掲載されました。
図:宿泊型健康指導プログラムにおける参加群・非参加群の体重の変化(左)および腹囲の変化(右)
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1016/j.pmedr.2018.12.005
【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/236030
Keiichi Matsuzaki, Shotaro Taniguchi, Kana Inoue, Takashi Kawamura (2019). Effectiveness of a healthcare retreat for male employees with cardiovascular risk factors. Preventive Medicine Reports, 13, 170-174.
詳しい研究内容について
-1 年後の体重・腹囲・non-HDL コレステロールを有意に改善-概要国立大学法人 京都大学環境安全保健機構 健康科学センター 川村孝 教授、松崎慶一 助教らの研究グルー プは、一般財団法人 サンスター財団からの受託研究(「宿泊型健康指導プログラムがもたらす行動変容と健 康状態、医療費への影響」)の中で、サンスターグループ社員向け健康増進施設「サンスター心身健康道場」 (大阪府高槻市)で提供された宿泊型健康指導プログラムの有効性を明らかにしました。
サンスター財団より提供されたサンスターグループ社員定期健康診断の匿名化データから、傾向スコアマ ッチング法1)によりプログラム参加者・非参加者の背景因子を調整して 1 年後の健康診断の数値を比較したと ころ、プログラム参加者では非参加者の変化と比較して体重、腹囲および non-HDL コレステロールが有意 に改善していました。体重と腹囲に関しては 2 年後までその効果が維持されていました。また、プログラム 参加者において参加 1 年後に行動変容スコア2)の有意な進展が認められ、サンスター心身健康道場での宿泊型 健康指導プログラムは、参加者に健康的な生活習慣の獲得を促し、持続的な行動変容をもたらすことが確認 されました。
本研究成果は、2019 年 1 月 2 日に米国科学誌「Preventive Medicine Reports Volume 13, March 2019」 に掲載されました(https://doi.org/10.1016/j.pmedr.2018.12.005 タイトル:”Effectiveness of a healthcare retreat for male employees with cardiovascular risk factors”、著者:Keiichi Matsuzaki 他)。1.研究の背景と目的
サンスターグループでは、1985 年より社内福利厚生施設「サンスター心身健康道場」で社員に宿泊型健康 指導を開始。2007 年からは定期健康診断で特定保健指導の 「積極的支援」「動機付け支援」に該当した対象者 に独自の宿泊型健康指導プログラムを実施しています。この度、プログラムの前と後 (参加群)もしくはそれ に相当する時期 (非参加群)の定期健康診断データを解析し、これら対象者における宿泊型健康指導プログラ ムの有効性とその持続期間を検証しました(過去起点コホート研究)。
2.評価方法と健康教育プログラムの内容
2007 年~2009 年にサンスターグループに在籍し定期健康診断の結果が特定保健指導の「積極的支援」か 「動機付け支援」に該当した 415 名を抽出し、心身健康道場における 2 泊 3 日の健康指導プログラムに参加 した 220 名を参加者群、参加しなかった 195 名を非参加者群としました。なお、参加 ・非参加にかかわらず、 社内基準に基づいて個々のレベルに応じた保健指導を定期的に実施しています。
1 )傾向スコアマッチング法:介入した群としなかった群から背景因子が近似する人を抽出して比較する手法
2 )行動変容スコア:運動や食事の生活習慣改善の実施状況を問う質問への回答を 5 段階で評価した得点
宿泊型健康指導プログラム(2 泊 3 日)の主な内容
行動科学の観点から、座学と体験学習を組み合わせ、気づき、体感し、自己で目標を設定するプログラムで す。
● 座学:健康診断結果の振り返り、生活習慣病や健康的な食事の学習、生活習慣改善目標の設定
● 食事:朝食は手作り青汁 1 杯、昼食・夕食は野菜が豊富な玄米菜食(1,200kcal/日)を摂取
●運動:ウォーキング、アクアビクス、エアロビクス等
● 心・体の調整:冷温交代プログラム、木枕・平床体験 データの解析は、傾向スコアマッチング法 1 にてそれぞれの群から抽出した背景因子が近似する各 95 名(計 190 名)について、当初の定期健康診断の結果および 1、2、3 年後の健康診断における測定項目の変化量を比 較しました。
3.研究の主な結果
プログラム受講翌年の健康診断では参加群は非参加群と比較し、体重(-2.7 kg vs. -1.0 kg、P<0.01)、腹囲 (-3.5cm vs. -1.5cm、P<0.01)で有意な改善が認められました (図1、図2)。また、動脈硬化の総合的なリ スク指標である non-HDL コレステロール (-8.8 mg/dl vs. -1.8mg/dl、P=0.05)の改善も認められました (図 3)。受講 2 年後の健康診断においても、体重(-2.8 kg vs. -1.7 kg、P=0.07)および腹囲(-3.8 cm vs. -2.3 cm、P=0.03)に対する効果が維持されていました(図1、図2)。
