神経回路形成の基本原理に見直しを迫る

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百年を超えて信じられてきた神経回路形成の基本原理に見直しを迫る

2017-12-4 国立遺伝学研究所

本研究では、腹側正中線並びに脳室帯特異的に軸索誘導分子ネトリン1(Ntn1)を欠損したマウスを作成し(Ntn1FP-Ko, Ntn1VZ-Koマウス)、脳室帯に由来するNtn1こそが、交連軸索の腹側伸長に必要不可欠であることを示しました。この結果は百年を超えて信じられてきた神経回路形成の基本原理に見直しを迫るものです。

今から一世紀以上も前に、スペインの神経解剖学者Cajalは、神経管背側から腹側正中線へと伸長していく交連軸索の観察から、「軸索は標的由来の拡散性化学物質を検出することにより標的へと到達する」という化学走性説を提唱しました。Ntn1は交連軸索標的の腹側正中線に発現し、交連軸索に対して誘引活性を示すことから、Cajalの提唱した化学走性説の責任分子として考えられてきました。しかしながらNtn1は、交連軸索伸長経路の近傍の脳室帯にも発現するため、交連軸索の腹側伸長は、腹側正中線ではなく脳室帯に由来するNtn1により、制御されている可能性が残されていました。この問題に取り組むため、私達は脳室帯特異的、腹側正中線特異的にNtn1を欠損するマウスを作成しました。化学走性説が真であるならば、標的由来のNtn1、即ち腹側正中線に発現するNtn1を除去した場合、交連軸索の腹側伸長が阻害されるはずです。しかしながら、腹側正中線特異的にNtn1を欠損させたマウスでは、交連軸索の腹側伸長にほとんど影響は見られず、一方で脳室帯特異的にNtn1を欠損させたマウスでは、交連軸索の多くは、腹側正中線へと伸長できませんでした(図参照)。これらの結果は、交連軸索の腹側伸長は、Cajalの唱えた化学走性説では説明できず、脳室帯由来のNtn1が局所的な作用により制御されていることを示唆しています。

Figure1

腹側正中線、脳室帯からNtn1の発現を除去した際の後脳交連軸索の走行。腹側正中線からNtn1の発現を除いた場合、交連軸索は腹側正中線(VM)へと伸長する(左図矢頭)。一方で、脳室帯からNtn1の発現を除去した場合、交連軸索は腹側正中線へと到達できない(右図)。交連軸索は脂溶性色素DiIにより標識した。

脳機能研究部門・平田研究室

Netrin-1 Derived from the Ventricular Zone, but not the Floor Plate, Directs Hindbrain Commissural Axons to the Ventral Midline

Kenta Yamauchi, Maya Yamazaki, Manabu Abe, Kenji Sakimura, Heiko Lickert, Takahiko Kawasaki, Fujio Murakami, and Tatsumi Hirata

Scientific Reports, DOI:10.1038/s41598-017-12269-8

生物化学工学
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