ハンドウイルカがおたがいに協力しあうことを発見

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2019-10-25 京都大学

山本知里 霊長類研究所・日本学術振興会特別研究員、友永雅己 霊長類研究所教授、酒井麻衣 近畿大学講師、大塚美加 かごしま水族館主査、柏木伸幸 同飼育員の研究グループは、ハンドウイルカがおたがいに動きのタイミングを調整することで協力しあい、問題を解決できることを明らかにしました。

本研究では、平田聡 野生動物研究センター教授がチンパンジーの協力行動を調べるために開発したひも引き課題をイルカ用に応用した課題を導入しました。この課題は、台に通されたひもの両端を2個体が同時に引くと台の上に置かれたボール(報酬)を得ることができるというものです。かごしま水族館に暮らすハンドウイルカを対象に、この課題を用いて、2頭のイルカが別々のタイミングでこの装置の方に泳ぎだした時、どのようにお互いの行動を調整するのかを調べました。

その結果、先に泳ぎだした個体は後から来た個体を待ってからひもを引くことがわかりました。さらに、後から来た個体は先に出発した個体との時間的なズレにあわせて泳ぐ速さを変えていることも明らかとなりました。また、2頭がひもを引くタイミングの差が徐々に短くなることもわかりました。これらの結果から、ハンドウイルカは2本のひもを一緒に引く必要性を認識し、2頭がおたがいに行動を合わせているのだと言えます。

本研究成果は、協力行動が哺乳類の中でどのように進化してきたのかを知るための、重要な知見であると考えられます。

本研究成果は、2019年10月2日に、国際学術誌「PeerJ」に掲載されました。

ハンドウイルカがおたがいに協力しあうことを発見

図:実験に用いた装置(左)とロープを一緒に引くイルカたち(右)

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.7717/peerj.7826

【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/244386

Chisato Yamamoto, Nobuyuki Kashiwagi, Mika Otsuka, Mai Sakai and Masaki Tomonaga1 (2019). Cooperation in bottlenose dolphins: bidirectional coordination in a rope-pulling task. PeerJ, 7:e7826.

詳しい研究内容について

ハンドウイルカがおたがいに協力しあうことを発見

概要
京都大学霊長類研究所 山本知里 日本学術振興会特別研究員、同霊長類研究所 友永雅己 教授、近畿大学農 学部水産学科 酒井麻衣 講師、かごしま水族館 大塚美加 主査、同水族館 柏木伸幸 飼育員の研究グループは、 ハンドウイルカがおたがいに動きのタイミングを調整することで協力しあい、問題を解決できることを明らか にしました。
本研究では、京都大学野生動物研究センター平田聡教授がチンパンジーの協力行動を調べるために開発した ひも引き課題をイルカ用に応用した課題を導入しました。この課題は、台に通されたひもの両端を 2 個体が同 時に引くと台の上に置かれたボール 報酬)を得ることができるというものです。かごしま水族館に暮らすハ ンドウイルカを対象に、この課題を用いて、2 頭のイルカが別々のタイミングでこの装置の方に泳ぎだした時、 どのようにお互いの行動を調整するのかを調べました。その結果、先に泳ぎだした個体は後から来た個体を待 ってからひもを引くことがわかりました。さらに、後から来た個体は先に出発した個体との時間的なズレにあ わせて泳ぐ速さを変えていることも明らかとなりました。また、2 頭がひもを引くタイミングの差が徐々に短 くなることもわかりました。これらの結果から、ハンドウイルカは 2 本のひもをいっしょに引く必要性を認識 し、2 頭がおたがいに行動を合わせているのだと言えます。本研究の成果は協力行動が哺乳類の中でどのよう に進化してきたのかを知るための、重要な知見であると考えられます。
本成果は、2019 年 10 月 2 日に国際学術誌「PeerJ」に掲載されました。


図 実験に用いた装置 (左)とロープをいっしょに引くイルカたち( 右)

1.背景
共同での狩りや子育てなど、さまざまな協力が多くの動物で報告されています。しかしこのような協力がパ ートナーの役割を理解したうえで起こっているのかについては、いまだに議論が続いています。動物がどのよ うな認知能力に基づいて協力するのかを調べるために作られたのが、2頭がいっしょに操作したときだけ報酬 がもらえる装置です。チンパンジー、ゾウ、イヌなどは、2頭が別々のタイミングで装置に近づいたとき、後 から来る個体を待つ一方で、カラスの仲間やカワウソなどは、後から来る個体を待てないことが分かっていま す。ただし、これまで調べられてきた動物種は限られているため、協力行動がどのように進化してきたのかを 明らかにするには、さらに多くの動物で調べなくてはなりません。
ハンドウイルカはオスが同盟をつくったり、いっしょにエサをとったりすることが知られています。ハンド ウイルカを対象としたこれまでの実験から、イルカはパートナーの役割を理解しているのではないかと考えら れています。しかしその実験で使われた装置は複雑で、イルカの学習に影響を与えている可能性があります。 そこで本研究ではしくみがより簡単な装置を使いました。この装置は、台に通されたひもの両端を 2 個体が同 時に引くと台の上に置かれたボールを得ることができるというもので、「ひも引き課題」と呼ばれています。 2頭が別々のタイミングで装置の方に泳ぎ出したとき、どのように行動を合わせるか調べました。

