トチュウ果皮由来の天然ポリマーの量産化に成功 ~石油由来合成素材からの脱却に向けて~

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2020-02-05    科学技術振興機構

ポイント
  • トチュウ果皮由来のトランス型ポリイソプレンは、化学合成品よりも、平均分子量が大きく分子量制御も容易である。
  • 高純度のトランス型ポリイソプレンを抽出できる大規模の精製装置を開発した。
  • 植物由来の持続可能な新素材として、高付加価値品への応用を足がかりに新規産業への展開を目指す。

JST(理事長 濵口 道成)は、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「植物由来機能性新素材の製造技術」の開発結果を成功と認定しました。この開発課題は、九州大学 生体防御医学研究所附属トランスオミクス医学研究センターの馬場 健史 教授(課題採択時は大阪大学 准教授)らの研究成果を基に、平成26年7月から令和元年6月にかけて日立造船株式会社(代表取締役/取締役会長 兼 取締役社長 谷所 敬、本社住所 大阪市住之江区、資本金454億円)に委託して、同社 機能性材料事業推進室にて事業化開発を進めていたものです。

ポリイソプレンは、ゴム製品などの高弾性樹脂の原料として重要な化学工業物質です。中でもトランス型ポリイソプレン(TPI)は、大部分をナフサなどの石油由来の原料で製造され、ケーブル被覆材やスポーツ、医療用部材として使用されていました。

本開発では、トチュウ果皮より抽出される高性能のTPIであるトチュウエラストマー®の高純度品製造装置開発を目的とし、事業の早期実現を目指しました。しかし石油由来のTPIと比較した際の製造コスト削減が課題となっていました。

日立造船株式会社では、トチュウエラストマー®の特性を考慮して多岐にわたる用途で市場探索を進めると同時に、製造コスト削減に主眼を置いた精製技術の開発を進めました。そしてトチュウ果実から不要な子葉を除去する脱穀手法を採用した結果、分子量分布のばらつきが少なく、高純度品が容易に得られる技術を確立しました。最終的にはトチュウエラストマー®の製造コストを、開発初期に比べて約1/8まで抑えた精製システムの開発(年産10トン相当、抽出純度99.8パーセント)に成功しました。

トチュウエラストマー®の優れた特徴を生かし、化粧品など高付加価値用途の市場において商品開発が進んでいます。

産学共同実用化開発事業(NexTEP)は、大学等の研究成果に基づくシーズを用い、民間企業が単独で事業化することが困難な、開発リスクが高く規模の大きい開発を支援し、実用化を後押しする事業です。

詳細情報 https://www.jst.go.jp/jitsuyoka/

<背景>

中国原産の落葉高木であるトチュウは、葉を杜仲茶、樹皮を生薬として利用されますが、その果皮には天然ゴムの主成分であるシス型ポリイソプレンの立体異性体であるトランス型ポリイソプレン(TPI)が含まれます。このトチュウ果皮由来TPI(トチュウエラストマー®)は、光合成によって植物内に吸収された炭素を利用して合成されます。化学合成によるTPIよりも分子量が1桁多く平均100万を超えるのが特徴で、バイオ素材では珍しい軟質素材として利用できます。トチュウエラストマー®は熱可塑性があり、熱を加えるとゴム素材に変化するなどの特徴があります。また、ほかのバイオ系樹脂との混練が可能であり、硬質バイオ樹脂の代表格であるポリ乳酸に、数パーセント混ぜ練り合わせることで、耐衝撃性の硬質樹脂に加工することができます。本開発では、その成果に基づき事業化に向けた製品仕様を想定し、トチュウエラストマー®の生産技術確立を目指しました。

<開発内容>

開発当初、年産100トン規模のトチュウエラストマー®の抽出や精製を目標に装置の設計、検証を進めました。しかしながら、トチュウエラストマー®の需要を再評価した結果、開発規模を年産10トン程度に限定し、より高純度で生産できる精製装置の開発を目指しました。

工業的な溶媒抽出プロセスを実現するためには、溶解度の向上に加えて、分離、濃縮、溶媒回収までの工程を、最小限のエネルギーで機能させる総合的な技術開発が求められていました。抽出システムについては、再利用や分離精製のしやすさを考慮して多くの候補から最適溶媒の選定を行い、結果1種のエーテル系溶媒による設計を図りました。さらにトチュウ果実を打撃、破砕し、果実の割れた隙間から不要な子葉を除去する脱穀手法を採用したことで、年産10トン規模のトチュウエラストマー®を高効率に抽出できる精製装置の開発に成功しました(図1、図2)。

<期待される効果>

本開発では、開発途中からゴルフボールや3Dプリンターフィラメント(図3)など試作品での市場分析を進めました。そして化粧品など付加価値の高い用途から本格展開することが、市場へのPR効果や採算性の観点からより適切であることが分かりました。トチュウエラストマー®は、植物由来の持続可能な新素材という特徴を持っているため、新たな用途開発の広がりに伴い、地球環境を保全しつつ新産業への貢献が期待されています。

<付記>

日立造船株式会社は、これまでに農林水産省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などのプロジェクトにおいて産業用途の基礎開発を進めてきました。

<参考図>

トチュウ果皮由来の天然ポリマーの量産化に成功 ~石油由来合成素材からの脱却に向けて~
図1 完成させたトチュウエラストマー®精製プロセス(左)および装置(右)

図2 生産規模増大および製造コスト低減の推移

 

図3 3Dプリンターフィラメント、ゴルフボール
図3 3Dプリンターフィラメント、ゴルフボール

<お問い合わせ先>
<開発内容に関すること>

山本 智充(ヤマモト トモミツ)
日立造船株式会社 企画管理本部 経営企画部 広報・IRグループ

<JST事業に関すること>

沖代 美保(オキシロ ミホ)
科学技術振興機構 産学共同開発部

有機化学・薬学
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