2019-01-25 東京大学
植物は、匂いを感じて防御体制をとったり、自分の生育を調節したりすることが知られていましたが、鼻も神経もない植物がどのように匂いを感知するか知られていませんでした。東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授らの研究グループは、モデル植物としてタバコを用いて実験したところ、葉の細胞の核内で遺伝子の転写を制御するのに関わっているタンパク質が匂いセンサーとなっていることを見出しました。
自然環境下において、昆虫に食べられた植物の周辺に生育している植物は、昆虫に食べられにくくなることが報告されています。つまり、植物は匂いでコミュニケーションをとっていると考えられます。しかし、植物には、哺乳類で見られるような細胞膜に組み込まれた嗅覚受容体のようなものは存在しません。植物の細胞では匂いがどのように感知されるのか、植物には動物のような「嗅覚」は存在するのかは、大きな疑問でした。
研究グループはまず、タバコ由来の培養細胞やタバコ個体が、アロマオイルなどに含まれるß-カリオフィレンとこれに似た構造の匂い物質に暴露されると、ある抵抗性遺伝子が特異的に発現誘導されることを見出しました。次に、ß-カリオフィレンの分子構造を認識する「匂い受容体」を探索した結果、TOPLESSという核内の転写制御因子が、ß-カリオフィレンを「鍵と鍵穴」のように認識するタンパク質であることが明らかになりました。実際に、TOPLESS タンパク質を多く持つ組み替えタバコ培養細胞と組み替えタバコ植物体を作出して、ß-カリオフィレンに対する応答を解析したところ、TOPLESSは抵抗性遺伝子の発現制御に関わっていることが示唆されました。
本研究の成果は、植物においては、動物がもつ細胞膜上の嗅覚受容体とは異なり、核内に存在する転写制御因子が匂い物質を感知する「匂い受容体」として機能している可能性を初めて示唆します。本研究成果を応用することで、香りを利用して食害や病害に強い植物の作製が可能になることが期待されます。
植物においては転写制御因子が「匂い受容体」として機能する
植物が病害や食害誘導的に匂い物質を放出し、それに応答することは知られていましたが、匂い物質をどのようなメカニズムで受容しているのかはわかっていませんでした。本研究では、ß-カリオフィレンという匂い物質とタバコに着目し、ß-カリオフィレンと結合する転写制御因子が「匂い受容体」として機能している可能性を示しました。
© 2019 東原和成
論文情報
Ayumi Nagashima, Takumi Higaki, Takao Koeduka, Ken Ishigami, Satoko Hosokawa, Hidenori Watanabe, Kenji Matsui, Seiichiro Hasezawa, and Kazushige Touhara, “Transcriptional regulators involved in responses to volatile organic compounds in plants,” Journal of Biological Chemistry: 2018年12月28日, doi:10.1074/jbc.RA118.005843.
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