2.研究手法・成果
本研究は鹿児島市にある 「いおワールドかごしま水族館」において実施されました。かごしま水族館に暮ら すハンドウイルカ 3 頭 2 ペアを対象に、次のような 「ひも引き課題」実験を行いました。ボールがのった台に 1 本のロープを通します。そのロープの両端を2頭がいっしょに引いた時だけボールが水中に落ちます。イル カはボールをトレーナーに渡すと、代わりに魚をもらえます。しかし、片方のロープだけを一定以上引くと失 敗となり、イルカは魚をもらえません。なお、今回実験に参加したイルカは、ラスキー オス・3 歳)、チーク メス・10 歳)、マール メス・18 歳)で、ペアはラスキー・チークとマール・チークの 2 ペアです。3 頭と も本実験のような社会認知的な実験は未経験でした。実験は2頭が一緒に装置に向かって泳ぎ始める同時条件 と、別々のタイミングで泳ぎ始める遅延条件 2 頭が出発するタイミングの差は 3 秒、5 秒、8秒の 3 条件) で行いました。先に出発する個体は、ラスキー・チークペアではラスキー、マール・チークペアではマールで す。
同時条件の前半では成功率が 50%以下と低かったラスキー・チークペアですが、実験後半では成功率は 80% 以上まで上がりました。このとき2頭は、泳ぐスピードやひもを引くタイミングを調整していました。ラスキ ー・チークペアは、全ての遅延条件において 85%以上の高い成功率を示しました。このとき、先に出発したラ スキーがロープを引くまでの時間は、同時条件と比べ平均3秒ほど長くなったことから、後から来るチークを 待っていると考えられます。一方、マール・チークペアの遅延条件前半の成功率は、遅延時間が 3 秒のときは 80%と高かった一方、5 秒と 8 秒では 50%以下と低かったです。しかし後半はいずれの秒数でも 90%以上の高 い成功率を示しました。先に出発したマールがロープを引くまでの時間は、遅延条件前半では同時条件と差が ありませんでしたが、後半では平均 2 秒ほど長くなりました。マールは実験後半では相手を待つようになった と言えます。後から出発するチークの泳ぐ速さは、マールがすぐにロープを引くときほど速くなったことから、 チークは先に出発した個体との時間的なズレににあわせて泳ぐ速さを変えていることがわかりました。このペ アでは、2頭がロープを引き始めるタイミングの差は、だんだんと短くなりました。これらの結果から、ハン ドウイルカは2本のロープをいっしょに引くことが必要であることを認識し、おたがいに行動を合わせている と考えられます。

3.波及効果、今後の予定
野生のハンドウイルカ類はいっしょにエサを捕まえたり、メスと交尾できる機会を増やすためにオスが同盟 を作ったりすることが知られています。今回の認知実験では、ハンドウイルカがおたがいに行動を調整し、協力課題を達成できることがわかりました。これはペアのうち片方の個体だけが行動を調整するチンパンジーや オランウータンとは異なる結果です。本結果は哺乳類のなかで協力行動がどのように進化したかを知るうえで、 重要な知見になると考えられます。しかし、ヒトのようにイルカもかけ声などを使って、おたがいの意図を共 有できるのかなど、まだ不明な点も多くあります。今後さらに研究を進めることで明らかにしていきたいと思 います。

4.研究プロジェクトについて
この研究は京都大学霊長類研究所および野生動物研究センターと公益財団法人鹿児島市水族館公社との学術 交流協定のもと実施されました。また、以下の資金助成、協力を受けておこなわれました。
● 科学研究費補助金 基盤研究(S) (15H05709)
研究課題「野生の認知科学:こころの進化とその多様性の解明のための比較認知科学的アプローチ」
研究代表者:友永雅己
● 特別研究員奨励費 (17J02427)
研究課題「ハンドウイルカにおける社会的知性に関する比較認知科学的研究」
特別研究員:山本知里
● 科学研究補助金 若手研究(B) (16K17367)
研究課題「行動とホルモンレベルを指標としたイルカのストレスと心理学的幸福の評価手法の開発」
研究代表者:酒井麻衣
● 京都大学野生動物研究センター共同利用・共同研究(2016-自由-3)
研究課題「飼育ハンドウイルカの協力行動」
研究代表:山本知里

<研究者のコメント>
本研究において先に泳ぎだした個体と後から出発した個体の両方が、報酬を得るために行動を調整したこと は、今のところハンドウイルカのみに確認された特徴です。社会の形が協力の進化にどのように影響したかを 考えるうえで興味深いと考えています。今後、協力中のコミュニケーションやパートナーの選択などさらに研 究を進めることで、本種がどのような認知機能に基づき協力しているか明らかにしたいと思います。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Cooperation in bottlenose dolphins: bidirectional coordination in a rope-pulling task (ハンドウイルカの協力:ひも引き課題において2個体が互いに行動を調整する)
著 者:山本知里、柏木伸幸、大塚美加、酒井麻衣、友永雅己
掲 載 誌: PeerJ
DOI:10.7717/peerj.7826

生物環境工学
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