1種類のモノマー単位で交互共重合体の合成に成功 ~異なる側鎖の配列制御で液晶性を発現~

ad

2020-01-15   京都大学,科学技術振興機構

タンパク質は、アミノ酸という1種類の繰り返し主構造がたくさんつながった高分子であり、さまざまな側鎖構造を組み合わせ、側鎖の並びすなわち配列(シークエンス)を制御して機能を発現しています。

近年、タンパク質のような高度な機能を有する高分子の開発を目指して、配列を制御した合成高分子の研究が注目を集めています。これまでに京都大学 大学院工学研究科 大内 誠 教授の研究グループは2種類のモノマー注1)の側鎖をあらかじめつなぎ、その環化重合注2)を行った後に、つないでおいたスペーサーを変換することで2種類のモノマー単位が交互に配列した共重合体(交互共重合体)を合成する手法を開発してきました。しかし、選択的な環化成長を制御するために異なるモノマー種を組み合わせる必要があり、結果として主構造が異なる繰り返し単位から成る交互共重合体の合成に限られていました。

今回、同研究グループの大内 誠 教授、亀谷 優樹 同博士課程学生らは、環化重合後の変換によって主構造が1種類の繰り返し単位(アクリルアミド)になるようにモノマーを設計し、交互配列の制御されたポリアクリルアミド注3)の合成に成功しました。重合後の溶液にアミン化合物を添加するだけで、アミノリシス反応注4)によってスペーサー変換が可能であり、10種類の交互共重合体の合成に成功しました。

また、フランスのパリ市立工業物理化学学校(ESPCI Paris)のフランソワ・トゥーニヤック CNRS研究員との共同研究によって、長鎖アルキル基を導入すると、交互共重合体が液晶注5)性を示すことを明らかにしました。同じ組成のランダム共重合体は液晶性を示さなかったことから、配列制御によって新しい特性を発現することが分かりました。他に配列特異的な温度応答性注6)挙動も見いだしました。

本成果は、2020年1月14日にドイツの国際学術誌「Angewandte Chemie」にオンライン掲載されました。

本研究は、下記の支援を受けて行われました。

JST 国際科学技術共同研究推進事業 戦略的国際共同研究プログラム(SICORP) 日本-フランス共同研究

研究領域:分子技術

研究課題名:「配列制御高分子による革新材料の創出」

研究代表者:大内 誠

研究期間:2015年11月~2019年3月

科研費 新学術領域研究

研究領域:分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製

研究課題名:「ハイブリッド触媒による高分子配列科学の新展開」

研究代表者:大内 誠

研究期間:2017年6月~2022年3月

科研費 基盤研究A

研究課題名:「側鎖配列制御ポリマーの精密合成とシークエンス機能の創出」

研究代表者:大内 誠

研究期間:2019年4月~2023年3月

<背景>

我々の体を構成するタンパク質は20種以上のアミノ酸をモノマーとする高分子です。その構造をみると、繰り返し単位の主構造(アミノ酸)は1種類でありながら、複数の側鎖を組み合わせ、その並び方、すなわち配列(シークエンス)が完全に制御されています。さらに配列に基づいて特定のかたちを形成し、かたちに基づいて高度な機能を発現しています。

一方、ラジカル重合に代表される連鎖重合によって、炭素―炭素二重結合を有する化合物をモノマーとして重合することで合成高分子(ポリマー)が得られます。ここで、複数のモノマーを組み合わせて重合することを共重合、さらに共重合で得られる高分子は共重合体と呼ばれます。共重合体は我々の身の回りにある高分子材料で多く使われています。それはある特性を担うモノマーAと別の特性を担うモノマーBを組み合わせることで、両性質を併せ持った高分子を合成できるためです。

ここで、ある方法で算出されているモノマー反応性比という値が分かれば、共重合性を予測することが可能です。例えば、主構造が同じで側鎖構造が異なるモノマー(アクリレート、アクリルアミド、スチレンなど)を組み合わせた場合は、モノマー反応性比は1に近くなり、ランダム共重合が進行します。この場合、仕込みのモノマー量比とほぼ同じ組成比の共重合体が合成できるために、平均的な数の比で特性をチューニングすることが容易です。しかし、両モノマーの反応性が同じなのでABABAB・・・のように周期的に並べたり、両モノマーを思い通りに並べたりすることは不可能で、両モノマー単位がランダムに導入されたランダム共重合体が得られるのみです。一本の高分子鎖の中に配列の周期性はなく、高分子鎖間で配列が異なり、さまざまな配列を有する高分子鎖の混ざりものとなります。天然では20種類ものモノマーを用いて配列を制御しているにもかかわらず、合成では2種類のモノマーですら配列を制御するのは難しいのです(図1)。

一方、両モノマーの電子密度の差が大きく、モノマーの主構造が極端に異なる場合、例えばスチレンと無水マレイン酸を組み合わせると、モノマー反応性比は0に近くなり、交互共重合が進行します。この場合、ABABAB・・・と交互に並んだ交互共重合体が得られ、鎖内の周期性があり、鎖間の配列パターンが同じになります。しかし、主構造が大きく異なるので、主鎖構造に対する配列制御となります。また、交互共重合は数少ない限られたモノマーの組み合わせでしか進行しません。

近年、生体高分子のような高度な機能を有する高分子の開発を目指して、高分子合成の分野では配列を制御する研究が活発化しています。世界中の研究グループから配列制御した高分子の合成例が報告されていますが、繰り返し単位の主構造が1種類で、側鎖の配列を制御した例はありませんでした。もし、タンパク質のような側鎖配列制御が可能になれば、従来の共重合体に対する構成モノマーの平均的な数で決まる物性を超えて、配列が根幹となる物性や機能の発現、ひいては革新的な材料の創出が期待されます。

