アルカロイドを標的としたメタボローム解析手法を開発~薬用資源の効率的な発掘に期待~

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2020-04-23 理化学研究所

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター統合メタボロミクス研究グループの中林亮研究員、斉藤和季グループディレクター、メタボローム情報研究チームの津川裕司研究員、質量分析・顕微鏡解析ユニットの豊岡公徳上級技師らの共同研究チームは、薬用資源として重要なインドールアルカロイド[1]を標的としたメタボローム解析[2]手法を開発し、薬用植物のニチニチソウ[3]を使った実験により、モノテルペンインドールアルカロイド[4]の探索(組成や構造の同定、蓄積分布の可視化)に成功しました。

本研究成果は、医薬品開発に向けたインドールアルカロイドの効率的な発掘に貢献すると期待できます。

今回、共同研究チームは、窒素の安定同位体[5]である15Nで標識した液体肥料で栽培したニチニチソウと通常条件で栽培したニチニチソウの代謝物(メタボロームデータ)を、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)[6]装置で測定しました。得られたデータを用いて、①主成分分析[7]による含窒素代謝物の特定、②インドール骨格から派生するイオン(m/z[8]144.08)とその15N標識イオンの確認、③分子内の窒素数の決定、④分子式の決定を行うことにより、45種のモノテルペンインドールアルカロイドを特定しました。そして、MS/MSスペクトル[6]を用いたネットワーク解析を行うことで、これまでニチニチソウで同定されていなかったアルカロイド「アンチリン」の同定に成功しました。

本研究は、科学雑誌『Analytical Chemistry』のオンライン版(2月21日)に掲載され、本誌のSupplementary Coverに選出されました。

アルカロイドを標的としたメタボローム解析手法を開発~薬用資源の効率的な発掘に期待~

アルカロイドネットワーク解析のイメージ

背景

モノテルペンインドールアルカロイドは、植物をはじめとした天然物に含まれる重要な薬用資源の一つです。このアルカロイドはストリクトシジン[4]を共通の中間体として生合成され、植物界ではこれまでに約3,000種が見つかっています。モノテルペンインドールアルカロイドの中には抗がん活性を示すものも多く、医薬品開発に用いられています。

これらのアルカロイドを探索する手段としては、従来のクロマトグラフィーを中心とした天然物化学的な手法が一般的です。しかし、この手法は長い時間を要することから、より効率的な探索方法が求められていました。質量分析[8]と安定同位体標識を組み合わせたメタボローム解析では、短時間で高精度な代謝物のデータを取得することが可能です。

中林亮研究員らは、これまでにさまざまな植物由来の代謝物の解析を行ってきました注1-3)。今回、共同研究チームは、質量分析と安定同位体標識を組み合わせたメタボローム解析において、インドール骨格を持つアルカロイドから特徴的なイオン(m/z 144.08)が派生することに着目し、モノテルペンインドールアルカロイドを標的としたメタボローム解析手法の開発を試みました。

注1)2019年3月29日プレスリリース「情報科学で生体内の多様なメタボロームを包括的に解明

注2)2017年3月6日プレスリリース「窒素を含む代謝物のメタボローム解析手法を開発

注3)2013年1月17日プレスリリース「硫黄を含んだ代謝物を網羅的に解析する「S-オミクス」を確立

研究手法と成果

共同研究チームはまず、通常条件で栽培したニチニチソウと、15Nで標識した液体肥料で栽培したニチニチソウのメタボロームデータを、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いて網羅的に取得しました。これらのデータを用いて主成分分析を行った結果、標識と非標識のデータはきれいに分離しました(図1A)。このことは、15Nで標識したニチニチソウの含窒素代謝物の14Nが15Nに置換されたこと、つまり15Nでの標識が問題なく行われたことを示しています。

