RFIDマイクロチップを用いた肺癌手術の臨床使用を開始 ~微小肺癌のあたらしい術中位置同定方法~

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2019-10-17 京都大学

伊達洋至 医学研究科教授、佐藤寿彦 同准教授(現・福岡大学准教授)、豊洋次郎 同助教、株式会社ホギメディカルらは、「微小肺癌に対するマイクロチップを用いた術前マーキング方法」 を開発し、世界で初めて患者への臨床使用を開始しました。

肺癌に対して現在主流となっている低侵襲な胸腔鏡手術では、小さな孔から手術操作を行うために十分に肺を触診することができず、胸膜から距離のある小さな腫瘍の位置を正確に同定することが困難でした。そのため、本研究グループでは、スマートフォンやプリペイドカードなどに使用されており、近距離無線通信の用途で普及しているradiofrequency identification(RFID)技術に着目し、RFIDマイクロチップを搭載した小型無線マーカーを開発しました(RFIDマーキングシステム)。

本技術を用いることにより、従来の方法では位置がわかりにくかった深部病変に対しても正確な位置同定を可能としました。

本技術は、2019年9月27日に、医学部附属病院において臨床使用を開始しました。

RFIDマイクロチップを用いた肺癌手術の臨床使用を開始 ~微小肺癌のあたらしい術中位置同定方法~

図:RFIDマーキングシステム構成

書誌情報

京都新聞(10月17日 24面)、産経新聞(10月16日夕刊 7面)、日本経済新聞(10月16日夕刊 12面)および読売新聞(10月16日夕刊 12面)に掲載されました。

詳しい研究内容について

RFID マイクロチップを用いた肺癌手術の臨床使用を開始
―微小肺癌のあたらしい術中位置同定方法―

概要
京都大学大学院医学研究科呼吸器外科 伊達洋至 教授、佐藤寿彦 同准教授(研究当時、現:福岡大学准教 授)、豊洋次郎 同助教、株式会社ホギメディカルらは、「微小肺癌に対するマイクロチップを用いた術前マー キング方法」 を開発し、世界で初めて患者さんへの臨床使用を開始しました。
肺癌に対して現在主流となっている低侵襲な胸腔鏡手術では、小さな孔から手術操作を行うために十分に肺 を触診することができず、胸膜から距離のある小さな腫瘍の位置を正確に同定することが困難とされてきまし た。そのため、同研究グループでは、スマートフォンやプリペイドカードなどに使用されており、近距離無線 通信の用途で普及している radiofrequency identification(RFID)技術に着目し、RFID マイクロチップを搭載し た小型無線マーカーを開発しました (RFID マーキングシステム)。この技術を用いることにより、従来の方法 では位置がわかりにくかった深部病変に対しても正確な位置同定を可能としました。
本技術は、2019 年 9 月 27 日に京都大学医学部附属病院において臨床使用を開始しました。

1.背景
本邦において肺癌は増加傾向にあり、現在癌種の中では男女ともに 「肺および気管支の悪性新生物」が死因の 第一位となっています。肺癌の発生率は年齢とともに増加することが分かっており、高齢化のすすむわが国で は今後さらに増加することが予想されています。米国では 2011 年に、重喫煙者を対象とした低線量 CT 検査 を用いた肺癌検診が、胸部 X 線検診より 20%の肺癌死亡率減少効果をもたらすことが報告され、早期発見の 重要性が示されています。本邦におきましても CT 検査によって微小かつ転移 浸潤などの悪性度が低いとさ れている肺癌の発見が増加しています。これら早期の非浸潤性肺癌は、外科的切除だけで治癒する可能性が高 いため、標準的手術である肺葉切除よりも切除範囲が小さく、肺機能を温存する縮小手術を行っても、その予 後は遜色ありません。
現在肺癌の手術として主流である低侵襲な胸腔鏡手術では、小さな孔から内視鏡を用いて手術するため、触 知が困難な微小かつ非浸潤性腫瘍の部位を正確に同定することは困難とされてきました。京都大学では、術前 に気管支鏡ガイド下に肺の表面を染色し術中の腫瘍の位置を同定する方法を行ってきましたが、胸腔鏡手術で は、肺を虚脱 変形させるほか、牽引などの手術操作によっても臓器変形をきたしやすく、胸膜から距離のあ る深部病変では、腫瘍の正確な位置をとらえにくいことがわかってきました。そのため、近距離無線通信の用 途で普及している radiofrequency identification(RFID)技術を応用し、肺表面から深い場所に位置する病変に 対しても正確な位置同定を可能とする新しい方法を開発しました。