<研究の内容>

本研究グループは、これまでに、2種類のモノマーの側鎖をあらかじめつないでおき、その環化重合を行った後に、つないでおいたスペーサーを切断(変換)することで交互共重合体を合成する手法を開発し、数種類の交互共重合体を合成してきました。しかし、選択的な環化成長を制御するために基本構造の異なるモノマー種を組み合わせる必要があり、結果として主構造の異なるユニットの交互配列制御に限られていました。

本研究ではスペーサー切断によって同じ種類の繰り返し単位(アクリルアミド)に変換され、さらに選択的な環化成長が進行するようにジビニルモノマー1を設計し、配列の制御されたポリアクリルアミドの合成に成功しました。生成した環化ポリマーを単離せずに、重合後の溶液にアミン化合物を添加するだけで、アミノリシス反応による変換が可能であり(ワンポット合成注7))、さまざまなアミン化合物を用いて10種類の交互共重合体の合成に成功しました(図2)。

本手法はアミノの置換基Rによって交互共重合体の特性を変えることが容易であり、置換基によっては水や有機溶媒中で温度応答性を示すことが分かりました。また、フランスの研究グループとの共同研究によって、長鎖アルキル基を有するアミン(オクタデシルアミン)を反応させた交互共重合体は液晶性を示すことを明らかにしました。この場合、1:1のランダム共重合体は液晶性を示さなかったことから、配列制御によって新たな特性が発現したと考えられます。

<今後の展開>

重合後にアミン化合物を添加するだけで、アミン化合物由来の置換基を導入できますので、さまざまな交互共重合体を合成可能です。今後は配列が特性や機能の根幹となる構造材料や生体材料の開発を検討する予定です。

<参考図>

1種類のモノマー単位で交互共重合体の合成に成功 ~異なる側鎖の配列制御で液晶性を発現~
図1

図2
図2

図3

図3

<用語解説>
注1)モノマー
モノマーを重合するとポリマー(高分子)になる。一般的な重合では、炭素―炭素二重結合を有する化合物をモノマーとして用いる。例えばエチレン(CH=CH)を重合するとポリエチレンに、スチレン[CH=CH(C)]を重合するとポリスチレンになる。
注2)環化重合
ジビニルモノマーを低濃度かつ適切な条件で重合すると、分子内と分子間の成長反応が交互に起こり、主鎖中に環を形成しながら重合が起こる。このような重合は環化重合と呼ばれる。
注3)ポリアクリルアミド
アクリルアミドと呼ばれるモノマーが多数結合した高分子(ポリマー)をさす。

図3

注4)アミノリシス反応
アミン化合物が反応することで、結合が開裂する反応。例えば、エステル結合を有する化合物にアミン化合物が反応することで、アルコール分子の脱離を伴ってエステル結合がアミド結合に変換される反応が挙げられ、ペプチド合成に用いられる。
注5)液晶
固体と液体の中間にある物質の状態をさす。流動性を示しながら秩序構造を有する。液晶性を示す分子はメソゲンと呼ばれ、異方性(物性が方向によって異なること)を発現するような分子構造を有する。芳香族環などのかたい剛直性基とやわらかい屈曲性基を有することが多い。高分子液晶も古くから研究されており、主鎖や側鎖にメソゲン様の構造を有する高分子は液晶性を示すことが知られている。
注6)温度応答性
ある種の高分子は温度に応答して溶液中の構造を変化させ、劇的な溶解性の変化を示す。代表的な温度応答性高分子として、イソプロピル基を側鎖に有するアクリルアミド[N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)]をラジカル重合して得られるポリマー、PNIPAMが挙げられる。このポリマーは低温では水和して水に溶解するが、その水溶液を人間の体温付近まで温めると溶解しにくくなり、水溶液が濁る。このような温度応答性高分子は薬物輸送や細胞シートの材料として用いられている。
注7)ワンポット合成
生成物を単離せずに反応容器に反応物を順次加えることで多段階の合成を行う合成手法。合成に必要な時間や工程を減らして効率的に目的物を得ることが可能であり、合成の実用性向上に重要である。
<研究者のコメント>

共同研究者であるフランスの研究者が来日した際に、得られた共重合体の特性を調べた生の実験データを見ながら共にディスカッションをするなか、あるスペクトルで小さなピークの存在がクローズアップされました。そこからフランスへのサンプルの送付とSkypeディスカッションを繰り返し、配列を制御することで液晶性が発現することを明らかにしました。合成高分子において、配列がここまで高分子特性に大きく影響を与えた例はありません。国際共同研究によって成果を出せたことを嬉しく思っております。

<論文タイトル>
“Unprecedented Sequence Control and Sequence-Driven Properties in A Series of AB-Alternating
Copolymers Consisting Solely of Acrylamide Units”
(アクリルアミド単位のみからなるAB交互共重合体:前例のない配列制御と配列由来特性)
著者:Yuki Kametani, François Tournilhac, Mitsuo Sawamoto and Makoto Ouchi
DOI:10.1002/anie.201915075
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

大内 誠(オオウチ マコト)
京都大学 工学研究科 高分子化学専攻 教授

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 国際部

<報道担当>

京都大学 総務部 広報課 国際広報室

科学技術振興機構 広報課

有機化学・薬学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました