ヒトiPS由来心筋細胞の前臨床試験活用に向けて一歩
2109-06-11 東京大学
東京大学大学院薬学系研究科薬品作用学教室の折田健大学院生と池谷裕二教授らは、人工知能を用いてヒトiPS由来細胞培養の品質管理に成功しました。研究成果は2019年5月4日付でJournal of Pharmacological Sciences電子版に掲載されました。
ヒトiPS由来心筋細胞は、薬物を人に投与したときに心臓に与える有害作用を事前に予測するための応用が期待されています。しかし、現状ではヒトiPS由来心筋細胞は品質にムラがあり、経験豊かな実験者の勘によって品質の良し悪しを見抜く必要がありました。一つ一つの培養を顕微鏡でチェックする作業であるために時間効率が悪く、また実験者の熟達度によって判定が異なる可能性があるなどの実務的問題がありました。
研究グループは、画像分類に秀でたディープラーニングがヒトiPS由来心筋細胞の品質を自動で判別できるかを検証しました。熟練した実験者が判別した品質を正解ラベルとして、アルゴリズムに画像データを学習させました。その結果、熟練者の品質判定に対して89%の確率で正解しました。汎用性を考えると、低スペックのパコソンでも高速に判別できる必要がありますが、学習後のアルゴリズムを、ごく一般的な市販のノートパソコンで実行させたところ、判別精度を維持しながら、1秒あたり約2,000枚の判別が可能でした。
同研究により従来は熟達者の勘に頼ってきたヒトiPS由来心筋細胞の品質管理をディープラーニングで代替する新たな道筋が示されました。本成果は、創薬の効率化だけでなく、ヒトiPS細胞の基礎研究にも貢献するものと期待されます。
「創薬の過程には自動化できる過程がまだたくさんあります」と折田大学院生は話します。「これからも人工知能を活用することで創薬に貢献していきたいと思います」。
論文情報
Ken Orita, Kohei Sawada, Ryuta Koyama, Yuji Ikegaya, “Deep learning-based quality control of cultured human-induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocytes,” Journal of Pharmacological Sciences: 2019年5月4日, doi:10.1016/j.jphs.2019.04.008.
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