アスタチン-211の実用的な標識法の開発

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α線がん治療の実用化に向けて進展

2019-01-18   理化学研究所

理化学研究所(理研)開拓研究本部田中生体機能合成化学研究室の田中克典主任研究員、藤木勝将特別研究員らの研究グループは、理研クリック標識技術と仁科加速器科学研究センターのRI[1]製造技術を用いて、抗がん抗体(トラスツズマブ[2])に対する放射線がん治療効果が期待される、α線放射核種アスタチン-211(211At)の実用的な標識法を開発しました。

本研究成果は、抗体などのさまざまな生体高分子の211At標識に利用することにより、α線がん治療を大きく進展させることが期待できます。

田中主任研究員らはこれまでに、二つのクリック反応[3]「理研クリック反応(高速6π-アザ電子環状反応)[4]」と「テトラジンライゲーション(逆電子要請型Diels-Alder反応)[5]」を一挙に行い、生体高分子を効率的に放射性標識する「ワンポット三成分ダブルクリック標識法」を開発していました。

今回、研究グループは、211Atが安定に結合するデカボレートというホウ素化合物を導入した「デカボレート-テトラジンプローブ」を開発し、ワンポット三成分ダブルクリック標識法を用いて、仁科加速器科学研究センターのサイクロトロンで製造した211Atをトラスツズマブに効率的かつ簡便に標識することに成功しました。さらに、表皮がんマウスの腫瘍内に合成した211At標識トラスツズマブを投与したところ、高いα線がん治療効果を示すことが分かりました。

本研究は、英国王立化学会の科学雑誌『Chemical Science』(12月21日付け)に掲載されました。

図 理研クリック標識技術による211At標識抗体(トラスツズマブ)の実用的合成法とα線治療

※共同研究グループ

理化学研究所
開拓研究本部 田中生体機能合成化学研究室
主任研究員 田中 克典(たなか かつのり)
特別研究員 藤木 勝将(ふじき かつまさ)
特別研究員 ペニ・アーマディ(Peni Ahmadi)
仁科加速器科学研究センター RI応用研究開発室核化学研究チーム
チームリーダー 羽場 宏光(はば ひろみつ)
テクニカルスタッフⅠ(研究当時)矢納 慎也(やのう しんや)
研究パートタイマーⅠ 佐藤 望(さとう のぞみ)
特別研究員 横北 卓也(よこきた たくや)
生命機能科学研究センター 健康・病態科学研究チーム
チームリーダー 渡辺 恭良(わたなべ やすよし)
研究員 金山 洋介(かなやま ようすけ)

背景

放射線治療は、外科療法、化学療法と並ぶ三大がん療法の一つです。がん治療に使われている一般的な放射線治療では、X線や電子線といった比較的高エネルギーの放射線を、患者の体外から腫瘍に向けて照射します(外部照射)。

また最近、放射線内用療法[6]の一種である放射免疫療法として、照射範囲の短いβ線やα線放射核種を抗体に標識した「放射性がん標的分子」の開発が行われています注1)。放射性がん標的分子は、がん細胞に特異的に結合するため、がん細胞だけに対して放射線を照射して効率的な治療ができ、周りの組織にダメージを与えるリスクを低減できます。実際に、β線核種を標識した、90Y標識リツキシマブ(ゼヴァリン)、131I標識トシツモマブ(ベキサール)などが放射性抗体医薬品として実用化されています。

これらに加え、より強力で、効果的な放射線治療が期待されるα線核種を用いた放射線内用療法の研究も進められています。現在、放射性抗体医薬品の作製において、放射性標識反応に使われている代表的な手法が活性エステル法[7]です。これまでに報告されたほとんどのα線核種標識分子が、この活性エステル法を利用して合成されています。しかし、この手法では、実用的な反応効率で標識反応を達成するために、高濃度条件下で生体分子と標識剤を反応させる必要があり、また数時間から終夜の長い反応時間を要するという問題がありました。

田中主任研究員はこれまでに、さまざまな理研クリック試薬を開発し、理研クリック標識技術を用いたタンパク質や細胞の標識、診断技術の開発に成功しています注2)。2017年には、二つのクリック反応「理研クリック反応(高速6π-アザ電子環状反応)」と「テトラジンライゲーション(逆電子要請型Diels-Alder反応)」を一挙に行うことで、生体分子を簡便に標識できる「ワンポット三成分ダブルクリック標識法」という理研クリック標識技術を開発し、この標識法を用いて、ヒト血清アルブミン(HSA)や抗体に対して、放射性診断・治療用β線核種67Cuの実用的な標識を達成しています(図1)注3)

今回研究グループは、実用的なα線免疫療法を達成するため、α線核種である「アスタチン-211(211At)」が安定に結合するデカボレートというホウ素化合物を導入したデカボレート-テトラジンプローブの開発を試みました。このプローブとワンポット三成分ダブルクリック標識法を用いることで、抗体にデカボレートを効率的に導入し、続いて211Atで標識することで簡便に211At標識抗体を合成できると考えました。

注1)Milenic D. E., Brady E. D. and Brechbie M. W. Antibody-targeted radiation cancer therapy. nature reviews drug discovery. 2004;3:488-99.
注2)2018年2月23日プレスリリース「理研クリック試薬の誕生
注3)K. Fujiki, S. Yano, T. Ito, Y. Kumagai, Y. Murakami, O. Kamigaito, H. Haba, K. Tanaka: “A One-Pot Three-Component Double-Click Method for Synthesis of [67Cu]-Labeled Biomolecular Radiotherapeutics”, Sci. Rep. 7, 1912 (2017).

研究手法と成果

まず、ダブルクリック標識法を用いた効率的な211At標識法を開発するために、デカボレート-テトラジンプローブを設計・化学合成しました。そして、理研クリック反応とテトラジンライゲーションにより、デカボレートを導入したトラスツズマブ(デカボレート-トラスツズマブ)の効率的な合成を達成しました(図2)。

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