図 1.体重の変化
図 2.腹囲の変化
日本肥満学会が推奨する減量目標である 3%以上の体重減少の達成者の割合は、参加者群では受講翌年にお いて 50%以上となり、非参加者群と比較して高い達成割合となりました。また、2009 年のプログラム参加者 において測定した行動変容スコア 2 は 77.8%が準備期以前でしたが、1 年後にはその割合は 51.9%へと有意な 低下が認められ、サンスター心身健康道場での宿泊型健康指導プログラムは参加者に健康的な生活習慣の獲得 を促し、持続な行動変容をもたらすことが確認されました(図4)。
図 3.1 年後の non-HDL コレステロール変化量
図 4.減量目標 3%以上達成者の割合の推移
4.考察
「サンスター心身健康道場」の宿泊型健康指導プログラムは、受講後 1 年以上、体重減少、腹囲減少、nonHDL コレステロール改善に寄与することが科学的に実証されました。腹部肥満はメタボリックシンドローム の主要因であり、体重 ・腹囲を中心とした改善は、最終的にはメタボリックシンドロームの改善につながると 推測されます。心身健康道場の健康指導プログラムは ① 座学と体験学習を組み合わせて自らの健康に関する 気づきや体感を促すことで行動変容のステージを進めること ② 同じ境遇の参加者が 2 泊 3 日の各種プログ ラムを一緒に受講し、互いに健康における目標を宣言することでグループダイナミクスを生むことの 2 点を特 徴としており、これらが相互に作用しあうことでプログラム参加者における健康的な生活習慣の定着に繋がっ たと推測しています。一方、体重減少、腹囲減少などの効果は 3 年後に減弱していたことから、参加者を対象 とした定期的なフォローが必要とも考えられました。
5.今後の展開
今回は既存データを利用した過去起点コホート研究を行い、参加者と非参加者を比較することでプログラムそ のものの有用性を検証しました。今後は前向きコホート研究を展開し、どのような参加者に効果があるのか、 行動変容をもたらす因子は何か、などに関する検証を行っていきます。また、対象者への宿泊型健康指導プロ グラムの有効性をさらに高めるため、効果が減弱する3年後を目処に社員への適切な追加講習ができるよう取 り組みます。なお、本プログラムをもとに、社員以外の方にも利用していただける体制も整備していきます。 http://www.kenkodojo.com/shinshinkenko/handson/
<研究プロジェクトについて>
●京都大学 環境安全保健機構 健康科学センター 川村 孝 教授、松崎 慶一 助教らの研究グループ
京都大学 環境安全保健機構 健康科学センター(センター長・川村 孝 教授)では、「実務からエビデンス を創出する」という理念を掲げ、学生 ・職員の健康診断や学内の診療所における診療などを通じて全学の健康 管理に携わる傍ら、疫学や統計学の手法を駆使した医学研究を行っています。川村 孝 教授、松崎 慶一 助教 らの研究グループは、従来より行っていた臨床疫学研究に加え、効率的な健康診断を目指したシステムの開発 研究やそれを用いた大規模なコホート研究の構築などを進めており、臨床家の視点を大切にしたエビデンスの 発信を推進しています。
●サンスターの宿泊指導型福利厚生施設「サンスター心身健康道場」とサンスター財団
サンスターは、「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉 仕する」の社是のもと、従業員が健康であるべきとの想いから、 社員の健康維持のために開設した福利厚生施設「サンスター心 身健康道場」を 1985 年に設立し、2 泊 3 日以上の宿泊指導を 実行。健康知識の習得、玄米菜食の食事、ウォーキングやアク アビクスなどの運動、冷温交代プログラムなどを組み合わせた 「食事」 ・ 「身体」 ・ 「心」の健康バランスを取り戻すための宿泊指導プログラムを提供するとともに、充実した 健康診断・歯科健診を実施しています。その結果、医療費が抑えられ、2017 年から実施されている「健康経 営優良法人」(ホワイト 500)に 2 年連続で認定されています。
一般財団法人サンスター財団は、歯科診療 (サンスター財団附属千里歯科診療所、所在地 :大阪府豊中市)、 産業歯科健診、歯科保健指導、研究助成、教育啓発、調査 ・研究、データヘルス計画に基づくサンスターグル ープ社員の健康増進施策などの事業を実施し、「サンスター心身健康道場」の運営も行っています。 当初は口腔衛生分野を中心に活動していましたが、近年は、口腔から全身の健康増進に寄与する事業を展開し、 国民、地域コミュニティや国際的な保健、医療及び福祉の発展に寄与する活動をしています。
<論文タイトルと著者>
タイトル:Effectiveness of a healthcare retreat for male employees with cardiovascular risk factors
著 者:Keiichi Matsuzaki, Shotaro Taniguchi, Kana Inoue, Takashi Kawamura, 計 4 名 (松崎慶一,谷口尚大郎,井上佳菜,川村孝 計 4 名)
掲 載 誌:Preventive Medicine Reports
DOI:https://doi.org/10.1016/j.pmedr.2018.12.005