TYK2遺伝子のレアバリアントが関節リウマチ発症を抑制

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特定のタンパク質ドメインを標的とした治療法の開発へ

2019-06-13 理化学研究所,東京大学,日本医療研究開発機構

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの茂木朋貴リサーチアソシエイト(研究当時、現 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任研究員)、桃沢幸秀チームリーダー、自己免疫疾患研究チームの高地雄太副チームリーダー、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻クリニカルシークエンス分野の松田浩一教授らの共同研究グループは、日本人約6,000人分のDNAを解析し、アミノ酸変化を伴う低頻度の遺伝子バリアント[1](=レアバリアント[2])がTYK2遺伝子[3]上の特定の領域(ドメイン)に存在している場合に、それが関節リウマチの発症を抑制することを発見しました。

本研究成果は、関節リウマチの発症メカニズムのさらなる解明やTYK2遺伝子ドメインの選択的調節による新たな治療法の開発に貢献すると期待できます。

今回、共同研究グループは、バイオバンク・ジャパン[4]で収集された関節リウマチ患者2,322人とリウマチ患者でない人(対照群)4,517人のDNAを用いて、98遺伝子上にあるレアバリアントの解析を行いました。その結果、TYK2遺伝子上にアミノ酸配列に影響を及ぼすレアバリアントを保有すると2.08倍関節リウマチを発症しにくいこと、これらのレアバリアントはタンパク質機能に関わる二つのドメイン上に特に多く存在することが分かりました。また、これらのドメインの代表的な遺伝子バリアントの機能をそれぞれ調べたところ、異なったサイトカイン[5]シグナルの変化が示されました。これらの結果は、一つの遺伝子であっても特定のドメインについて解析することで、より詳しいメカニズムを明らかにできるとともに、特定のドメインを制御する新たな治療法開発の可能性を提示するものです。

本研究は、英国の科学雑誌『Annals of the Rheumatic Diseases』の掲載に先立ち、オンライン版(5月22日付け)に掲載されました。


図 今回のレアバリアント探査によって得られたドメインごとの機能の違いと創薬への流れ
※GWASの図は注2より引用図の説明

*共同研究グループ
理化学研究所
生命医科学研究センター 基盤技術開発研究チーム

  • リサーチアソシエイト(研究当時) 茂木 朋貴(もてぎ ともき)
    (現 客員研究員、東京大学大学院 農学生命科学研究科 特任研究員)
  • チームリーダー 桃沢 幸秀(ももざわ ゆきひで)
自己免疫疾患研究チーム

  • 副チームリーダー 高地 雄太(こうち ゆうた)
  • チームリーダー 山本 一彦(やまもと かずひこ)
生命医科学研究センター

  • 副センター長(研究当時) 久保 充明(くぼ みちあき)
東京大学大学院 新領域創成科学研究科
メディカル情報生命専攻 クリニカルシークエンス分野

  • 教授 松田 浩一 (まつだ こういち)
※研究支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)のオーダーメイド医療の実現プログラム「疾患関連遺伝子等の探索を効率化するための遺伝子多型情報の高度化(研究開発代表者:久保 充明)」の支援のもと行われました。

背景

自己免疫疾患[6]の一つである関節リウマチは、関節の炎症と破壊を生じる疾患で、日本人の約1%が罹患していることが知られています注1)。2003年に生物学的製剤の使用が認可されたことから、この疾患の予後は大きく改善しました。しかし現在の生物学的製剤では治療が困難な場合もあり、より良い治療法を開発するには、発症メカニズムをさらに詳しく調べる必要があります。

関節リウマチでは遺伝的要因が発症に関与することがよく知られており、ゲノムワイド関連解析(GWAS)[7]によって、発症に関わる頻度の高い遺伝子バリアントが100個以上同定されています。この遺伝子バリアントを持つ人は、持たない人に比べ、1.1~1.5倍程度、関節リウマチにかかりやすいことが分かっています注2)

一方で、人口の5%以下にしか存在しないレアバリアントはGWASでの解析が難しいものの、疾患発症に対してより強い影響を示す可能性があります。このレアバリアントを同定することは、より詳しい発症メカニズム解明の起点となり、新たな治療ターゲットの開発につながると考えられます。

注1)
Hisashi Yamanaka, Naonobu Sugiyama, Eisuke Inoue, Atsuo Taniguchi, Shigeki Momohara., Estimates of the prevalence of and current treatment practices for rheumatoid arthritis in Japan using reimbursement data from health insurance societies and the IORRA cohort (I).Modern Rheumatology2015, 24, 33-40.
注2)
Yukinori Okada, Di Wu, Gosia Trynka, Towfique Raj, Chikashi Terao, Katsunori Ikari, Yuta Kochi, et al., Genetics of rheumatoid arthritis contributes to biology and drug discovery. Nature 2014, 506, 376-381
研究手法と成果

共同研究グループは、バイオバンク・ジャパン(バイオバンク・ジャパンのHP)によって収集された関節リウマチ患者の疾患群2,322人と対照群4,517人のサンプルについて、既に大規模GWASによって関節リウマチ発症との関連が示唆されている98遺伝子の全翻訳領域である176,335塩基を対象に、理研生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームが開発したターゲットシークエンス法[8]を用いてレアバリアントの解析を行いました。遺伝子ごとのレアバリアントの割合を調べた結果、対照群ではTYK2遺伝子上にアミノ酸配列に影響を及ぼすレアバリアントが多く保有されており(疾患群:8.3%、対照群:14.0%、P=3.94×10-12)、遺伝子バリアントを持つことで2.08倍関節リウマチを発症しにくいことが分かりました。

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