音刺激がチンパンジーのリズミカルな身体運動を誘発することを発見

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類人猿にも共有されている音楽の基盤

2019-12-24 京都大学

服部裕子 霊長類研究所助教、友永雅己 同教授は、音刺激がチンパンジーのリズミカルな身体運動を誘発することを発見しました。

ダンスや合唱など、音楽は世界中の文化で取り入れられており、ヒトに普遍的な活動だと言われています。乗りのよい音楽を聴くと、私たちは思わず体を動かしたくなりますが、これは音楽が私たちの身体運動にも強く働きかけるからだということがわかっています。

本研究では、チンパンジーを対象に、リズム音を用いてプレイバック実験を行い、音刺激がリズミカルな身体運動を誘発するのか調べました。その結果、チンパンジーもヒトと同様に全身の揺れ(swaying)や頭の振り(head bobbing)といったリズミカルな運動が誘発されることがわかりました。また、オスの方がメスよりも大きな反応が見られたことから、雌雄差があることも確認されました。さらに、音刺激が提示されると音源へより接近するなど刺激に対する選好もみられました。

これらの結果から、ヒトの音楽活動をささえる基盤は、類人猿にもある程度共有されており、進化的に深く根ざしたものであることが示唆されます。

本研究成果は、2019年12月24日に、国際学術誌「PNAS」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1073/pnas.1910318116

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/245227

Yuko Hattori and Masaki Tomonaga (2019). Rhythmic swaying induced by sound in chimpanzees (Pan troglodytes). Proceedings of the National Academy of Sciences.

 

詳しい研究内容について

音刺激がチンパンジーのリズミカルな身体運動を誘発することを発見

類人猿にも共有されている音楽の基盤―

概要

京都大学霊長類研究所 服部裕子 助教および友永雅己 同教授は、音刺激がチンパンジーのリズミカルな身体運動を誘発することを発見しました。

ダンスや合唱など、音楽は世界中の文化で取り入れられており、ヒトに普遍的な活動だと言われています。ノリのよい音楽を聴くと、私たちは思わず体を動かしたくなりますが、これは音楽が私たちの身体運動にも強く働きかけるからだということがわかっています。

本研究では、チンパンジーを対象に、リズム音を用いてプレイバック実験を行い、音刺激がリズミカルな身体運動を誘発するのか調べました。その結果、チンパンジーもヒトと同様に全身の揺れ(swaying)や頭の振り (head bobbing)といったリズミカルな運動が誘発されることがわかりました。また、オスの方がメスよりも大きな反応が見られたことから、雌雄差があることも確認されました。さらに、音刺激が提示されると音源へより接近するなど刺激に対する選好もみられました。これらの結果から、ヒトの音楽活動をささえる基盤は、類人猿にもある程度共有されており、進化的に深く根ざしたものであることが示唆されます。

本研究成果は、2019 年 12 月 24 日に米国の国際学術誌「米国科学アカデミー紀要」(Proceedings of the

National Academy of Sciences of the United States of America) にオンライン掲載されました。

 

本研究のイメージ図(©Tomoki Shimizu, Kyoto University / Eric Isselée, and4me – stock.adobe.com)

1.背景

ダンスや合唱など、音楽はヒトに普遍的な活動だと言われています。しかしながら、こうした活動の進化的起源はあまりよくわかっていません。近年、オウムなど音声コミュニケーション能力の高い動物が、音楽にあわせてダンスをするといった報告が挙げられており、ヒトの音楽をささえる生物的基盤に対する関心が高まっています。

こうした音楽の特徴に、脳内での聴覚処理と運動制御の強いつながりが挙げられます。私たちは、ノリの良い音楽を聴くと、思わず体を動かしたくなりますが、こうした音楽によるリズム運動の誘発は、発達の早い段階から現れることが報告されています。しかしながら、ヒト以外の霊長類でどの程度こうした現象がみられるのかは、あまりよくわかっていませんでした。

そこで本研究では、系統発生的にヒトに最も近い種のひとつであるチンパンジーを対象に、リズム音など聴覚刺激がリズミカルな身体運動を誘発するのかについて調べました。

2.研究手法・成果

8ビートのリズム音を作成し、それをチンパンジーが実験室にいる時に再生して自発的な反応を調べました(こうした手続きを用いた実験をプレイバック実験と呼びます)。7個体のチンパンジーを対象に、こうしたリズム音を2分から3分(実験1と2では2分間、実験3では3分間)再生した結果、すべてのチンパンジーで体のリズミカルな揺れ(swaying)や頭の振り(head bobbing)、拍手や足踏みといったリズミカルな運動が誘発されることが確認されました。また、そうした反応の最中に発声も観察されました。興味深いことに、オス個体の方がメス個体よりもこうした反応は大きく、リズム運動を行う時間や発声の頻度はオスの方が大きいこともわかりました。これは、彼らの野生下での音声コミュニケーションの違いにも一致しています。チンパンジーは、オスが協力して縄張りを守りますが、音を用いたコミュニケーションはオス同士のほうがより頻繁に行われます。本研究の結果から、チンパンジーのオスはより音に敏感に反応するように進化していったことで、他のオスとより密な音声コミュニケーションを発達させていったことが示唆されます。ヒトにはこうした音への反応に対する顕著な雌雄差は見られないため、こうした違いはチンパンジーがヒトとの共通祖先から分岐した後に独自に進化させていったものだと考えられます。

ただし、本研究ではリズムの構造を崩して特定のリズムが判別できない音刺激に対してもリズム運動の誘発が見られました。音のどの要素がリズミカルな身体運動を誘発するのかについては、今後さらに検討する必要があります。

本研究では更に、最も音に対して反応が見られたオス1個体を対象に、リズム音のテンポに合わせた動きをするのか、またこうした刺激を好んで得ようとするのかについても調べました。異なるテンポのリズム音に対する反応を比較した結果、2足姿勢(上体が起きている姿勢)では、テンポの速いリズム音を聞いているときには動きが速く、ゆっくりなリズムを聞いている時には動きが遅くなっていることがわかりました。音のタイミングにあわせてダンスをするといった、正確な合わせ方ではありませんが、ある程度は、リズム音の速さもリズミカルな動きに影響を与えることが明らかになりました。さらに、音刺激を再生している場合には、音が再生されていない場合に比べ、より音源に近づく傾向があることも確認されました。実験に参加するかどうか、より強い音刺激を受けるかどうかは、すべてチンパンジー自身が選択して決められる状況で、自らそうした刺激を得ようとすることがわかりました。

3.波及効果、今後の予定

ほんの10年前までは、音楽は文化を通して獲得されるヒトだけの能力だと考えられていました。また、私たちが音楽に対して感じる快感情も、他の能力の副産物であり、特に進化的な意味はないと唱える研究者もいました。しかしながら、この10年間で、ヒトの音楽活動を支える基盤は、チンパンジーを含めた様々な動物たちにも共有されていることがわかってきました。また、彼らの社会や生息環境から、そこにどのような進化的背景があったのかも推測できるようになってきました。音楽の生物的基盤やその進化についての研究は、始まったばかりですが、ヒトとヒト以外の霊長類の音楽性をさらに調べる事で、ヒトが音楽を発達させてきた進化的背景を明らかにしたいと考えています。

4.研究プロジェクトについて

本研究は京都大学 霊長類研究所にて行われました。また、日本学術振興会( 基盤研究(S) No. 23220006( 友永雅己); 若手研究 (B) Nos. 24700260 and 26730074 (服部裕子);萌芽研究 No.17K18699(服部裕子))の支援を受けました。

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