ギニア・ニンバ山の野生チンパンジーによるカニ採集を発見

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人間にもっとも近いヒト科の類人猿では初めて

2019-05-30  京都大学

松沢哲郎 高等研究院特別教授、カテリーナ・コープス チューリッヒ大学研究員(霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院 国際連携研究者)、メイガン・フィッツジェラルド 野生動物研究センター博士課程学生らは、日米英スイスの4か国による共同研究によって、西アフリカ・ギニアのニンバ山で、熱帯の深い森にすむ野生チンパンジーが森の止水域(溜まり水)にすむサワガニをつかまえて常食していることを発見しました。
水辺にすむカニクイザルなど霊長類20種でカニ食は知られていますが、チンパンジーなどヒト科の類人猿では、カニを食べるというのはこれまで全く知られていなかった採食行動です。本発見は、初期の人類がどのようにして水生動物食を始めたか、という問題の解明に示唆を与えるものです。
本研究成果は、2019年5月29日に、国際学術誌「Journal of Human Evolution」のオンライン版に掲載されました。

図:サワガニを採って食べるチンパンジー(Kathelijne Koops)

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.jhevol.2019.05.002

Kathelijne Koops, Richard W. Wrangham, Neil Cumberlidge, Maegan A. Fitzgerald, Kelly L. van Leeuwen, Jessica M. Rothman, Tetsuro Matsuzawa (2019). Crab-fishing by chimpanzees in the Nimba Mountains, Guinea. Journal of Human Evolution.

詳しい研究内容について

ギニア・ニンバ山の野生チンパンジーによるカニ採集を発見
―人間にもっとも近いヒト科の類人猿では初めて―

概要
京都大学高等研究院 松沢哲郎 特別教授、チューリッヒ大学 カテリーナ・コープス 研究員 (霊長類学 ・ イルドライフサイエンス・リーディング大学院 国際連携研究者)、野生動物研究センター メイガン・フィッ ツジェラルド 博士課程学生らは、日米英スイスの 4 カ国による共同研究によって、西アフリカ・ギニアのニ ンバ山で、熱帯の深い森にすむ野生チンパンジーが森の止水域 (溜まり水)にすむサ ガニをつかまえて常食 していることを発見しました (次ページ写真)。水辺にすむカニクイザルなど霊長類 20 種でカニ食は知られて いますが、チンパンジーなどヒト科の類人猿では、カニを食べるというのはこれまで全く知られていなかった 採食行動です。この発見は、初期の人類がどのようにして水生動物食を始めたか、という問題の解明に示唆を 与えるものです。
本研究成果は、2019 年5月 29 日に国際学術誌「Journal of Human Evolution」にオンライン掲載されまし た。


サワ ガニを採って食べるチンパンジー 提供:Kathelijne Koops)

1.背景
人類の食料源としての水生動物食についての新発見である。人類はおよそ 200 万年前から水辺の動物を食 べていたことがわかっているが、いつどのようにして水生の動物を食べ始めたかはわかっていなかった。

2.研究手法・成果
今回の発見は、西アフリカのギニアの世界自然遺産のニンバ山( 標高 1740m)である。熱帯の深い森にす む野生チンパンジーが森の止水域( 溜まり水)にすむサワガニをつかまえて常食していることを見つけた。 (水 辺にすむカニクイザルなど)霊長類 20 種でカニ食は知られているが深い森にすむヒト科の類人猿、つまり人 間にもっとも近いチンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータンでは、カニを食べるというのはこれまでま ったく知られていなかった。
チンパンジーの主食である果実の生産量を森で測った資料とつき合わせてみると、果実のみのりの多寡とは 関係なく、通年でカニを食べていた。また雨季 (3-11 月)と乾季 (12-1-2 月)があるが雨量とも関係ない。 興味深いことに性差があった。子連れの女性がよく食べし、1 時間以上もの長い時間かけてカニを食べる。 男性は食べても時間が短い。
また通年でみると、アリ釣りと負の相関があった。つまり、ニンバ山の野生チンパンジーはどうもうなサフ ァリアリ (サスライアリ)を棒で釣って食べるが、そのアリ釣りが少ない時期にカニを食べる。栄養分析の結 果、両者の栄養構成は近いことがわかった。 これらの発見から、初期の人類がなぜどのようにして水生動物食を始めたかについて3つのことがいえる。
● 第1に、これまで考えられていたような初期人類の進出した開けた場所の水辺ではなくて、深い森の中 ですでに水生動物食は始まりうる。つまり (400 万年以上前の)アルディピテクス猿人やアファール猿 人のように森に暮らしていた初期人類は森の暮らしの中ですでに水生動物利用を始められただろう。
● 第2に、水生動物は欠くことのできない食物として森に住む初期人類が常食としていた可能性がある。
● 第3に、とくに女性や子どもにとって重要な食物だったろう。男性は狩猟で獣の肉を食べる機会が多い が、そうした機会に恵まれない女性や子どもにとってカニは貴重な栄養源だった。必須脂肪酸に加えて、 ナトリウム塩やカルシウムの摂取の貴重な機会だったと考えられる。

最初の発見は 2012 年 2 月 25 日で、カニ採集をする場所を4か所 (標高 720-875m)みつけてトラップカ メラをしかけて、2014 年 4 月まで (エボラ出血熱で退去を余儀なくされたときまでの 2 年間あまりで)181 回の撮影に成功した結果を分析した。

3.研究プロジェクトについて
カテリーナ・コープス (京都大学霊長類学 ・ イルドライフサイエンス・リーディング大学院国際連携研究 者、チューリッヒ大学、ケンブリッジ大学)、メイガン・フィッツジェラルド (京都大学野生動物研究センタ ー・博士課程学生)、松沢哲郎 (京都大学高等研究院・特別教授)ほか。日米英スイスの 4 カ国の共同研究。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Crab-fishing by chimpanzees in the Nimba Mountains, Guinea
著 者:Kathelijne Koops, Richard W. Wrangham, Neil Cumberlidge, Maegan A. Fitzgerald, Kelly L. van Leeuwen, Jessica M. Rothman, Tetsuro Matsuzawa
掲 載 誌:Journal of Human Evolution (オランダのエルゼビア社の発行、IF=3.992 (2017)、 「人間進化」の 科学誌で最も高頻度に引用される)
D O I:未定

<イメージ図>


図 1. 調査を行ったニンバ山の地 図。カニのマークは、チンパンジ ーがカニ採集をする場所。( 提供 : Kathelijne Koops)


図2.サ ガニを採って食べるチンパンジー (提供:Kathelijne Koops)


図3.チンパンジーが食べた跡のカニの殻 (提供:Kathelijne Koops)


図4.( a)チンパンジーのカニ食は、現地の雨季( 3~11 月)と乾季( 12~1 ・2 月)とは関係がない。( b)ま た、チンパンジーの主食である果実の生産量を森で測った資料とつき合わせてみると、果実のみのりの多寡と は関係なく、通年でカニを食べていた。 (c)さらに、通年でみると、アリ釣りと負の相関があった。


図5.チンパンジーのカニ食には、興味深いことに性差があった。 (上)子連れの女性 (Femaile(s) & offspring) がよく食べる。( 下)また、子連れの女性は 1 時間以上もの長い時間かけてカニを食べる。男性は食べても時 間が短い。

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