次に、これらのデータを用いて15N標識・非標識の含窒素代謝物のMS/MSスペクトルに、インドール骨格由来のイオン(m/z 144.08)とそれが15Nで標識されたイオンがあるかどうかを調査しました。MS/MSスペクトルでは、インドール骨格由来のイオン(m/z 144.08)は高いシグナル強度として検出される傾向にあります。また、インドール骨格は窒素原子を一つ持っているため、15Nで標識されたイオンのm/z値は非標識のものと比べてm/z値がシフトします(図1B)。これらを指標に分子内の窒素数の決定、分子式の決定を行い、45種のモノテルペンインドールアルカロイドを特定しました。

15N標識および非標識ニチニチソウのメタボローム解析の図

図1 15N標識および非標識ニチニチソウのメタボローム解析

A:メタボロームデータを用いた主成分分析の結果。標識と非標識のデータがきれいに分離している。

B:MS/MSスペクトルの比較解析。インドール骨格由来のイオンの強いシグナルが、15N標識は非標識よりも右側にシフトしている。下の化学式のアスタリスクは15Nを示す。縦軸はシグナル強度、横軸は質量電荷比(m/z)を示す。

次に、これらのモノテルペンインドールアルカロイドの構造の特徴を明らかにするために、MS/MSスペクトルを用いたアルカロイドのネットワーク解析を行いました。似た構造のアルカロイド同士は線で結ばれます。この解析の結果、これらのアルカロイドは構造が互いに似ている群(i)とそうでない群(ii)に分けることができました(図2)。最終的に、これらのアルカロイドのうち標準物質を用いて、i群ではアジュマリシン、キャサランチン、ペリビン、ヨヒンビンを、ii群ではアンチリンを同定しました。

アルカロイドネットワーク解析の図

図2 アルカロイドネットワーク解析

i群:黄や緑の丸がアルカロイドを示す。構造が似ているアルカロイドが多い。アジュマリシン、キャサランチン、ペリビン、ヨヒンビンが同定された。

ii群:構造が似ているアルカロイドが少ない。アンチリンが同定された。

アンチリンは、ニチニチソウでは今回はじめて同定されたことから、ニチニチソウのゲノムにアンチリンの生合成遺伝子が存在していることが示されました。次に、共同研究チームはアンチリンの生合成遺伝子の特定を試みました。ある代謝物の生合成遺伝子を特定するには、まずその遺伝子が多く発現している場所、つまり対象となる代謝物が多く蓄積している器官や組織を特定する必要があります。そこで、アンチリンが多く蓄積している箇所を特定するために、イメージング質量分析[8]を行いました。その結果、アンチリンは根の外皮などに多く蓄積していることが分かりました(図3)。今後、アンチリンが多く蓄積している箇所とそうでない箇所を用いて遺伝子発現解析を行うことで、アンチリンの生合成遺伝子を効率的に絞り込めるようになると期待できます。

ニチニチソウの根(縦断面)におけるアンチリンのイメージング質量分析の図

図3 ニチニチソウの根(縦断面)におけるアンチリンのイメージング質量分析

暖色の部分ほどアンチリンが多い。アンチリンが外皮に多く蓄積していることが分かる。

今後の期待

ニチニチソウに存在するアルカロイドの探索はこれまでも多くなされてきましたが、今回特定されたモノテルペンインドールアルカロイドの多くは、データベースの情報と合致しませんでした。これは、今でもニチニチソウに未同定のモノテルペンインドールアルカロイドが多く存在していることを示しています。今回開発した手法は、水酸基(-OH)やメトキシ基(-OMe)で修飾されたインドール骨格を持つアルカロイドの探索にも適用でき、今後、新しいインドールアルカロイドの効率的な探索が期待できます。

また本研究は、国際連合が2016年に発効した17項目の「持続可能な開発目標(SDGs)[9]」のうち、「3. すべての人に健康と福祉を」「15. 陸の豊かさも守ろう」に貢献するものと考えます。

補足説明

1.インドールアルカロイド
アルカロイドは窒素原子を含む塩基性有機化合物のことで、インドールアルカロイドは、インドール骨格(C8H7N)を持つアルカロイドの総称。薬用資源として医薬品開発に用いられている。