2.研究プロジェクト
本研究プロジェクトは、京都大学と奈良先端技術大学院大学岡田実教授らによる医工連携により基礎技術を 確立した後に、2014 年には京都大学医学部附属病院臨床研究総合センターの流動プロジェクト 2015 年から AMED 橋渡し研究加速ネットワークプログラム (研究課題 RFID マイクロチップを用いた微小がん標識 手 術ナビゲーションシステムの開発)の支援を受け、株式会社ホギメディカル、朝日インテック株式会社、株式 会社ウェルキャット、株式会社村田製作所を加えた産官学研究開発体制のもとで開発に成功したものです。 PMDA や厚生労働省関係部局のご協力もあり、迅速な承認プロセスを経て、2018 年 12 月に高度管理医療機 器として日本国内の医療機器承認 (販売名 :シュアファインド)を取得し、今回、世界初の臨床使用となりま した。

3.今回おこなった手術方法
手術前に RFID マイクロチップ (1)を気管支鏡用デリバリーシステム (2)を用いて経気管支的に病変の近く に留置します。全身麻酔下にアンテナを患者さんの胸腔内に挿入し、肺内に留置された RFID マイクロチップ へ近づけると、検知システム(3)が病変の位置を表示します。外科医はアンテナの位置と表示を参考に微小 肺癌を切除します。開発されたマイクロチップは、色素を肺表面から確認する従来法とは異なり、肺内で狙っ た部位に固定することができますので、腫瘍が肺表面から離れた部位に存在していても、深さを含めた正確な 病変位置がわかります。早期肺癌患者において不要な CT 検査による経過観察 放射線曝露を削減し、より低 侵襲かつ患者様の肺機能を温存する小さな切除 即ち正確な楔状切除術の実現が可能となります。比較的安価 な装置で人体に無害な弱電機器であり、患者さんや外科医が被曝することもなく手術を安全に行う事ができま す。

4.波及効果、今後の予定
今後は、京都大学、福岡大学をはじめとした多施設共同での臨床研究を行い、この RFID マイクロチップを 利用した肺癌手術のより良い適応を見定めて普及をめざす予定です。また、このマーキング方法は呼吸器外科 領域だけでなく、乳腺外科、消化管外科などの他領域においても有効である可能性が示されております。海外 においても注目されている技術であり、日本発の医療機器として世界への普及も目標としています。

<研究者のコメント>
本研究は、回転寿司から交通系カードまで、日常生活に多用されている RFID マイクロチップを応用した医 療機器です。京都大学をはじめ沢山の方々の協力のもとに、開発された画期的な製品です。胸腔鏡手術におい て深い位置に存在する小さな肺癌の位置をわかりやすくするだけでなく、切除すべき気管支などを正確に教え てくれます。今後、国内だけでなく、世界の沢山の肺癌患者さんの手術で役立ってくれることを望んでいます。

<関連論文のタイトルと著者>
タイトル :Three-dimensional Navigation for Thoracoscopic Sublobar Resection Using a Novel Wireless Marking System.
著 者: Yutaka Y, Sato T, Date H
掲 載 誌: DOI: Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2018 Summer;30(2):230-237.

タイトル:Localizing small lung lesions in video-assisted thoracoscopic surgery via radiofrequency identification marking.
著 者: Yutaka Y, Sato T, Date H
掲 載 誌: DOI: Surg Endosc. 2017 Aug;31(8):3353-3362.

タイトル:Development of a novel marking system for laparoscopic gastrectomy using endoclips with radio frequency identification tags: feasibility study in a canine model.
著 者: Kojima F, Sato T, Date H
掲 載 誌: DOI: Surg Endosc. 2014 Sep;28(9):2752-9..

タイトル:A novel surgical marking system for small peripheral lung nodules based on radio frequency identification technology: Feasibility study in a canine model.
著 者: Kojima F, Sato T, Date H
掲 載 誌: DOI: J Thorac Cardiovasc Surg. 2014 Apr;147(4):1384-9.

タイトル:Thoracoscopic surgery support system using passive RFID marker.
著 者: Takahata H, Okada M,Sugiura T, Sato T, Oshiro O
掲 載 誌: DOI: Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc. 2012;2012:183-6..

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