脳全体にセロトニン神経軸索を分散させるしくみ

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形質遺伝研究部門・岩里研究室

Protocadherin-αC2 is required for diffuse projections of serotonergic axons

Shota Katori, Yukiko Noguchi-Katori, Atsushi Okayama, Yoshimi Kawamura, Wenshu Luo, Kenji Sakimura, Takahiro Hirabayashi, Takuji Iwasato & Takeshi Yagi

Scientific Reports, 7, Article number: 15908 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-16120-y

底面が水平な浴槽にコップ一杯の水を入れて水を隅々まで行き渡らせることはできません。なぜなら水分子が互いに引き寄せあって水たまりをつくってしまうからです。水を隅々まで行き渡らせるためには、上から均等に圧力をかけるなど何らかの工夫が必要です。

摂食、睡眠、性行動、攻撃性、情動、記憶学習など様々な脳機能に関与するセロトニンという神経修飾物質は脳全体に必要ですが、セロトニン神経の細胞体(DNAを含む核やタンパク質合成が行われる小器官を含む部分)は脳の深部である脳幹の正中部分にしかありません。いかにしてセロトニンを脳全体に届けているのでしょうか。脳幹正中部にあるセロトニン神経は軸索という神経突起を脳全体に伸ばし、ある程度均一に分布させることで、脳全体にセロトニンを供給していると考えられます。しかし、セロトニン神経の軸索を脳全体に分布させるメカニズムについてはよくわかっていませんでした。

香取らは以前に大阪大学八木健研究室にてプロトカドヘリンαファミリー(14種類からなる細胞膜貫通タンパク質群)を欠損したマウスではセロトニン神経の軸索の分布異常(局所的な過密化と過疎化)が見られることを報告していました(Katori et al., J Neurosci 2009)。今回の研究では解析をさらに進めて、プロトカドヘリンαファミリーの一つのタイプであるαC2をセロトニン神経で欠損させたマウスを作製したところ、セロトニン神経の軸索分布が異常となりました。一方、プロトカドヘリンαの他のタイプを欠損させたマウスのセロトニン神経軸索の分布は正常でした。セロトニン神経軸索の詳細な形態解析から、αC2がセロトニン神経軸索の過密化を抑制し、分散させるために必要であることを明らかにしました(図)。αC2を持つセロトニン神経軸索同士が接触すると、そこでの軸索伸長を抑制し、軸索密度の低い場所に軸索を伸長させることで脳全体に軸索を分散させていると考えられます。プロトカドヘリンα遺伝子はヒトの神経疾患との関連が示唆されていることから、本研究の成果はセロトニン神経が関与する神経疾患の解明につながることが期待できます。

本研究は香取将太研究員(現福井大学特命助教)が中心となって行ったものであり、大阪大学大学院生命機能研究科、国立遺伝学研究所、新潟大学脳研究所の共同研究として行われました。

Figure1

図:マウスの嗅球(嗅覚に関与する脳領域)でのセロトニン神経軸索の分布。セロトニン神経の軸索(ピンク)は野生型(左)では層全体にほぼ均一に分布するが、プロトカドヘリンαC2欠損型(右)では一部の層(顆粒細胞層)で過密化し、他の層では過疎化する。過密化した層ではセロトニン神経軸索同士が近接している様子が観察できる(拡大図)。

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