PD-1抗体がん免疫治療の有効性を判別するバイオマーカーを同定

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血液検査のみで有効性の診断が可能に

2020-01-31 京都大学

本庶佑 高等研究院副院長・特別教授、茶本健司 医学研究科特定准教授、波多江龍亮 同研究員(現・九州大学助教)らの研究グループは、肺がん患者の血液でPD-1阻害抗体の効果を判定する方法を発見しました。

肺がん患者の血中免疫細胞のエネルギー代謝状態や、血漿中の代謝産物に注目し、4項目を調べることでPD-1阻害抗体が効く患者と効かない患者を高い確率で見分けることに成功しました。この方法は血液を使用するため、侵襲性の少ない診断法として期待されます。またPD-1阻害がん免疫治療の有効性を予測できるだけでなく、治療効果を改善するための次の研究につながることも考えられます。

本研究成果は、2020年1月30日に、国際学術誌「JCI Insight」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1172/jci.insight.133501

Ryusuke Hatae, Kenji Chamoto, Young Hak Kim, Kazuhiro Sonomura, Kei Taneishi, Shuji Kawaguchi, Hironori Yoshida, Hiroaki Ozasa, Yuichi Sakamori, Maryam Akrami, Sidonia Fagarasan, Izuru Masuda, Yasushi Okuno, Fumihiko Matsuda, Toyohiro Hirai, and Tasuku Honjo. (2020). Combination of host immune metabolic biomarkers for the PD-1 blockade cancer immunotherapy. JCI Insight, 5(2):e133501.

朝日新聞(1月31日 3面)、京都新聞(1月31日 25面)、産経新聞(1月31日 3面)、日刊工業新聞(1月31日 31面)、毎日新聞(1月31日 27面)および読売新聞(1月31日 29面)に掲載されました。

詳しい研究内容について

PD-1抗体がん免疫治療の有効性を判別するバイオマーカーを同定
-血液検査のみで有効性の診断が可能に-

概要
PD-1 阻害がん免疫治療は有効性の高い新しいがん治療法として世界で注目されています。しかし、無効患者も多く存在し、効く患者と効かない患者を見分けるバイオマーカーの開発が求められています。京都大学高等研究院 本庶佑 特別教授、京都大学大学院医学研究科 茶本健司 特定准教授、波多江龍亮 研究員(研究当時、現:九州大学脳神経外科助教)の研究グループは、肺がん患者さんの血液で PD-1 阻害抗体の効果を判定する方法を発見しました。肺がん患者さんの血中免疫細胞のエネルギー代謝状態や、血漿中の代謝産物に注目し、4 項目を調べることで PD-1 阻害抗体が効く患者さんと効かない患者さんを高い確率で見分けることに成功しました。この方法は血液を使用するため、侵襲性の少ない診断法として期待されます。また PD-1 阻害がん免疫治療の有効性を予測できるだけでなく、治療効果を改善するための次の研究につながることも考えられます。
本研究成果は、2020 年 1 月 30 日に米科学雑誌「JCI Insight」のオンライン版に公開されました(注目の研究(Issue highlight)に選出されました)。

1.背景
PD-1 阻害抗体の登場により末期がん患者の長期有効例や完治例がみられ、がん治療のありかたが大きく変化しました。しかし、無効例も多く存在し、PD-1 阻害抗体治療の効果を予測するバイオマーカーの開発が期待されています。腫瘍免疫は、文字通り腫瘍側と免疫側の両方の要因によって制御されますが、これまでのバイオマーカー探索は、腫瘍側の要因を調べる研究が主であり、免疫側の要因に関する研究は
多くありませんでした。
本庶研究室では PD-1 と PD-L1 の結合を阻害することで、免疫細胞が活性化しがんを縮退するがん免疫治療法の開発を一貫して行ってきました。現在ではこの「PD-1 阻害がん免疫治療法」がヒトの各種がんで幅広く実用化されています。近年、免疫細胞の活性化には免疫細胞のエネルギー代謝状態が深く関係していることがわかってきました。我々は、 PD-1 阻害抗体で治療を受けた肺がん患者さんの血中免疫細胞のエネルギー代謝状態や血中代謝産物を調べることが、PD-1 阻害抗体に無効な患者を見分けるバイオマーカーになるのではないかという仮説を立て検証しました。

2.研究手法・成果
本研究は PD-1 抗体で治療を受けた肺がん患者さんから治療前後の血液を採取して行いました。血液の成分である血漿の 247 項目の代謝産物を調べた結果、PD-1 抗体投与後 4 週までに採取した血漿中の腸内細菌由来代謝産物 (hippuric acid)、エネルギー代謝関連代謝産物 (butyrylcarnitine)、活性酸素関連代謝産物 (cystine, GSSG)から成る4項目の組み合わせが、PD-1 抗体の効果を良く判定できることがわかり
ました(図 1)。さらに血液の免疫細胞の 1 種である T 細胞を調べた結果、治療投与後 2 週までの T 細胞の疲弊度合い、T 細胞ミトコンドリアの活性化度合いに関連するマーカーとヘルパーT 細胞頻度から成る合計4項目の組み合わせが、PD-1 阻害抗体の効果を非常に良く判定できることがわかりました(図 2)。相関解析の結果、これらの血漿中の代謝産物と T 細胞の活性化及びエネルギー代謝状態は強く相関していることも確認しました。これら強い相関関係により、調べた全代謝産物と全 T 細胞マーカーから、最終的には上記の T 細胞マーカー4項目が最も判定効果の高いバイオマーカーとして選ばれました。以上の結果は、患者さんの血液を調べることで免疫細胞の活性化とエネルギー代謝状態がわかり、PD-1 阻害抗体の効果予測ができる可能性を示しています。

3.波及効果、今後の予定
有効なバイオマーカーの開発は患者さんに最適な治療法を提供することにつながります。これまでの腫瘍要因を中心としたバイオマーカーは腫瘍を採取する必要があり、侵襲性が高いものでした。本研究で同定した血液中のバイオマーカーは、患者さんにとって負担が大きくない採血のみで検査が可能であり、実用化に向け大規模な研究が望まれます。

4.研究プロジェクトについて
本成果は、以下の研究費によって得られました。
AMED 18cm0106302h0003(本庶佑)、18lk1403006h0002(茶本健司)
唐奨(本庶佑)
JSPS 科研費 JP16H06149(茶本健司)、17K19593 (茶本健司)、19K17673 (波多江龍亮)

<研究者のコメント>
いち早く研究の成果を患者さんに届けるためには、臨床検体を用いた基礎研究を行うこと、つまり基礎と臨床が融合した垣根のない研究が必要だと思います。本研究では患者さんに優しい有用なバイオマーカーを見つけることができました。臨床現場での実用化までまだ課題も残されていますが、根気強く発展的な研究を続け臨床応用につなげていきたいと思います。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Combination of host immune metabolic biomarkers for the PD-1 blockade cancer immunotherapy
(免疫代謝関連マーカーの組み合わせによる PD-1 阻害がん免疫治療効果予測マーカー)
著 者:Ryusuke  Hatae,  Kenji  Chamoto,  Young  Hak  Kim,  Kazuhir  Sonomura,  Kei  Taneishi,  Shuji Kawaguchi, Hironori Yoshida, Hiroaki Ozasa, Yuich Sakamori, Maryam Arami,Sidonia Fgarasan, Iuru Masuda,Yasushi Ouno Fmihiko Mtsuda, Tyohiro irai, and Tasuku Honjo
掲 載 誌:JCI insight
DOI:https://doi.org/10.1172/jci.insight.133501. (in pressです)

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