2.メタボローム解析
メタボロームは細胞内で合成された低分子代謝産物の総体を指す。植物における総代謝物質は20万~100万種と考えられている。メタボローム解析とは、このメタボロームを網羅的に測定・解析すること。

3.ニチニチソウ
薬用植物の一種で、モノテルペンインドールアルカロイドを多く含む。学名はCatharanthus roseus。

4.モノテルペンインドールアルカロイド、ストリクトシジン

トリプタミンとセコロガニンから合成されるストリクトシジン(下図参照、Glcはグルコース)を共通の生合成中間体とするアルカロイドの総称。

ストリクトシジンの図

5.安定同位体
原子番号(陽子数)が同じで,質量数(陽子と中性子の数の和)が異なる原子を互いに同位体という。そのうち、安定に存在するものを安定同位体といい、放射線やエネルギーを放出して他の原子に変わる同位体を放射性同位体という。安定同位体の13C、15N、18O、34Sといった原子核は、天然存在比が低いものの安全な同位体核であるため、これらを含んだ化合物を生物に取り込ませることができる。

6.液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)、MS/MSスペクトル
液体クロマトグラフィーにより分離された化合物をイオンに変換し、質量分析装置を用いて化合物の検出および定量を行う。質量分析装置内でイオンを壊し(フラグメント化)、その生成イオン群(プロダクトイオン)を測定することを「MS/MSスペクトルを取得する」という。MS/MSスペクトルの情報から、化合物構造を同定・推定することが可能である。

7.主成分分析
統計学上のデータ解析手法の一つ。多くの変数の特徴を要約する手法。

8.m/z、質量分析、イメージング質量分析
質量分析は、分子をイオン化させイオンの質量電荷比(m/z)を測定することで分子の質量を測定する分析法。イメージング質量分析は対象サンプルの切片上で質量分析を行い、代謝物由来のイオンのm/z値とシグナル強度値を空間的に取得し、シグナル強度値を可視化することで当該代謝物の局在を明らかにする手法。

9.持続可能な開発目標(SDGs)
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴールから構成され、地球上の誰一人として取り残さないことを誓っている。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる。(外務省のホームページから一部改変して転載)

共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター
統合メタボロミクス研究グループ
研究員 中林 亮(なかばやし りょう)
テクニカルスタッフ 森 哲哉(もり てつや)
グループディレクター 斉藤 和季(さいとう かずき)
メタボローム情報研究チーム
研究員 津川 裕司(つがわ ひろし)
(生命医科学研究センター メタボローム研究チーム 研究員)
質量分析・顕微鏡ユニット
テクニカルスタッフ 武田 紀子(たけだ のりこ)
上級技師 豊岡 公徳(とよおか きみのり)

星薬科大学 薬草園
准教授 須藤 浩(すどう ひろし)

研究支援

本研究は、国際科学技術共同研究推進事業 戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)日本学術振興会(JSPS)基盤研究「統合オミクス研究に資する質量分析インフォマティクスによる新規代謝制御機構の解明(研究代表者:津川裕司)」文科省科研費課題 基盤研究(S)「薬用資源植物の化学的多様性のゲノム起源(研究代表者:斉藤和季)」による支援を受けて行われました。

原論文情報

Ryo Nakabayashi, Tetsuya Mori, Noriko Takeda, Kiminori Toyooka, Hiroshi Sudo, Hiroshi Tsugawa, and Kazuki Saito, “Metabolomics with 15N labeling for characterizing missing monoterpene indole alkaloids in plants”, Analytical Chemistry, 10.1021/acs.analchem.9b03860

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ
研究員 中林 亮(なかばやし りょう)
グループディレクター 斉藤 和季(さいとう かずき)

メタボローム情報研究チーム
研究員 津川 裕司(つがわ ひろし)
(生命医科学研究センター メタボローム研究チーム 研究員)

質量分析・顕微鏡解析ユニット
上級技師 豊岡 公徳(とよおか きみのり)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

有機化学・薬学
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