腎障害における線維化の正の側面の発見~線維化が腎臓を修復する~

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2019-01-18 京都大学

柳田素子 医学研究科教授、中村仁 同博士課程学生(現・アステラス製薬)らの研究グループは、これまでの考えとは逆に、腎臓の「線維化」が腎臓を修復する可能性を見出しました。

慢性腎臓病は10人に1人が罹患する国民病で、慢性腎臓病が進行すると腎臓の「線維化」が認められるため、従来は「線維化」が腎機能を低下させると想像されていました。

本研究グループは、先行研究で、「尿細管」(腎臓の中で尿が通る管)が障害されると、周囲の「線維芽細胞」の性質が変わって線維化が起きることを見出しています。本研究では、尿細管にはもともと自分自身を修復する「レチノイン酸」の合成能があること、尿細管が障害されるとその合成能が失われる一方で、障害尿細管の周囲の線維芽細胞がレチノイン酸産生能を獲得し、障害尿細管の修復を助ける可能性を発見しました。

本研究成果は、線維化が腎臓を修復する可能性を示唆しています。現在、線維化が腎臓病の悪化因子のように考えられ「線維化治療薬」が開発されていますが、本研究は、「線維化治療薬」の問題点を示唆するとともに、尿細管を修復する重要性を裏付けています。

本研究成果は、2019年1月17日に、国際学術誌「Kidney International」のオンライン版に掲載されました。

腎障害における線維化の正の側面の発見~線維化が腎臓を修復する~

図:線維化を促す線維芽細胞は尿細管の修復を助けるレチノイン酸合成能を獲得する。

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1016/j.kint.2018.10.017

【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/236048

Jin Nakamura, Yuki Sato, Yuichiro Kitai, Shuichi Wajima, Shinya Yamamoto, Akiko Oguchi, Ryo Yamada, Keiichi Kaneko, Makiko Kondo, Eiichiro Uchino, Junichi Tsuchida, Keita Hirano, Kumar Sharma, Kenji Kohno, Motoko Yanagita (2019). Myofibroblasts acquire retinoic acid–producing ability during fibroblast-to-myofibroblast transition following kidney injury. Kidney International.

詳しい研究内容について

腎障害における線維化の正の側面の発見
―線維化が腎臓を修復する―
概要慢性腎臓病は 10 人に 1 人が罹患する国民病です。慢性腎臓病が進行すると腎臓の「線維化」が認められる ため、従来は「線維化」が腎機能を低下させると想像されていました。
京都大学大学院医学研究科 腎臓内科学 柳田素子 教授、中村仁 同博士課程学生 研究当時、現 アステラ ス製薬)らの研究グループは今回、これまで考えられていたのとは逆に、「線維化」が腎臓を修復する可能性 を見出しました。同グループは以前「尿細管」 腎臓の中で尿が通る管)が障害されると、周囲の「線維芽細 胞」の性質が変わって線維化が起きることを見出しています 下図の斜め矢印)。今回同グループは、尿細管 にはもともと自分自身を修復する 「レチノイン酸」の合成能があること、尿細管が障害されるとその合成能が 失われる一方で、障害尿細管の周囲の線維芽細胞がレチノイン酸産生能を獲得し、障害尿細管の修復を助ける 可能性を発見しました。
この結果は、線維化が腎臓を修復する可能性を示唆しています。現在、線維化が腎臓病の悪化因子のように 考えられ「線維化治療薬」が開発されていますが、この結果は、「線維化治療薬」の問題点を示唆するととも に、尿細管を修復する重要性を裏付けています。
本研究成果は、2019 年 1 月 17 日に国際学術誌「Kidney International」にオンライン掲載されました。 図. 線維化を促す線維芽細胞は尿細管の修復を助けるレチノイン酸合成能を獲得する 1.背景
慢性腎臓病は 10 人に 1 人が罹患する国民病です。慢性腎臓病が進行すると透析や移植が必要な慢性腎不全 に陥ります。進行した慢性腎臓病では腎臓の 「線維化」が認められるため、従来は 「線維化」が腎機能を低下 させると想像されていました。そのため、さまざまな 「線維化治療薬」の開発が試みられていますが、腎臓病 に臨床応用されたものはありません。
「尿細管」 腎臓の中で尿が通る管)はさまざまな原因による腎臓病で障害されます。京都大学大学院医学 研究科腎臓内科学の柳田素子教授の研究グループは以前、尿細管が障害されると、周囲の 「線維芽細胞」の性 質が変わって線維化が起きることを見出しています 図参照)。このことから、同グループでは、尿細管障害 が線維化を誘導することには、これまで見つかっていない 「合目的性」があるのではないかと考え、本研究を 着想しました。

