卵巣の加齢性変化を制御する遺伝因子~妊孕性温存のための治療応用に期待~

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2021-08-19 理化学研究所,東京大学,静岡県立総合病院,静岡県立大学

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、糖尿病・代謝ゲノム疾患研究チームの堀越桃子チームリーダーらの国際共同研究グループは、40歳から60歳の間に自然閉経した約20万人のヨーロッパ人女性対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)[1]を行い、卵巣の加齢性変化に関わる290の疾患感受性領域(遺伝子座)[2]を同定しました。

本研究成果は、女性の生殖機能の維持や妊孕(よう)性[3]温存に対しての治療標的となり、女性の生殖可能期間延長のための治療法開発につながるものと期待できます。

今回、国際共同研究グループは、20万1323人のヨーロッパ人女性を対象にGWASを行い、自然閉経年齢(卵巣の加齢性変化)に関わる290の遺伝子座を同定しました。その結果から、早発卵巣不全(POI)[4]のリスクを予測できることを明らかにしました。さらに、それらの遺伝子座が幅広いDNA損傷応答(DDR)[5]プロセスにより生殖可能期間に関連していることが分かりました。

本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(8月4日付)に掲載されました。

背景

過去150年の間に日本女性の平均寿命は45歳から85歳に延びましたが注1)、閉経年齢は50~52歳で変化していません注2)。卵子の持つ遺伝子の健全性は年齢とともに減少し、自然な生殖能力は閉経の約10年前(つまり40歳~42歳)に停止します。近年は高齢出産を選択する女性が増えており、体外受精などの不妊治療や、卵子のもととなる卵母細胞や卵巣組織の凍結保存を行う女性が増えています注3,4)

ところが、卵子や卵巣組織の採取は侵襲性が高い上に、凍結された成熟卵子を融解して体外受精に用いる場合、妊娠する確率は6.5%程度であり、母体年齢が高いほど妊娠の確率は低下するという問題があります注5)

しかし、その生物学的メカニズムや、生殖能力を長く維持するための治療法についてはよく分かっていません。

注1)Christensen, K., Doblhammer, G., Rau, R. & Vaupel, J. W. Ageing populations: the challenges ahead. Lancet (London, England) 2009; 374, 1196-208.

注2)InterLACE Study Team. Variations in reproductive events across life: a pooled analysis of data from 505 147 women across 10 countries. Hum. Reprod. 2019; 34, 881-893.

注3)Donnez, J. & Dolmans, M.-M. Fertility Preservation in Women. N. Engl. J. Med. 2017; 377, 1657-1665.

注4)Yding Andersen, C., Mamsen, L. S. & Kristensen, S. G. FERTILITY PRESERVATION: Freezing of ovarian tissue and clinical opportunities. Reproduction 2019; 158, F27-F34.

注5)Argyle, C. E., Harper, J. C. & Davies, M. C. Oocyte cryopreservation: where are we now? Hum. Reprod. Update 2016; 22, 440-9.

研究手法と成果

国際共同研究グループはまず、40歳から60歳の間に自然閉経した20万1323人のヨーロッパ人女性のゲノムを用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行いました。この結果、自然閉経年齢(卵巣の加齢性変化)と関連する290領域の遺伝子座を同定しました。さらに、バイオバンク・ジャパン[6]に登録されている日本人女性4万7140人を含む閉経年齢のデータから、一塩基多型(SNP)[7]と閉経年齢の関連の強さについて再現性を確認したところ、290領域のうち多くが再現されていましたが、いくつかの領域では関連の強さを示す効果量とアレル頻度[8]に人種による大きな違いがありました。

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