2.研究手法・成果
本研究では、線維芽細胞と尿細管細胞のクロストーク 相互干渉)に注目し、線維芽細胞のタンパク合成を 任意の時点で停止させるマウスを作成し、研究を行いました。その結果、健康な腎臓で線維芽細胞のタンパク 合成を停止させると尿細管の障害と増殖が起きる一方、障害された腎臓で線維芽細胞のタンパク合成を停止さ せると、尿細管の障害が悪化し、修復ができなくなることを見出しました。
以上のことから、線維芽細胞からは尿細管の修復を促進し、健康な状態を維持する物質がでているのではな いかと考えました。その物質を探索するため、線維芽細胞のタンパク合成を停止させた腎臓で変化している遺 伝子を調べたところ、レチノイン酸関連のシグナルが低下していることを見つけました。実際に、レチノイン 酸合成酵素は健康な尿細管に発現していますが、尿細管障害とともにその発現が失われ、かわりに性質変化し た線維芽細胞が非常に強いレチノイン酸合成能を獲得することを見つけました 図参照)。レチノイン酸は尿 細管の増殖を促進して修復させる作用を持つこともわかりました。さらにヒト腎臓病組織を調べると、進行し た腎臓病では、線維芽細胞がレチノイン酸合成酵素を発現していることもわかりました。
以上のことは、障害尿細管が線維芽細胞の性質変化を誘導することには、尿細管を修復するレチノイン酸の 合成酵素を獲得させるという 「合目的性」があること、線維化に尿細管を修復するという 「正の側面」がある 可能性を示唆しています。

3.波及効果、今後の予定
現在、線維化が腎臓病の悪化因子のように考えられ「線維化治療薬」が開発されていますが、この結果は、 「線維化治療薬」の問題点を示唆するとともに、尿細管を修復する重要性を示しています。

4.研究プロジェクトについて
本研究成果は、最先端・次世代研究開発支援プロジェクト、AMED、JSPS 等から支援を受けています。本 研究は中村が大学院生として在籍時に行った研究ですが、中村は卒業後、アステラス製薬に就職しています。

<研究者のコメント>
本研究成果によって、少なくとも初期の線維化には腎臓を修復する役割があることが明らかになったことは、 線維化治療薬の適応や使用時期に関する検討の必要性を示すものであり、尿細管を修復する薬剤開発の重要性 を示すものでもあります。レチノイン酸が強い尿細管修復力を持つという知見は、今後、尿細管修復薬を開発 する上でも有用と考えられます。

<論文タイトルと著者>
タイトル: Myofibroblasts acquire retinoic acid-producing ability during fibroblast-to-myofibroblast transition in kidney disease 活性化線維芽細胞は、線維芽細胞からの性質変化の過程でレチノイ ン酸合成能を獲得する)
著 者: Jin Nakamura, Yuki Sato, Yuichiro Kitai Shuichi Wajima, Shinya Yamamoto, Akiko Oguchi, Ryo Yamada, Keiichi Kaneko, Makiko Kondo, Eiichiro Uchino, Junichi Tsuchida, Keita Hirano, Kumar Sharma, Kenji Kohno, Motoko Yanagita
掲 載 誌 :Kidney International

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